楡家の人びと 第一部 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101131573

感想・レビュー・書評

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  • 時は大正時代。時代の流れのなかで紡がれる楡家の人々の物語。
    物語はその中心地である楡病院の院長にして創始者である楡基一郎の一代記でもある。

    楡基一郎は立志伝中の人である。大ぼらふきの気質にして、終始、躁状態を思わせるようなハイテンションで行動が変人。当時の時勢に乗って衆議院議員にもなるほどの野心家でもある。
    そして、彼を取り巻く家族がまた個性が際立っていてなかなか楽しい。
    印象に残る登場人物では、父・基一郎を尊敬して止まず、偉大な父を厳格に崇め奉っている長女の龍子。
    ぼんやりしていてどこか抜けているが、おませなところもある三女の桃子。
    龍子と桃子に挟まれてどっちつかずの存在である次女・聖子。
    長女・龍子の夫にして「マスオさん」として楡病院を継ぐことになっている徹吉。
    家族ではないが楡病院の事務長として権力をふるい、鶴のように歩く腰巾着の院代・勝俣秀吉などなど。
    この物語の登場人物はどこか何かが変で抜けているか、規律が厳しいあまりやはりどこか変で可笑しみのある人々が次から次と登場してきて、魅力溢れる物語を形作っている。

    物語の始終、どことなくユーモラスな旋律が底流にあって、物語全体に深刻さが欠けているところがまたいい。
    『マンボウ』シリーズでも全開になっていたが、作者に流れるユーモアのセンスがこの大河な物語に彩りを添えている。
    この楡病院の家族はどことなく作者の家族が投射されているように思われ、私は楡基一郎は躁状態の時の作者本人のことかと思っていたら、どうも大ぼらふきだったという祖父がモデルのようですね。(笑)
    これほどの家族の大河な物語にもかかわらず、出だしはあまり登場しない飯炊きの伊助爺さんの豪快な仕事場面というところが、オペラの序曲にも似てわくわく感を醸し出していい。
    特に序盤の病院職員全員を集めての賞与式の場面は、それぞれの個性と病院の雰囲気を端的に伝えてくれていてなかなか楽しかった。

    時代は大正が終わり昭和の第二部に引き継がれる。
    三島由紀夫が絶賛したという本書。第二部の展開が楽しみな限りです。

  • 最近、なぜかちょっと古い日本語に飢えている。
    近頃よく見るつるんとした日本語ではなく、いかにも手で書いたというふうなちょっとごつごつした日本語を。

    しかし1962年に書かれたにしては北杜夫の文章はとても読みやすい部類ではないだろうか。勝手な想像だが。

    じつは本書は最初のほうを少し読んだまま何年も放り出してあった。が、なんとなく手に取って読み出したら今回は止まらなくなって一気に読んだ。

    こんなに面白い本をどうして中途で放り出したのか、過去の自分を問いただしたい。
    著者が尊敬するトーマス・マンの『ブッデンブローク家の人々』にならって書いた年代記だそうだが、私はしきりに映画の『ゴッドファーザー』を思い出した。

    山形に生まれ、東京は青山に精神病院を構えた院長の精神科医、楡基一郎がドン・コルレオーネ。
    基一郎はどこかいかがわしいがカリスマ性があり、その愛想の良さとはったりで病を治してしまうこともある。それなりに職員や患者たちから慕われている。

    彼はとにかく能力を利用できる者を病院に集め、自身の病院を繁栄させることに忙しい。代議士にまでなった。
    それで、「脳病院」にはさまざまな人たちが暮らしている。

    みなが個性的で、どこからが正常で、どこからが患者なのかもわからない。入院費を払わずにずっと病院に暮らしている患者もいる。何をしているのかわからない奇食者もいる。
    このカオスがとても魅力的。さまざまな人間カタログがユーモラスに描かれる。

    そうしたカオスだからこそ幸福だった時代が描かれる。
    本書はじつは義母の推薦なのだが、義母もまた本書にあるような賑やかな子供時代を経験したようだ。私は、血縁のある人ない人が入り混じった暮らしというものをすでに知らない。だからちょっと憧れもする。

    さて、ページを繰るにつれて楡家に翳りが射し始める。賑やかだっただけに、不意の没落が胸にこたえる。
    楡基一郎の死もまた、ドン・コルレオーネの死とちょっと似ている。

    第2部を読み始めたところだが、これから楡家がどうなっていくのか、ドキドキしている。とても不穏である。


  • 井上ひさしの大名作『吉里吉里人』にも通ずる大群像劇。
    時代のうねりの中で当主・楡基一郎を筆頭に楡家、関係者の人生の盛衰がドラスティックに描かれる。
    ユーモアは控え目だが、作品の渦巻のようなパワーに当てられる。

  • 明治から大正・昭和と楡家の人たちが織りなす人間模様と世の中の変化。
    そこに映し出される庶民の暮らしに、紛れもない日本社会の真実が浮かび上がる。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 濃いぜ。出てくる人たち、濃いぜ。

    楡基一郎をはじめとする楡家の年代記とも呼べるもの。

    だけれどもこの病院、どうも様子がおかしいのよ。
    どう頑張ってもこの病院…詐欺でね?

    ちなみに1名だけ、その欺瞞に気づいている
    節のある人物がいます。
    途中で存在が消えてしまいますが
    きっとそのあとに出てくるものと信じています。

    ラストは…

  • 楡家とその周囲の慣わしは時代と共に変わりゆくが、伝統にこだわり、あるいは恨み、憂うことも各人によって情態を異にする。互いに共有できない繋がりの薄弱さは、すでに共同体の崩壊を示唆するものであり、あくまでも維持するのは張りぼて化した “しきたり” への意地である。その執念が民族の怖さへと通じる。そこにユーモアを加味するところが本作の魅力である。

  • 一代で脳病院を築いた楡基一郎とその一族の記録だ。大正、昭和の時代と共に紡がれる楡家の物語。個性豊かな面々のその生き様が活写されている。

  • 2022I129 913.6/Ki/1
    配架場所:C1

  • 登場人物の紹介が延々と続いてなかなか物語が始まらないなーと思っていたら、どうやら様々な登場人物のエピソードを淡々と語っていく中で少しずつ物語は進んでいき、そこに面白さを見いだすタイプの小説なのだなーと気がついた。大正から昭和へ。精神病院の患者さんたちと桃子のエピソードがいきいきとしていて楽しい。

  • 読み進むにつれて辛い展開になっていく
    更に辛い未来が待っているだけに

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著者プロフィール

北杜夫
一九二七(昭和二)年、東京生まれ。父は歌人・斎藤茂吉。五二年、東北大学医学部卒業。神経科専攻。医学博士。六〇年、『どくとるマンボウ航海記』が大ベストセラーとなりシリーズ化。同年『夜と霧の隅で』で第四三回芥川賞受賞。その他の著書に『幽霊』『楡家の人びと』『輝ける碧き空の下で』『さびしい王様』『青年茂吉』など多数。『北杜夫全集』全一五巻がある。二〇一一(平成二三)年没。

「2023年 『どくとるマンボウ航海記 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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