華岡青洲の妻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132068

感想・レビュー・書評

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  • 「生まれてくるのが華岡の家の者というなら、産もうとしている加恵は華岡家ではまだ他人なのか。加恵の歯も舌も胃袋も、華岡家の代継ぎを養うための杵と臼のような道具でしかないというのか。」

    再び有吉佐和子。読むとそうそう、有吉佐和子といえばこれこれと頷くような女の妬みや情念の世界に引き込まれる。

    社会に役立ったり誰かを助けることができるなら、自分の命は惜しくないと思わないこともないが、やはり人間自分が結局一番可愛かったりして自身を売ることなどできない。

    医者の妻、医者の親であれ、自分の命を懸けてまで麻酔の実験台になると思うであろうか。

    加恵の気持ちは想像できる。売られた喧嘩は買わねば。女に嫉妬されたら必死で守らなければ。それが義母であろうと。でも、まだ於継の心情はわからぬ。いつか愛しい息子などを産み育て、お嫁さんをもらう日がきたらわかるのだろうか。

    華岡青洲は、世界で初めて全身麻酔手術に成功した医者(江戸時代)。

  • 多分学生時代以来の再読、やっぱ有吉佐和子は書ける作家ですな。この間読んだ本はなんやったのか?
    さておき女の情念でしょうか?怖いなぁ、嫁姑の怨念に満ちた争いもそうだが、姉の透徹さも。それを見て無ぬ振りというか、多分本質的に分かってないんだろうな、男は。(男)社会・歴史上での評価との落差含めて上手く描かれていて、ほんとすらすらと読める(褒め言葉としての)王道娯楽小説です。
    ところで本作、史実を歪曲してるとか何とかいった論争があったやに聞いておるのですが、小説に何故そんなことを言う?よく分からん、まさに言い掛かりと思うのだが、時代が時代だったということなのかな?すいません、よく承知していないのに詰まらん戯言を最後に記しまして。

  • 嫁、姑の心の中の激しい対立。その対立が、二人を華岡青洲が開発中の麻酔薬の人体実験へと駆り立てる。

  • 2015.12(図書館)

  • やっぱり有吉さんの文章力はすごい。
    やめられない、とまらない。

    けれど、女の業とはかくもすさまじいものなのかと。

    有吉さん定番の、顔も美しいけど、中身も素晴らしい女性、美っつい於継さんの姿に、私も見た目は、現状レベルだとしても、いつも居住まいがきちんとしているお上品な女性になりたいものだと思っていたのに、なんとまぁ烈しいお人であること・・・。

    みんなの賞賛の眼・声がその人をより美しくするのはわかるけれども、家事をしつつも日に何度もお化粧を直し、着物を直しというところまで徹底しているかと思うと、世の中の綺麗な人を見るのが恐ろしくもなる。

    そしてその於継さんに勝つ加恵さんもすごい。
    姑に勝つことと夫の愛を得ることがイコールなのが、またなんとも・・・。

    結婚とは恐ろしい。

  • 嫁姑の確執が空恐ろしい。
    同居なんてするもんじゃない。

  • 華岡青洲というのは、世界ではじめて全身麻酔による
    がん摘出手術を成功させた人なんだそうです
    全身麻酔の技術を確立させるため、人体実験もおこなったが
    その際に献体としたのは、自らの妻と母親であった
    嫁姑の間柄で、家庭を舞台に無言の争いを繰り広げていたふたりは
    今回もまた、どちらがより青洲の役に立てるかと
    張り合うように未完成の劇薬を飲むのである
    後遺症どころか、狂死の可能性も知った上でそうなのだから
    それこそ一種の宗教的狂気というべきだろう
    肉体をより深く傷つけたほうに愛の証が立てられるというのは
    負けたものに勝利が宣せられる、倒錯的チキンレースにほかならぬ
    その結果は一読していただくとして
    問題は、そのようなふたりを、周りの人間がどう見ていたか
    ということなんだ
    一度も嫁ぐことなく世を去った青洲の妹は、死の間際において
    結婚できなかったことを、むしろ幸福であったと言う
    もちろん、嫁姑争いの醜さをずっと目の当たりにしてきたためだ
    そしてさらにはそれを利用し
    ふたりに毒を飲ませた青洲こそもっとも怖るべきもので
    自分はふたたび生まれ変わるとしても
    女にだけはなりたくないと言う
    ここにおいて明らかにされるのは
    フェミニズムの本質にある処女信仰のようなもので
    やはり宗教的狂気は見て取れるが
    なにもそれに敗北感を感じることはないよな、と僕は思ったよ

  • 「私の一生では嫁に行かなんだのが何に代え難い仕合せやったのやしてよし。嫁にも姑にもならいですんだのやもの」
    一番印象に残ったのは小陸のこの言葉。

    女の静かな戦いも怖いけど男もなかなか狡猾だった。

  • 麻酔の話は私にとってアイデンティティです。
     世界で初めて麻酔手術を成功させた日本人医師:華岡青洲のお話。検体になった嫁姑の確執に焦点を当てているところがハイセンス!


     麻酔が生まれたことでどれだけ患者が救われたことだろうか。人間の苦しみを紛らわす麻酔は、化学の産んだ奇跡の一つだと思う。
     そこには、「患者の苦しみを…」とかそんな善意なんて関係ない、譲れない女の戦いがあった。それはまさに「冷戦」である。

    _______
    p19 病に貴賎なし
     近代化以前の医者の精神は「病に貴賎なし」無償で患者を診ることもざらだった。緒方洪庵も言っていたしね。医者は儲けてはいけない。仁に尽くさなくてはいけない。的なことをね。

    p209 嫁姑って…
     華岡青洲の妹:小睦が岩(癌)で死ぬ間際に、加恵に打ち明けた言葉。
     「於継と加恵の確執は知っていた。他の嫁に行った姉妹の話を聞いても、私は嫁に行くことが無くて本当に良かったと思っている。兄は母と義姉の関係を知っていながら何も言わなかった。まぁ女に振り回される弱い男よりはいいけど。私はそんな面倒臭い女同士の確執や男と女の関係に振り回されなくて本当に幸せだった。」
     嫁と姑とは…。俺、結婚して大丈夫かな??不安になってきた。
     俺なんて絶対弱い男になりさがってしまいそうだ。

    p212 国際外科学会
     華岡青洲はアメリカのシカゴにある国際外科学会に世界初の麻酔外科手術を行った人物として認められた。

    p212 ロング医師とシンプソン医師
     1842年にエーテルを用いた麻酔でアメリカのロング医師が麻酔手術を成功させた。1847年にシンプソン婦人科医がクロロフォルムを用いた手術を成功させた。華岡青洲は1805年に麻酔手術を成功させたのである。

    ____

     もう一度言う。
     麻酔の話は私にとってアイデンティティです。

     このロング医師とシンプソン医師の話も知りたいものだ。絶対に壮絶な人体実験の話が伴っているに決まっている。

     こういう新薬の登場には人体実験が欠かせない。昔は奴隷とか囚人を使ったのだろうが、グロテスクな話を知りたい。

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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