一の糸 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (551ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132082

作品紹介・あらすじ

造り酒屋の箱入娘として育った茜は、十七歳の頃、文楽の三味線弾き、露沢清太郎が弾く一の糸の響に心を奪われた。その感動は恋情へと昂っていくが、彼には所帯があった。二十年が過ぎた。清太郎は徳兵衛を襲名し、妻を亡くしていた。独身を通して茜は、偶然再会した男の求婚を受入れ、後添えとなるのだった。大正から戦後にかけて、芸道一筋に生きる男と愛に生きる女を描く波瀾万丈の一代記。

感想・レビュー・書評

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  • 酒屋の箱入娘として育った茜は、17歳の頃、文楽の三味線弾きの弾く一の糸の響に心奪われた。
    天真爛漫で一途な茜が、彼の後妻となり、芸道一筋に生きる男を支える、波乱万丈な愛と芸の世界を描いた物語。

    戦前から戦後にかけて、「文楽」という私の知らない世界で、芸に生きる人々の粋な様子と、愛に生きる茜のひたむきさに引き込まれました。たくさん泣いたし、余韻がしばらく消えなそうです。

    口下手で根っからの芸人で、なんて奴だと思うこともある徳兵衛だけど、理屈じゃなく茜が恋に落ちる瞬間、盲目にそれを追い掛ける過程を見ていると、何割増しにもいい男に思えてしまう。
    実際、一芸に秀でている人、譲れないものがあって自身を磨き続ける人というのは格好いい。

    それに、徳兵衛なりに茜に深い愛情があることが垣間見える場面では、きゅんとします。
    登場人物は昔ながらの粋な人が多いですが、茜の母が中でも印象深いです。強く賢くたくましい女性。

    一冊で人の一生が見える。時代の移り変わりを感じられる。
    そんな一冊だからこそ、するりと時間が経過してしまう部分もあるけれど、行間には濃い時間が流れていて、その月日を思うと気が遠くなる程。

    世間一般のルールとは違うかもしれないけれど、茜にも徳兵衛にも共通して自分のルールがあって、それを大事に守っているところが心に残っています。
    世間に流されず自分ルールを守るためには、強くあらねばならないものですね。

    文楽にも興味を持たせてくれる素敵な1冊でした。

    • vilureefさん
      はじめまして。

      有吉さんはいくつか読みましたが、ジャンルが様々で改めてすごい作家だなと思います。
      これも読みたくなりました。

      ...
      はじめまして。

      有吉さんはいくつか読みましたが、ジャンルが様々で改めてすごい作家だなと思います。
      これも読みたくなりました。

      フォローさせていただきますので、よろしくお願いします(*^_^*)
      2014/11/26
    • yocoさん
      お返事が遅くなってすみません・・・!
      全く気づかず、1年も経ってしまい申し訳ないです;

      有吉さん、本当に素晴らしい作家ですね。
      幅...
      お返事が遅くなってすみません・・・!
      全く気づかず、1年も経ってしまい申し訳ないです;

      有吉さん、本当に素晴らしい作家ですね。
      幅が広い・・・。時代を経ても色褪せない作家とは、こういう人のことを言うのだなぁと、読むたびに思います。

      本当に遅くなってしまって恐縮ですが、こちらこそどうぞよろしくお願いします。
      2015/10/31
  • 有吉佐和子さん、やっぱり好きだなぁ。
    けど、私は文楽が好きなうえ、沖縄の三線だけれど三味線を弾くのでよかったけど、一般の人はどうなんかなぁ?伝わるんかなぁ?
    芸に或る程度の尊敬を払えるタイプの人でないと、この本は辛いでしょうね。

    有吉さんの何が上手って、ただの芸事の本に終わらず、年とって分かる実の母親の強さ、しなやかさ、結婚をするということの意味、少し前の世代の女性の大変さ、男の静かな友情と呼ぶには軽薄に感じる感情の交流など、様々なテーマを懐深く内包し、かつどのテーマも浅はかになっていないところ。

    文楽もまた、何がすごいって、演奏中に死亡した三味線や太夫と相三味線の仲たがいなどが現実に起きた世界であると云う事。ぽっと出の芸能を解さない政治家の補助金カットに負けず、守り抜きたい関西の大切な芸能なのである。

    有吉さんが文楽から依頼されて書いた「雪狐々姿湖」も見てみたい。

  • 文楽は、ここ5年ほど定期公演に通っており、この世界を描いた小説は関心があります。有吉佐和子さんは凄い人ですね!造詣の深さ、構成力、細部の描写、すべて非凡な作家でした。特に「音締」からは見事な盛り上げで、一気に読ませます。一方、文楽は素材に過ぎないと思わせるくらい、茜の描写が周到で、自我を貫くヒロインの生き様が実在感に溢れています。

  • なんて力強い主人公。

    最初はよくわからず、ノロノロと読んでいましたが、途中から一気読みです。
    この時代の女性は強いのかしら。

  • 最高!文楽の三味線弾きに心を奪われた女性の話。乙女の恋心、文楽の芸の道の厳しさ、大正から戦後にかけての時代描写、などなど。一冊でたくさん楽しめる。

  • こういう女性の一代記もの、とくに明治〜昭和初期の激動の時代の話は好み。夫婦の姿が理解しがたいけど最終的にはうらやましい。

  • 文楽の世界を舞台にした愛に生きた女性の一代記であり、
    芸道一筋に命を賭けた男の物語です。

    タイトルの一の糸と言うのは三味線の3本ある弦の中で一番太くて強い糸なのですが、
    「三の糸が切れたら二の糸で代わって弾ける。
     二の糸が切れても一の糸で二の音を出せる。
     そやけども、一の糸が切れたときには、
    三味線はその場で舌噛んで死ななならんのやで。」
    文中で値段の張る一の糸を贅沢に使う徳兵衛に
    糸を惜しんだ茜が言われるセリフです。

    この本で有吉さんが書きたかったのは
    一途な茜であり、芸道にストイックに邁進する徳兵衛なのでしょうが、
    芯になっているのは、ここかなと思いました。

    茜、徳兵衛、世喜、宇壺大夫みなが一の糸なのでしょう。

    これは文楽という男の世界を舞台にした、
    愛の物語であり、家族の物語であり、
    名人たちがしのぎを削る芸道の物語であると同時に戦いの物語のようでした。

    文楽には全くなじみのない者でも面白く感動出来る作品だと思います。
    これが40年も前の作品だと言うのに全く古びず感動して読める事に感動します。
    覚悟をもった人たちは美しいですね。

  • 久しぶりに有吉佐和子さん。

    造り酒屋の一人娘である茜は、甘やかされて育つ。
    ある日父親と共に出掛けた文楽で、露沢清太郎の弾く三味線の音色に心を奪われる。

    こうはじまる物語で、茜の清太郎への想いと芸一筋に生きる清太郎とを大正末期から戦中戦後にかけて描いている。

    観たこともなく、正直それ程興味もない文楽。
    日本の芸能の中でも歌舞伎や能や狂言などに比べ、文楽は余り知られていないのではないかと思う。
    文楽とか浄瑠璃、義太夫など聞いたことはあるが、恥ずかしながら区別がつかない。そういう世界に生きるひとたちの物語でもあるが、そもそもわからない世界なので想像しづらい面はあった。
    それでも知らない文楽の世界にも、興味を憶えるような一冊だった。

    甘ったれた茜が時に大胆に時に密やかに、ただ直向きに清太郎を想う姿。
    気ままに生きてきた茜が、義理の子供たちのために奔走する姿。
    芸に生きる清太郎を支え気遣う姿。
    様々な茜の描写の中に、女性としての成長と成熟がうかがえる。
    ただ清太郎への想いが激しく、深く考えずに行動してしまうところがある茜に心情としては寄り添いにくいものがある。

    戦中戦後は有吉佐和子さんの作品には多く描かれているが、戦争を知らないわたしからすると呑気とも思える程変わらない日常を送るひとが多いように感じる。
    空襲が激しくなっても疎開もせず三味線を弾きつづけた清太郎や、恐怖を感じながらもそばを離れない茜といった記述からも清太郎の芸事への姿勢がうかがわれると共に、戦中であっても文楽を楽しむひとびとの日常が感じられる。

    清太郎が三味線の糸についてのこだわりが厳しいことに対し、茜が経済的に苦しいため反問したときの言葉が芸事に命を懸ける想いが伝わってくる。

    「三の糸が切れたら、二の糸で代わって弾ける。二の糸が切れても、一の糸で二の音を出せば出せる。そやけども、一の糸が切れたときには、三味線(弾き)はその場で舌噛んで死ななならんのやで」

    ラストは概ね想像通りではあるが、有吉さんの手にかかると場面が鮮やかに見えてくるようで、予想通りでつまらないとは思わなかった。

    茜は有吉さんがよく描く、弱そうでいて芯の通ったキリッとした女性とは少し違うが、寄り添えないと感じたのにも関わらず最後には知らないうちに寄り添ってしまえるのは、有吉佐和子の文章だからだろうか。

  • 久しぶりに文楽を観たので、再読した。
    渡辺保の「昭和の名人 豊竹山城少掾」を再読した後だったので、表と裏、モデルとなったと思われる事件との対比がおもしろく読めた。
    これほどまでに惚れて入れ込んで崇拝できれば、色恋なんぞこえて幸せだろう‥

  • 激情にかられる女の人の気持ちは、若い時ならもっと共感できたかもしれない。今読むと、それはそうしちゃうまくいかない!とか突っ込んでしまう。

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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