複合汚染 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132129

感想・レビュー・書評

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  • 選挙の話に始まり、環境汚染、食物の安全性の話に入っていく本書。
    恥ずかしながら日頃興味を持っていない分野の話にも関わらず、この読みやすさ、面白さよ。有吉佐和子さん、流石の筆力。
    きっとご本人が、しっかり腹落ちするまで問題を理解して、自分の言葉に直して書いてくれているから、こんなにすっと内容が入ってくるんだろうな。
    今の日本の農業はどうなっているのだろうと興味を持った。

    堆肥の話が多くあり、やはり農業のような生命に関わる分野は綺麗事じゃなく、汚れ仕事も多くあると実感。
    結局シンプルな、昔ながらの自然のシステムでやっていくのが、無理なくナチュラルでいいのだろうけど、わざわざ汚いことをやりたがる人がどれだけいるかとも思う。やはり何か農家が儲かる仕組みがないといけないのかもしれない。

    いろいろなコンパニオン・プランツの話も初めて読み(バラとニンニクを一緒に植えると、バラの花の匂いが良くなって虫がつかないとか、コナギさえ生えれば、田んぼに他の雑草が生えないとか)、とても興味深くて面白かった。

  • 1974~75年の『朝日新聞』連載小説。といっても、脚色があるとはいえ、ストーリー性はない。「小説」というよりもルポルタージュに近い内容。冒頭の選挙応援に始まり(本題ではないが、これはこれで面白い。菅直人も登場)、化学肥料、除草剤、合成洗剤、食品添加物、PCB、配合飼料、自動車排ガス、交通事故などあらゆる話題が提供されていて、著者の好奇心に脱帽した。

    50年後の今日、著者が挙げた問題には、緩和されたものや、逆により深刻化しているものもあるだろうが、「個々の物質からの影響をバラバラに見るのではなく、これらが積み重なると何が起こるか?」という発想は、有効性を失っていないだろう。

  • 仕事上の必要から初読。

    毒性物質の複合がもたらす「複合汚染」の問題を取り上げた社会派作品。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の日本版といってもよい(カーソンについての言及もくり返し出てくる)。

    環境汚染について有吉佐和子自らが取材していくプロセスを、そのまま小説にしていくスタイルが斬新だ。
    ある意味で実験的なこの作品が、『朝日新聞』の連載小説であったというのはスゴイ。

    ただ、小説として面白いか、質が高いかといえば、個人的には疑問。いろんな問題を盛り込み過ぎて、小説としては破綻している印象だ。

    たとえば、若き日の菅直人が出てくることで有名な、冒頭の市川房枝の選挙の話は、本題とはあまり関係ない。
    この部分を丸ごとカットしても支障がないし、むしろ読んでいると、「あれ? 選挙の話が途中で消えちゃたな」という感じで戸惑う。

    奥野健男の解説によれば、それまで有吉の作品を評価していなかった某文芸誌の元編集長は、「有吉佐和子がついに純文学を書いた」と言って『複合汚染』を絶賛したのだそうだ。

    社会派ノンフィクションだと思って読むから破綻が目立つのであって、純文学(私小説)として読めばよいのかも。

  • この本は 昭和40年代後半から50年代前半 朝日新聞に掲載された連続小説で当時社会問題となっていた環境汚染をうまく伝えている。当時話題の小説だったわけで  自分が育った時代 戦後の高度経済成長期の真っただ中 複合汚染の中だったことに検めて知って驚く。 自分がこんなに無知だったとは・・・。あらゆる分野の環境問題に気付いたとき真っ先に読むべきだった。



    出だしが選挙運動から始まって、バン!っと目に飛び込んできた 「 複合汚染 」といういろんな環境汚染が重なり合った言葉は衝撃だった。中身を読むまで複合汚染という重たくて暗いイメージがある言葉だけをみるのと、読み始めると有吉さんの軽快な文章とはギャップがあってよけいにこの言葉が強くインパクトを受けました。いち消費者としてあらゆる環境問題にたくさんの疑問を持ち 知ろうとする有吉さんと、読者も同じ目線で読めるのでこれはとても読みやすかった。この本読んだ後は まともな生活がしたくて 普段使用している  日用品食料品が使えなくなりそうで添加物や化学薬品を使っていない自然素材や天然ものや 無添加製品 など安全性を求めてしまうので とても生きにくくなるなぁと思いました。 本来はそうであるべきなのにまともに暮らせなくりそうで怖い。
     
     
    この本を読んで思ったのは、環境問題に関心のない人ある人。また 特に農業する人、家庭菜園する人、農に携わる人は最初に読んだほうがいいと思いました、なぜ自然栽培がいいのか、なぜ、農薬や化学肥料がダメなのか、なぜアレルギー疾患がふえたのか、自然環境が著しく悪化しているのか、日本の農業はダメなのか、 マニュアルな自然栽培や有機栽培の本を読むより、高額なセミナーを何回と受講して聴くよりもまず読めばありとあらゆることが理解できることでしょう。昭和40年代後半の社会問題となっていた環境汚染について書かれていますが、現代にもあてはまり、40年経った今も実際起きていることが通用するくらい新鮮さを感じます。反対に何一つ問題は解決されていないままであることも。 レイチェル・カーソン著 「 沈黙の春 」の日本版といってもいい。それ以上に今からでも社会を変える力のある本だと思います。40年前と違うのは 環境問題に関心を持って動いている人が少しづつ増えて変えていこうとしている人がいること。 日本の出来事だから、これまでの日本の姿がわかり、これからの日本の在り方を示唆している。 きっと多くの人に受け入れる内容だと思います、たくさんの人に今こそ受け入れられたら日本を変えることができそう。沈黙の春はよく知られているのにこの本はなぜあまり知られていないのだろう。自分が知らなかっただけかもしれない。 

    この本は小説としてではなく。 農業を始めたい人、始めた人、あらゆる農業関係者、また食に関心ある方にはきっとバイブルとなる本です。
    今一度拡まって欲しい本です。
    唯一残念なのは有吉佐和子さんが故人であること。
    生きておられたら当時と変わっていない日本を見てどうおかんじなったことだろう。生きておられればもっと環境問題に関心を持つ人が増えていたと思う。 

  • すごい本だった。約40年前に発表された、環境汚染に関する本である。発表当時は社会にかなりの衝撃を与えたに違いない。
    朝日新聞に連載され、小説という形態をとっているものの、作者の綿密な調査・研究に基づくノンフィクションである。日本人を取り巻く、大気、水、土の農薬や化学物質による汚染に警鐘を鳴らしているのだ。それぞれの分野に詳しい専門家に話を聞き、それを一般人の読者にわかりやすくするために、近所のおじいさんに作者が話して聞かせるという構成になっている。私たちは気づかないうちに、排気ガスや工場の煙で汚染された空気を吸い、汚染された水で育った魚を食べ、除草剤などの農薬がかかった野菜や米を、そして成長ホルモンや抗生物質が入った人口飼料で育った肉を食べている。人間の体に及ぼす影響はどうか。有害な物質から命を守る法律はどうなっているのか。
    私が子どもの頃にはすでに、公害病の原因も分かり始めていたので、一般人の環境に対する意識はある程度高まっていた。この本の功績かもしれない。この本を著したとき、有吉佐和子氏はすでに作家として名前が知られており、影響力があった。現在は、世界レベルで環境を守る取り組みもなされていて、私が子どもだったころより、体感でしかないが、環境はよくなっていると思う。それにしても、本書にあるように、自然が本来持っている力には驚かされる。
    この本が評価に値するのは、汚染をただ非難するだけでなく、解決策を作者なりに考え、一般市民が取り組めるアイデアを提示している点である。
    環境保全を声高に訴えつつも、有吉氏本人が早逝してしまったのは残念としか言いようがない。

  • 3.97/645
    『工業廃液や合成洗剤で河川は汚濁し、化学肥料と除草剤で土壌は死に、有害物質は食物を通じて人体に蓄積され、生まれてくる子供たちまで蝕まれていく……。毒性物質の複合がもたらす汚染の実態は、現代科学をもってしても解明できない。おそるべき環境汚染を食い止めることは出来るのか? 小説家の直感と広汎な調査により、自然と生命の危機を訴え、世間を震撼させた衝撃の問題作!』(「新潮社」サイトより)


    冒頭
    『いかにも初夏らしい爽やかな日が続いているのに、テレビの天気予報ではアナウンサーが今年の梅雨は長い見込みだと湿っぽい顔をして言っていた。ぼんやりブラウン管を眺めていた私のすぐ傍で、電話のベルが鳴った。』


    出版社 ‏: ‎新潮社
    文庫 ‏: ‎624ページ

  • 45年前の作品だけど全然古さを感じない。
    官僚も政治家も何も変わっていない。
    一見便利に思えるものも結局は自分の首を絞めてる。
    経済中心、進歩や成長だけを追い続けるのも間違っている。
    フランス人は、あまり政府の言うことを気にしないらしい。いいなと思った。

  • 題名からあまり関心を惹かないものだった。読んでみて、衝撃だった。昭和49年に書かれた内容から、消費者の野菜に対する考え方は変わっていない。そのため、有機の野菜が儲からない構造も変わっていない。
    火が文明の始まりで、それと同時に虫歯が始まった。
    稲を植えた後にタマネギを植えると良い。コンパニオンプランツ。
    合成洗剤よりも粉石鹸の方が汚れが落ちる。お湯に説く必要があるが、それはお風呂の残り湯で良い。

  • 複合汚染読了。
    小説とは言いがたいし、最初の方の選挙の部分は読みにくいし最終どこに話がいったの?って感じになるけど、あの時代(1975年)にあれだけのことを書いていて、有機農業ムーブメントを起こしたのはさすがだと思う。
    農薬が一つ、二つ、三つと重なっていった時に起きる化学反応、そしてそこから新たに創りだされるであろう物質の毒性など誰もチェックしていない。
    ちょうど四大公害が表沙汰になってきた頃でそのインパクトも大きかったのだろうと思う。
    農薬をただ批判するだけでなく、使い方と量の問題だと指摘している点は共感できる。
    ちょっと感情的になりすぎてる感が否めないので減点(偉そうなこと言ってすみません)。

  • 人類の拡大が速過ぎて噴出する問題に対応し切れない、今の温暖化対策はデジャブなのかも、この時代を実際に生きた人からすると。
    そうするとどこか日本の野党的な騒ぎ立てにも見えなくない本作はもしかすると理想論に過ぎる可能性もなくはなく。
    こういう立場は絶対必要だけど、そこに折り合いを付ける人たちがいてこそ価値があるので、うーむ、簡単な話ではないかと思われ。

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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