開幕ベルは華やかに (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132211

感想・レビュー・書評

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  • 観察力が鋭い。読み手を惹きつける力が本当に強い。
    有吉作品が持つ魅力を堪能できるミステリーだった。

    演劇の世界あるあるみたいなものにも、某歌劇団ファンとしては、共感も驚愕もできた。
    ただ戦後すぐのゴタゴタで事件を解決している感は、少々ある。

  • 安心して選ぶことができる作家の一人。

    読ませ方がうまい。分厚い本だけれども気がついたらラストになっている。もちろん書かれたのは今から27年も前なので、時代を感じることはあるけれど、それでも現在の作家に決して負けていない。

    話の本題に入るまでに時間がかかっている気がするけど、そのかかった時間にうまくバックボーンを書き込んでいるので感情移入しながら読める。
    有吉佐和子、好きです。

  • 「二億円用意しろ。さもなくば大詰めで女優を殺す」一本の電話が劇場関係者に激震を起こした―
    折しも劇場では話題作がかかり、満員の観客が詰めかけていた。
    主演女優は文化勲章受賞が発表されたばかりの八重垣光子、相手役もまた演劇界の至宝・中村勘十郎。
    舞台と同時進行するバックステージの緊迫の駆け引き、人間ドラマ。
    愛憎渦巻くミステリー長編。

    怪しい人物がたくさんいて、誰と誰が繋がってるのかと思えば…外部だったがっかり感-
    殺された観客はとばっちりもイイトコロ…
    これもまた、現代では起こり得ない(簡単に阻止されると思うけどどうだろう?)この時代だから、な事件だと。
    後進を潰すような扱いはどうなの、との思いと、そこを乗り越える才能と運が無いとスタアにはなれないよね-とも。
    八重垣光子は計算高いのか天然なのか…“女優”であるのは間違いないけど。
    別れた元夫婦のふたりの微妙な仲も面白かった-

  • books A to Zの書評を聞いて、借りてきました。

    1982年に出ている本なので、古いという印象は拭えないですが、そこは有吉さん。
    なんというか、話し言葉が自然というのか、特に勘十郎さんとか定年した刑事さんとか蟹夫とか、男性がそう思えて、読みやすかったです。

    八重垣光子さんの話し方は、実際にやってみたらどんな感じなのかしら…。
    イライラして聞いてらんないな。

    犯人はなんとなく想像がつきましたが、共犯者が、突然ポーンと現れた、という感じがしました。

  • これは有吉佐和子さんの本にしてはかなり異色だという印象です。
    作中、殺人事件が起きるなんて、もしかして初めてかも知れない。

    主人公の作家、渡紳一郎は元妻で今は脚本家の小野寺ハルからある劇の演出を依頼する電話を受ける。
    その劇とは、男装の麗人、川島芳子の半生を描いた劇で、大物脚本家の加藤梅三が突然降りた事により、ハルに脚本依頼の話が舞い込んだという。
    公演初日までほとんど日にちがなく、話を受けるのを渋る渡だったが、ハルの熱意に押され引き受けることに。

    劇の主演は八重垣光子と中村勘十郎という70代の大物役者。
    急仕上げで作られた脚本に、やっつけ稽古で開いた舞台の幕。
    70代の主演二人はセリフを一行も覚えず舞台に上がり、全てはセリフ出しのプロムプターに頼る。
    それでもベテラン役者の二人はアドリブ多発で乗り切り、10代の若者の役を見事に演じきる。
    その後、トラブルがありながらも何とか初演は幕を閉じた。

    その後、八重垣光子が文化勲章を受賞し、劇の方も連日大入満員。
    そんな浮かれた雰囲気の中、1本の電話が舞台を上演している帝国劇場にかかってきた。
    電話の相手は、
    「二億円用意しろ。でないと大詰めで八重垣光子を殺す」
    と言ってきた。
    そして最初の殺人事件が起きた-。

    最初は舞台を中心に、それを作り上げる人々について描いた話になるのだろうと思っていました。
    脅迫電話がかかってきてすら、それは話の中心ではないだろう、と思いました。
    でも中盤あたりから話の雰囲気がサスペンス調になり、とうとう殺人事件が起きた時点でやっと、あれ?これはいつもと違うかも・・・となりました。

    終盤では誰が犯人だったのか?謎解きも主人公の渡によってなされます。
    それで知る犯行動機は切なく哀れさを感じるものでした。
    それほど驚くようなものではなく、細部をきちんと読む人なら途中で気づくようなものですが、それに至るまでに読者を勘違いさせる伏線もちゃんと張られています。
    でも事件を盛り込むことで、いつもの有吉佐和子さんの本に比べると人物描写や関係性などの書き込みが浅く、それが少し残念でした。

  • 中盤までは面白くてぐいぐいひきこまれたものの、個人的には事件の真相が明かされるあたりはそれほどにはひきこまれなかった。三人称で進んでいたストーリーが、急に登場人物の独白仕立てになるのがその一因。
    この話が書かれたのは昭和59年、おそらくはバブル前夜あたり。話の舞台となっている劇場、芝居の舞台に関する描写は知らないことが多くて興味深く読むことができたけれど、合間に描写される演出家の生活については、惹かれるものがなにもなかった。
    それは作者の力量ではなく、個人的な嗜好の問題だとは思うのだけど、西洋の文化をありがたるばかりのあの頃の空気は、やはり薄っぺらい感情しか与えてはくれない。
    この前に読んでいたのが「木瓜の花」、昭和30年代後半の話、それもその頃ですら古いものになっていた生活様式や花柳界の様子を描いたものだったので、余計にバブル前夜の生活を薄っぺらなものに感じてしまったんだと思う。
    私にとってのこの作家の魅力は、やっぱり、圧倒的な筆力で描かれる人間の感情と、今では多くの家庭で失われてしまった昭和の家庭の生活美に関する描写なんだな、と思った。
    「悪女について」のほうが「謎」を読み解く要素は強いかもしれない。

著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

有吉佐和子の作品

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