不信のとき〈上〉 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132228

感想・レビュー・書評

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  • いきなり「ヌードスタジオ」なる空間から物語が始まる。1967年日経で連載された有吉さんの作品。短文で粛々と描かれる家庭像、男女観に今回も驚きながら痺れる。有吉さんの作品に外れなし。

    性風俗産業や水商売の女性たちは有吉さん曰く「玄人」。
    決して悲劇の弱者としては描かない。

    新宿2丁目周辺が「私娼窟(ししょうくつ)」として吉原よりも「安い女」を買う場所と認識された。戦後は「赤線地区」と認知され、1956年「売春防止法案」通過により、赤線が燈火を消した経緯など、性産業や女性の立ち位置など興味深い。

    有吉さんの視点による虚栄と傲慢に満ちた成功した男性像が主人公。勤続15年の商社マン浅井は過去から不倫を繰り返す。

    当時、男性の甲斐性としての第2、第3の女性との関係や婚外子の存在が淡々と描かれる。結婚観や配偶者に課せられる役割の現代との違いが非常に面白い。

    いや、「違い」と明言できるのだろうか。
    たかだか60年で人々が連連と意識的にも無意識でも受け継いできた社会観、つまり男性像、女性像、夫や妻の役割、結婚の「定義」等は早々容易く変わり得るものではない気がする。

    男性の「優位性」を常に信じて疑わない感覚は、今もなおテレビの報道番組でアシスタントに徹する若くて器量よしの女子アナウンサーが登用され続けていることからも自明。

    アルコール飲料のCMとて美しくて可愛げのある女性タレントが多用される。

    それを日常的に流布され、受け止める私たちは現代もなお、こうした刷り込み情報を与えられているわけで。

    「多様性」やらSDGSやら「全うな正義」として番組を制作するメデイアが何だかなあと、作品からかけ離れてひとりモヤモヤ。

    家庭外に男女の関係のある相手を複数作り、婚外子も自らの血を受け継ぐ存在として権力や生存の証であるという傲慢さには苦笑。だが世は魑魅魍魎が跋扈。登場人物はそれぞれしたたかだ。

    経済的に確実に支援されている第2、第3の家庭は、本妻が納得するか、あずかり知らぬ存在である限り、社会の一部として機能していたのだなあと納得。いわゆる「影」の存在に徹する関係性。

    時代背景は異なれど、自らの優位性を示さなければいられない人間の性や、いかに富や権力を手にしている者であってもその嗜好はからならずしもお行儀のよいものばかりではない現実など、堪能。

    夫に傅き支え、子を産み育てるのが女性の本望という時代に書家としての本領の芽を見出した妻が後編でどう変わるか、期待して頁を閉じる。

    テレビドラマとして複数回放送されていることを知り、そのキャスティングに惚れ惚れ。
    田宮二郎さん、小林桂樹さん、渡瀬恒彦さんが浅井役。共演の女優陣も圧巻。十朱幸代さん、若尾文子さん、草笛光子さん等々、往年の名優さんたちは品があったなあ。

  • 何か読みたいけど思いつかない。困ったときの有吉佐和子。

    昭和40年頃の東京。
    赤線が廃止され、婦人誌にも性についての記事が掲載されるようになった時代。妻は家で夫の帰りを待つのが当たり前の時代。

    大手商社の宣伝部に勤めるデザイナーの浅井は、印刷会社社長である小柳老人とよく飲み歩いていた。ある時は新宿のヌードスタジオ、定番は銀座のクラブ。結婚15年の妻が家にいながらも、過去に2度浮気し、再び銀座のクラブの女マチ子と恋仲になる。

    ついにマチ子は田舎の清水で出産。浅井も1泊の箱根旅行と妻の道子に嘘をつき、娘の顔を見に行く。【下巻へ】

  •  今年は有吉佐和子(1931-1984)さんの生誕90年であります。若くしての病死でしたが、「笑っていいとも」での奇行から僅か二か月後の訃報に、当時は死因が色色取沙汰されたものです。

     ここで登場する『不信のとき』は、1967(昭和42)年に日本経済新聞にて連載されたもの。主人公の浅井義雄くんは、大手商社の宣伝部に勤めるサラリーマン。結婚して15年が経つが、妻の道子との間には子供はゐません。過去に二度、浮気をして大騒ぎになつた事はありますが、近年は落ち着いてをり、女と遊ぶにも慎重に慎重を重ねてゐるため、発覚はしてゐません。

     ところが、ある時知り合つた銀座のホステス・マチ子に惚れてしまひ、関係を持ちます。彼女は浅井くんの子供が欲しいと云ひ出し、身籠ります。浅井には迷惑をかけない約束で出産するのですが、何とその直後に、妻の道子が妊娠したとの連絡が......

     云つてみれば、順調に出世コースを歩んでゐた男が、女で失敗して転落の詩集を綴る物語であります。簡単に言へば自業自得なのですが、作中での、ほとんどの男は結婚したことを後悔してゐる、との指摘には困りますな。かかる事を言はれて、既婚男性はどのやうに反応して良いのか、途方に暮れるではありませんか。

     ただ、読み進むうちに、男としては浅井くんに感情移入して、いつ妻にバレるかヒヤヒヤするのであります。そして遂にその時はやつて来た! 道子とマチ子の対決! 月並みですが、女性の怖さをまざまざと見せつける会話です。本当に男つてのは、陰でどんなことを言はれてゐるか分つたもんぢやない。

     世の女性たちから、男社会に対する復讐とも云へる小説でせう。ところで、道子が生んだ子供は、本当に人工授精なのか、弟が勝手に代理に同意書にサインできるのか、疑問が色色疑問で終つてしまひました。まあ探偵小説ではないから、それは本質ぢやないのでせうが、気になるところでした。

     尚、この小説は大映で映画化されてゐます。田宮二郎がポスタアの序列を巡つて異議を唱へ、結果的に映画界を去るきつかけとなつた作品でした。でも、どうみても田宮が主演だよねえ。全く永田つて奴は......

  • 上下読了後に書いてます。
    くどいほどの前振りやったという訳ですかい。。。

  • 感想は下巻で

  • おもしろい

  • 不倫はまだバレません。

  • 下巻にまとめて

  • 私は苦手でした。女の腹黒さ、意地、みたいなものは読んでいて気持ちのいいものではないので。

  • 最近再放送しているドラマの原作になった同名だなと、図書館にて見つけてふと借りてしまう。いやはや、昔の話みたいですが、ほんとこれを現在にもつうじているな~と驚きでした。

    しっかし、「あなたには迷惑かけないから子供がうみたいの」って言葉怖いですね~。

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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