尋ね人 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101132587

感想・レビュー・書評

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  • なんか素敵なお話だったなぁ。(*^^*)

  • 恋人も仕事も失って故郷に戻ってきた李恵と
    末期ガンとなり、それでも普通に生活をしようとする母・美月の
    やりとりや、お互いを思い合う気持ちに胸がくるしくなる
    洞爺丸遭難事故が生々しく蘇り、関わり
    母の恋と自分の恋、感情のやりとりがやるせない感じ
    函館の街の美しさと閉塞感が手に取るよう
    夢中になってページをめくっていました

  • 物語の舞台になっている函館の街に行ってみたくなった。

    函館山や市電、消え去ろうとしている洋館などは勿論なのだが、佐藤泰志の作品とも共通するどこか他の都市とは違う時間の流れ方、田舎の長閑さとも微妙に異なる日本の近現代の歴史と連なりながらもゆっくりと時を咀嚼して噛みしめてきたような雰囲気がある。半世紀前の母親の過去と娘の現在が交錯して織りなす物語の舞台として函館の街はとても似合っている気がする。

    書店でこの文庫本を見かけたとき、正直いって手に取るのを少し躊躇った。今までこの書き手の作品は2冊読んでいて、最初に読んだ『黒髪』が「渾身の」といってよい大作だったのに、扇情的なといったら聞こえはいいが、要するにオジサンの劣情をそそるような表紙につられて次に買った『雀』は、正直まあ悪くはないがという程度の満足感しか得られなかった。私にとって、一勝一敗とまではいわないが、一勝一引き分けぐらいの作家だった。
    それで本作は、なのだが昨日買って読み始たら予想とは違って帰りの電車を乗り越しそうになり、そのまま家で一気に読み通してしまった。要するにすごく面白かったのである。
    末期癌の母親が、50年前に姿を消した恋人を探して欲しいと娘に懇願するところから転がり始める話の筋は、函館に生きた一人の女の隠された過去の真実を追うという展開で『黒髪』とあい通じるものだ。この書き手のライフワークででもあるかのような一種の気迫を感じる。
    青函連絡船の長い歴史とその終焉や、昭和29年の洞爺丸の悲劇は函館の街を舞台とするときに避けては通れない必須のモティーフなのだろうか。佐藤泰志の作品集に収められていたエッセイでは、佐藤の両親が青森函館間で闇米などを背負って行き来することを生業とする「担ぎ屋」だったことが回想されているが、驚くべきことに毎日欠かさず連絡船に乗船していた両親が洞爺丸の遭難の日その日に限って嫌な胸騒ぎがして乗船券を他人に譲って洞爺丸に乗らずまったくの偶然に難を逃れた事実が記されていた。生前は小説家として脚光を集めることのなかった佐藤が(没後暫くして人気が爆発するのを知らずに自殺するのだが)、なぜこんなにも劇的な両親のエピソードをネタにして小説を書かなかったのか、勿体無い気がしてならない。一方で、この『尋ね人』では完全に逆のシチュエーションでの悲劇が物語の鍵になってもいる(ネタバレ回避のため詳述できませんが)。

    2014年のノーベル文学賞はパトリック・モディアノが獲った。この小説とタイトルがよく似た『1941年、パリの尋ね人』で、パリで捕まりアウシュビッツで虐殺されたユダヤ人についての記憶をとことん追い続けたことが選考理由だった。人々の脳裏から消えようとしている記憶を見事に昇華した「記憶の芸術」との賛辞も添えられた。
    洞爺丸の悲劇も、地元函館の人たちはともかくとして50代以下の殆どの日本人の記憶からは消えつつある。『黒髪』では、消えつつある函館の歴史的洋館と主人公の体内に流れる混血の血を起点として、亡命ロシア人の歴史を遡った書き手は、今度は50年前に姿を消した恋人の行方を辿りながら、忘れられつつある洞爺丸の悲劇を物語の鍵として絡めている。
    勿論、主人公の女の性、母の、突き詰めれば主人公や父との幸せだった日々をも根底から否定しかねない女の性、それが絡まり合う中、登場人物達と共に私はその消えた永遠の恋人を一緒に探し求め焦がれ続けてしまった。

    読むことの醍醐味とはこれだとおもわせてくれた。
    この書き手は、私にとって2勝1引き分けになった。いや、完全にやられちゃた感じだから、2勝じゃなくて2敗、しかも完敗かな。

著者プロフィール

1962年北海道生まれ。北海道大学農学部卒。’90年『結婚しないかもしれない症候群』で鮮烈なデビュー後、’91年に処女小説『アクアリウムの鯨』を刊行する。自然、旅、性などの題材をモチーフに数々の長編・短編小説を執筆。紀行、エッセイ、訳書なども手掛ける。2003年『海猫』で第十回島清恋愛文学賞を受賞。

「2021年 『半逆光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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