官僚たちの夏 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101133119

感想・レビュー・書評

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  • 実在の人物がモデルということで、事務次官へ向けた省内での出世レース、法案をめぐる他省庁や民間団体との綱引きなど、話に聞く官僚の姿がリアルに描写されている。

    主人公方もライバル方も、登場する官僚は皆、やり方は違えど「国家のため」という信念を持っている。それぞれに感情移入することができるため、浮き沈みにハラハラ。

    読後に、モデルになった方々や通産省の政策のその後を調べると興味深く、さらに楽しめた。

  • 本作の舞台になった1960年代から60年が経っていますが、本作が持つメッセージ性は少しも色褪せることなく、それどころか現代人に向けたものであるかのような錯覚さえ覚えます。

    天下国家のために働くエリート官僚たちの姿をリアルに、生々しく描き、官僚国家が孕む問題点を鋭く描きます。
    登場人物のキャラクターがそれぞれ立っているのですが、それは決して一面的な平板な設定ではありません。それぞれの信念がぶつかり合い、信念と現実とのギャップに苦しみ、それぞれがもがきます。
    国家のために働く、官僚たちのリアルがここにあります。

  • 税金使ってるというのに、旨味がないと法案は動かないのか。

  • 人事のおもしろさと儚さ。
    これが「人の事」だから、おもしろいと言ってられるが、ポストが全ての世界で人事権を握られたら、そりゃ忖度するわ。というのは現代の構図。
    国を動かすという熱量はすばらしい。壮大なモチベーションの反面、自分の将来のために上司や政治家の顔色をうかがい、省内の空気に敏感になるという、建前世界の身内思考の世渡り術。めんどくさい。

  • 3.5
    60年代を舞台に、通産官僚達の政策をめぐる政府財界との闘いや人事を巡る官僚間の戦いを描いた小説。官僚の世界や争いが何となく垣間見えなかなか面白い。主人公の風越は、
    ミスター通産省、人事の風越、おやじさんなどの異名を持ち、大雑把で豪快、国家の経済政策は政財界の思惑や利害に左右されてはならないという信念で出世コースを進む。無定量・無制限で働くことを良しとする古風さ。日本の将来のために、部署の疲弊を押して、スポンサー無の通産省主導で指定産業振興法策定するが、自身の役人至上主義や口の下手さ、政治の流れも手伝って潰される。
    モーレツな働き方を良しとせず、やることはやるがスマートな働き方・人生の楽しみを享受する片山などとの対比、振興法の失敗と目をかけていた鮎川・庭野の死・健康障害、次官退官後のかつての部下の対応など、報われない部分の描き方や働き方・人や組織の動かし方を考えさせられる。ハッピーエンドでない切なさの中に、現実と含蓄がある。

    通産省には外局を含め200以上の課長職があり、将来の次官コースは官房三課長であり、大臣官房秘書課長、同総務課長、同会計課長。各々、省内人事、所管行政に関する総合調整・企画、省全体の予算作成が担当。特許庁長官は、最後に次官になれなかった人のポストらしい。横串組織である企業局長から次官になる。人事を掌握する官房長は次官の必修ポスト。
    フランスは元々エリート官僚の国。官僚の指導によって、経済は官民協調の混合経済。巨大資本にイギリスが屈伏したのに対しフランスは官民協調の防波堤がある。
    風越は、学生の選考では、酒を飲みながら学生に議論をふっかけじっくり人物鑑定をする。未来を見据えた政策・行政指導のためには、馴れ合いはダメで、つけこまれないためにも、役人はいばるぐらいがちょうどよい。人事がうまくいかないと組織は腐る。学歴と年功序列の官庁人事を一新したい。通常1年半のサイクルだが、それでは短すぎる。一言多かったり言葉足らずだったり、民間企業をあしらったりの性格は、各場面で足を引っ張る結果をもたらす。

  • 1960年代。日本をより良くするために、各々の考えに従う通産省キャリア官僚の話。
    主人公が上司だったら、本当に嫌だな…。
    でもこういう人たちが時代を支えていたんだろうと感慨深かった。

  •  某サイトでおすすめの経済小説に挙がっていたので手に取って読んだ一冊である。官僚たちの人間臭さが細かに書かれており、個人的には楽しめた。各々が利権を最大限獲得しようと奮闘し、中々前に進めない姿は、今の国会とも通じるところがありそうな気がした。読んでいると、国民のために官僚は動いてほしいのに何をしているんだ、という突っかかりが生まれるのも本書の面白さであるように感じた。個人的には片山派です。

  • 随分前に読み終わってたけど何も書いてなかった。

    城山三郎に取り憑かれたきっかけになった一冊。
    風越-庭野-鮎川という猪突猛進的なリアルガチ昭和な男にフォーカスが当たる時代は終わり、飄々としつつ仕事もプライベートもきっちりこなす片山のような人間が今後のベンチマークだろうか。
    働き方改革、生産性向上の名の下に「ノー残業」「休暇取得」など言葉だけが独り歩きする今、その本質を勘違いしている人が多い気がする。気づいたら知識もスキルも人脈も何もない空っぽの50歳の自分がいた、なんてことにならぬよう。風越の生き方、嫌いじゃないよ。要はバランスってことで。

  • 高度成長期の官僚達の生き様を描いた本。
    当時は現在と比べて社会情勢も価値観も違う。
    その時代を生きていない私には、主人公に感情移入出来るところとそうではないところがある。
    ただ、皆自分の理想とする国家の姿や価値観によって精一杯生きていった。
    そこに風が吹けば出世をし、吹かなければ去る。

    落日燃ゆの中で紹介されている、広田弘毅のこの歌を思い出した。
    風車 風が吹くまで 昼寝かな

  • “おれたちは、国家に雇われている”
    風越のこの言葉は心に突き刺さる。

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著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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