そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 2006
感想 : 259
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101133348

作品紹介・あらすじ

彼女はもういないのかと、ときおり不思議な気分に襲われる-。気骨ある男たちを主人公に、数多くの経済小説、歴史小説を生みだしてきた作家が、最後に書き綴っていたのは亡き妻とのふかい絆の記録だった。終戦から間もない若き日の出会い、大学講師をしながら作家を志す夫とそれを見守る妻がともに家庭を築く日々、そして病いによる別れ…。没後に発見された感動、感涙の手記。

感想・レビュー・書評

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  • この遺稿のタイトルをつけたのは誰だろう?文中の言葉を抜粋したこのタイトルが、本のすべてを要約している。こんなに悲しくて素敵で完璧なタイトル‥‥なかなか出会えないと思う。

  • 夫婦仲、家族仲がよいとそれだけで幸せなんだなぁと思った。

    城山さんの『落日燃ゆ』を何年も前に読んだことがあるが、
    こんな風に青春があって、容子さんと出会って家族になり、別れがあったのか。
    人生があるのは当然だが、著書がかたくて重めなので、
    こんなに豊かな愛情が溢れているとは想像していなかった。

    たまたま閉館していた図書館での出会いなんて、素敵だなぁ。
    そのまま話しながら歩き、ふと提案して映画を見る。
    貸した本を返してもらうのを口実にデートの約束をする。
    相手の親にばれてしまって絶縁状をもらう。
    当時ならではの出来事が目の前に描写され、微笑ましい。

    あの時代、窮屈な価値観で生きにくいこともあっただろうが、
    お互いが全幅の信頼をおける相手なら心強かったと思う。
    時代が代わっても、本質的なものは同じなのかな。

    娘さんの解説も心あたたまる文章でとてもよかった。

    お、と思ったくだり↓
    アンブローズ・ビアスによると、「人間、頭がおかしくなると、やることが二つある。一つは自殺。ひとつは結婚」なのだそうだが、私も容子も頭がおかしくなっていたのかどうか、結婚に躊躇はなかった。

  • 祖母は、祖父が死んだ後、今までより本を読むようになり、私は訪問するたびに自分の本棚から何冊か選んで持っていく。迷ったけれど、この本も貸した。

    すごく気に入ってくれて、何回も何回も読み返したと教えてくれた。こんなに愛された容子さんは幸せだね、素敵な話だねと言った。

    私は、祖母のいろんなこと、例えば結婚で大好きな仕事をやめねばならなかったこと、祖父とはお見合いだったこと、祖父の両親とのこと、結婚後のあれこれ、を知っていたのに、それをそういう時代だったからねと言うのを聞いていたのに、祖父はもう死んでしまったのに、この本を貸した。
    同世代でも違う生き方、愛し方を選んだ人たちの存在を教えてしまった。

    それが良かったのか悪かったのかはわからない。
    けれど、祖母が本当に何度も、城山さんも容子さんも、あんな時代に見つけた愛をまっとうできて、幸せだったろうね、すごく幸せだったろうねというのを聞いて、泣いた。

  • 夫婦愛にほっこりしたあと、娘さんのあとがきが涙で霞んで読みづらい。
    「五十億の中で ただ一人「おい」と呼べるおまえ
    律儀に寝息を続けてくれなくては困る」

    結婚当初から、一緒に長生きしよう、と言ってくれ るパートナーとできる限り長く一緒に幸せに暮らしたいなぁ、と改めて強く思った次第。一緒に長生きと言いつつ、必ず、自分より長生きしてくれ、と付け加えるパートナーの温かな言葉はいつもわたしを少し切なくさせるのだ。

  • 奥様への愛情の深さがストレートに表現されていた。
    夫婦二人三脚で人生を築いていたことを感じさせられた。
    愛情と敬意を持って奥様を大切にし、また、奥様との生活にこの上なく幸せを感じる姿に、私もそうありたいと強く思わされた。

  • それこそ運命のような夫婦の出会いと再会。作家の妻という以外にも苦労はあったろうに、明るく健気に夫を支え、本当に天使のような存在。死後の作者の寂しさが辛くて泣きそうになった。愛されて愛して、天国での再会を心から喜んでいるのだろう。娘さんから見た城山さんの人間的な様子も今は亡き、児玉さんの解説も胸にささる。そうか、もう君はいないのか… 、最近 亡くなった若き俳優や偉大なコメディアンをそんな気持ちで思い出してしまう…。別れは辛い、遺された方も遺した方も。

  • 全編を通して温かさと愛情が感じられる。

  • 今年は仕事でもプライベートでも「死」と向き合う機会がとても多かったので。

    遺族として、共感出来るところがたくさんあったし、読み進める中で母や祖父の事を思い出さずにはいられなかった。

    ー死んだ人もたいへんだけど、残された人もたいへんなんじゃないか、という考えが浮かんだ。理不尽な死であればあるほど、遺族の悲しみは消えないし、後遺症も残る。ー

    母の死後、残された父を見ているのが辛い。母の死を受け入れるのは辛いが、それ以上に残された父を見ているのが辛い。突然死という理不尽な死だっただけに、後遺症は大きい。

    ー最愛の伴侶の死を目前にして、そんな悲しみの極みに、残される者は何ができるのか。
    私は容子の手を握って、その時が少しでも遅れるようにと、ただただ祈るばかりであった。

    もちろん、容子の死を受け入れるしかない、とは思うものの、彼女はもういないのかと、ときおり不思議な気分におそわれる。ーふと、容子に話しかけようとして、われに返り、「そうか、もう君はいないのか」と、なおも容子に話しかけようとする。ー

    父は母の最期どんな気持ちだっただろう。
    次女・井上紀子さんの父が遺してくれたものー最後の「黄金の日日」も娘の立場から父母の様子、死を書いていて、共感出来るところがたくさんある。



  • よい伴侶に恵まれることは幸せなことだが、
    そのぶん、いつか訪れる別離はつらい。

    出会いから、別れまでが書かれていたが
    昭和の戦前生まれの男性にしてはストレートな
    愛情表現に感じた。

    巻末に次女の後書きがあり
    そちらは親との別離や家族について
    考えさせられた。

    はじめて読む著者の本で、
    背景がわかった。

  • ふと思い出した本

    素直な戦士たちをきっかけに知った、城山三郎だけど、こういう暖かい本もあるのかと思った。電車のなかで思わず泣いてしまった思い出。

    もう一回読みたいのに、かんばやしくんに4年前くらいに貸して以来返ってこない。

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著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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