柳橋物語・むかしも今も (新潮文庫)

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著者 : 山本周五郎
  • 新潮社 (1963年4月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134048

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柳橋物語・むかしも今も (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 戦後の山本周五郎の江戸下町作品。
    「柳橋物語」と「むかしも今も」の2作品です。
    「柳橋物語」は主人公おせんの悲しい半生が描かれ、なぜここまで…、という感じがします。その人生の分かれ道となったのが、短い時間に庄吉と交わした約束から。その約束を守りとおしたが故の運命。登場人物のだれが悪いわけでもない。環境と巡り合わせにより逆らうべくもなく悲しい人生に落ちていくおせん。その中で、精神的な愛が描かれています。

    「むかしも今も」も愚直な直吉の人生を描いたもの。最後まで読むとなんともいえないあたたかい感情が湧いてきます。

    やっぱり山本周五郎の作品はいいです。

    書評より
    「作者は問うている。愚直さまで一途であり、一旦きめた約束を守り通そうとすることは、くだらないことであろうか。世俗的に見てたとえばかと思われようとも、そこにこそ人間の他の動物とは違う尊さがあるのではないかと。」

    本文より
    「『この頃の職人はなっちゃあいないよ、爺さん、一日に三匁とる職人が逆目に鉋(かんな)をかけて恥ずかしいとも思わない、ひどいのになると尺を当てる手間を惜しんでおっつけて鋸を使うんだ、そのうえ云いぐさが、そんなくそまじめな仕事をしていたら口が干上がってしまうぜ、こうなんだ』
    『それは今にはじまったことじゃあないのさ』と源六は穏やかに笑う、『…どんなに結構な御時世だって、良い仕事をする人間はそうたくさんいるもんじゃあない、たいていはいま幸さんの云ったような者ばかりなんだ、それで済んでゆくんだからな、けれどもどこかにほんとうに良い仕事をする人間はいるんだ、いつの世にも、どこかにそういう人間がいて、見えないところで、世の中の楔になっている、それでいいんだよ』」

    「『人間は正直にしていても善いことがあるとはきまらないもんだけれども、悪ごすく立ち回ったところで、そう善いことばかりもないものさ』」

  • 今回、再読して逆に感じたのは、おせんが決して不幸な境遇だったとは思えなかったのです。 逆にこちらは少数意見かもしれませんね、とりわけ女性読者からはお怒りを買うかもしれません。 私は却って針仲間のおもんの身を持ち崩して行く姿がおせんよりも不幸なように感じました。 というのは、庄吉はこの物語の中ではどちらかと言えば悪役めいた役割を演じてますが、物語の初めの告白から江戸に戻ってくるまで、少なくともおせんに対する愛情は尋常なものではなかったはずだと私は確信しています。

    そして男は結構疑い深いというか、本作にあるシチュエーションからして誤解が生じて当然だと思います。 まあそのあたり、作者の力量の確かさでしょうね。 いずれにしても、主人公のおせん、最後にはつつましくかつたくましく生きることを貫きます。 つつましさが“八百屋”を営むことによって描かれているところが作者の優しさなんでしょうね。 たくましさの源は死んだ幸太の愛情だけでなく、冷めきってますが過去の庄吉へのいちずな思いがそうさせたんだなと私は捉えています。 人を愛することって難しいけど素晴らしいことです。

    もう一遍の「むかしも今も」 物語に“つき当たり”という言葉が出てきて重要な役割を演じています。 これは直吉とまきとが幼いころに遊んだ場所の名前なのです。 いわば2人の長年の愛情が築き上げられた場所として描かれています。 とりわけ直吉のやさしさは女性読者から圧倒的な支持を受けると思います。 そしてその優しさの根底は誠実さと義理堅さなのですね。 まきが失明した後も献身的に支える直吉の姿が印象的です。 これはなかなかできませんよ。 ラストが少しはっきりせずに読者に委ねている部分のあるのが作者の心遣いだと受けとめています。

  • 山本周五郎さんの作品は、とても優しい。歴史に名を残す人物の話ではなく、普通に生活する人たちの恋や仕事や友情などを描いている。この人が描く、女性像?というのだろうか?それに憧れた事が、何度かある(笑)

  • 中編二編。どちらもよかった。貧困や天災やなにか抗いがたい運命によって厳しい道を歩まされる人間の物語。山本周五郎の真骨頂のような二つの物語だった。耐え忍ぶ美とそれでも朽ち果ててしまう美。スポットライトがあたる花が美しいのではなく、その周りに咲く誰にも見向きもされない花にこそ真の価値があると、やはりテーマはそういったところだった。しかし、こういうものを書くときもお涙頂戴にせず、この世の無常と厳しさをきっちりと書き上げ、時代劇ではなく現代にも耐えうるものに仕上げてるあたりが、ただものじゃないなと思う。

  • 読んでいて、情景が浮かんできて、文章に引き込まれてしまいました。

    柳橋物語は、苦しく辛くなってきたけれど、最後におせんが味わった待ってた人が他の人と結婚して苦しい思いをした時に気付いた幸太の想い。
    新たな気持ちで前に進むおせんに人の強さを感じた。

    今もむかしも 直吉の素直で真面目一辺倒だけれども、芯の強さを感じた。
    男性として、顔ではなく心が素敵な人で、まきも目に見えるものより見えない所に本当に大切なものがあるのだとわかった。

    えてして、人はおおいに、目に見えるものに惑わされる事がある。

    本当に素敵な作品でした。

  • 山本周五郎さんは、文章が上手ですね。ただ文字が並んでいるだけなのに、まるで江戸時代にタイムスリップしたような気分に浸れます。火事の描写なんか本当に経験したんじゃないかと思ってしまう程リアルです。
    物語は、おせんという女性がただただ酷い目に遭う話なんですが、前向きに生きていく。これを読むと優しい気持ちになれますね。
    それにしても、幸太は本当にいい男だ。自分もこんな人間になりたい。
    私は、『さぶ』より好きですね。

  • 山本周五郎の時代小説がなぜ魅力的なのか。それはその時代を生きる人々の美徳を、本当に美しいものとして書き上げているからだ。分不相応なものを求めない、けれど決して諦めているわけではない。与えられた世界の中で、いかに幸福を求め、五感をフルに使い、人間らしく生きるか。心が豊かであるとはどういうことか、読み返すたびに思い知らされる。

  • 高校の時の課題図書だった。当時ひねたガキやったはずやのに号泣した。宿題の感想文が書けなかった。書けない理由を原稿用紙に綴った。今の僕の国語力では書き表せません、いつか文章でこの感動を書き表わせるよう、これからいっぱい本を読もうと思います、と。
    今大人になって読み、今だに書けない自分がいるけれど、それが周五郎の大きさなんだと素直に思う。心にただ刻むべき作家なんだ。

  • 江戸庶民の生活。
    つましく善良な人が報われるとか報われないとかそういう単純な勧善懲悪さではなく、諦めではないけど「まあそういうものなのだよ」ということが書かれているように思った。

  • 昭和二十年代の作品なので、現代の小説より重くて、読んでいて苦しくなります。それでも心が洗われる思いを得られるのが山本周五郎作品の良さだと思いました。

    柳橋物語のほうは、最後にも救いがなくてどこまでも悲しくなりました。
    おせんは優しい子だと思いました。幸太郎をどこまでも見捨てないし、不幸に落ち込む友人にも優しい。いつか幸せになって欲しい人物です。
    むかしも今も、のほうは、最後に救いがあってやっとほっとします。1冊にまとまったこの本の最後がこちらで良かった、と思いますね。

    どちらの女の子も、どうしてそんな男のほうを選ぶのか……、という残念感。
    大事なことは目に見えない、そんな教訓が籠められているように感じます。

  • 江戸庶民の生活感の書き込みぶりが半端ない。

  • 震災や火事で大変な身にふりかかる不幸の数々。主人公はえらいねー。

  • 何この陰気な話。お産したかしてないかくらい乳首見ればすぐわかるでしょう。

  • 「柳橋物語」と「むかしも今も」の2つの話。

    正直にまっすぐ生きる主人公、興味本位で悪い噂を流す隣人、相見互いと親身に世話をしてくれる他人、江戸の自然災害と飢えと病気、愛する人との心のすれ違いと、かなり重い気持ちになる話でした。
    ここまで不幸にしなくても良いのに、と、読み進めるのが辛くなる事がしばしば。
    でも、不幸になって初めて見えてくる事もある。不幸を味わったからこそ、主人公は幸せを感じる事ができた。

    「人間は調子のいいときは、自分のことしか考えないものだ」
    「自分に不運がまわってきて、人にも世間にも捨てられ、その日その日の苦労をするようになると、はじめて他人のことも考え、見るもの聞くものが身にしみるようになる」(P-51)
    源六爺さんの言葉が沁みました。

    そんな言葉がある一方、赤子に対するセリフが赤ちゃん言葉で、
    「ああいい子でちゅいい子でちゅ、ああちゃんいい子ね、はい召し上がれ」
    とか、引いた。

  • L

    2編。どちらも最後に号泣もの。
    しっかり自分で理解して納得して先に進めるようになるまで、時間かかりすぎだろ!
    柳町物語 若さゆえに間違ってしまったのか。女なら誰しも通る道なのかねぇ。幸太郎には立派な大人になっておせんを敬ってあげてほしいね。
    むかしも今も さぶ、は山本作品だったか。そんな感じ。自分の境遇を誰よりも自覚しているからこその謙虚さや一生懸命さ。誰しも自暴自棄になるところを耐えているのだから本当に強いのはキミだ!みたいな。幸せになることは簡単ではないんだな。

  • 【選書者コメント】歴史小説の名手の佳編。柳橋物語に描かれる人間の悲哀
    [請求記号]9100:2619

  • 柳橋物語読了。一見救いようのない物語だが、おせんが逆境の中でも強く懸命に生きる姿に感動した。そして、
    幸太という男性。どんなことがあっても最後までおせんを守り通した。真実の愛とはなにかひしひしと伝わってくる。悲しみの中にも大きな感動を感じさせる作品。

  • 中編2本、どちらも素晴らしい。
    そしてどちらにも共通するテーマは、天災と究極の愛。
    特に柳橋物語。まだ幼いおせんが結んだ結婚の約束。
    火事、水害、どんな災難もその約束を支えに乗り越えて来た、おせんがようやく再会した契りの相手の言葉。
    そして彼女が知った愛の苦しみと本当の意味。
    これこそまさに、究極の愛。
    二つ目の「むかしも今も」も心温まるお話で、どちらも読み終わった後目に涙を浮かべてしまった。
    心が浄化された。

  • 久しぶりの山本周五郎。
    中編2本という珍しい構成。

    前半は何ともやるせない。
    でも彼女が不幸かというと,意外と本人は幸せなのかもしれないなあと思ったり。

  • ひたすら不幸なおせんちゃんが主人公の柳橋物語。
    最後にキリっと強い女になって良かったヽ(;▽;)ノ

  • 「人間はどっちにしても苦労するようにできているんだから」

  • 「柳橋物語」
    女の人生、何があるかわかりません。
    でも、愛や情は必要であろうと強く感じさせられる本。
    それがあっても、楽ではないけれど…。

  • ベタな人情話だが、ヤられた。
    2篇とも、主人公のひた向きな生き方や、人々の情けに胸がしみる。
    たとえ貧しくとも、自分が今できることに惜しみなく力を注ぐ。その打算のない生き方は苦労もたえないが、誰をも責めることも恨むこともなく歩を重ねる。大仰ではなく、ただ当たり前のように人に気遣いを見せる姿は真情があふれ、味わい深い。
    雨後の青空に対面したようにホッとできる一冊。

  • 舞台は元禄時代、江戸の下町。
    上方へ旅立つ幼なじみの庄吉に想いを告げられた17歳のおせんは、胸を焦がしながら「待っているわ」と答えた。その後、江戸に残されたおせんを地震や火事、水害などが次々と襲い、おせんは頼るべき人々も失う。うち続く不幸の中で、彼女を奮い立たせたのは庄吉との約束だったが、一方でそれは呪縛ともなっておせんを苦しめていた。
    傍目からは「それは違うよおせんちゃん」と言いたくなることばかりなのだが、なにしろ一途でひたむきさが売りのおせんちゃんなので、おかげで随分と酷い目に遭ってしまうのである。そしてかわいそうな幸太と自分勝手で非情な庄吉…。
    「むかしも今も」は、愚直な職人直吉の、愚直な人生を描く。
    こちらも傍目からは「甘すぎるよ直吉~」と言いたくなることばかりなのだが、できた人間は最後には報われる、ということか。直吉の周りにもいい人ばかりで、人情たっぷりでございます。

  • 周五郎さんの文庫本はほぼ全て持っているつもりなのですが、調べてみるとやはり何冊か漏れてます。ついでに揃えようと買った本の中の一冊です。
    おそらく再読なのですが、周五郎さんにハマったのは結構若いころ。内容はすっかり忘れています。
    タイトル通り『柳橋物語』と『むかしも今も』の2つの中編からなる一冊です。どちらも二人の男性と一人の女性の恋を描いた町家物作品です。男性はどちらもキリッとした目端の効く男と、人は良いが少々愚図なその友人。山本さんですから、同然、後者と女性が中心になります。ただ、結末は大きく違います。
    それぞれ昭和21年と24年の発表作。周五郎さんで言えば、まだ円熟期前と言えるでしょう。充分に面白いのですが、ほんの少し何かが足りない気がします。
    とはいえ、久しぶりに周五郎の世界に浸って、何かホッとしています。

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