ちいさこべ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134253

作品紹介・あらすじ

江戸の大火ですべてを失いながら、みなしご達の面倒まで引き受けて再建に奮闘してゆく大工の若棟梁の心意気がさわやかな感動を呼ぶ表題作、藩政改革に奔走する夫のために藩からの弾圧を受けつつも、真実の人間性に目を見ひらいてゆく健気な女の生き方を描く『花筵』、人間はどこまで人間を宥しうるかの限界に真正面から挑んだ野心作『ちくしょう谷』など、中編の傑作4編を収録する。

感想・レビュー・書評

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  •  子供との接し方について考えさせられた。この物語には、火事で親を失った子供たちが出てくる。彼ら彼女らは、いろいろと問題を起こすのだが、茂次は頭から叱りつけるようなことはしない。自分も子供のころ同じようなことをした、誰もが通る道だと考える。そして冷静に子供たちに話しかける。ぶっきらぼうで少し荒っぽいところがある彼だが、そうした子供とのやりとりから温かい人柄が伝わってくる。きっと彼の両親もそのような真の優しさを持った人だったのだろうな。お仏壇のくだりではうるっとくる。
     茂次のプロポーズがいきなりで、この流れでいうのか!と驚いたが、それが茂次らしくてほほえましかった。「女房にするのと好きだということはべつだ」と言っているが、照れ隠しのようにも思える。
     火事で大切な人を失いながらも、必死に前を見て生きていく人々の姿が印象に残った。

  • 4つの物語から成る短編集である。どの物語も歴史を設定に置いた時代小説とよばれるものである。
     一つ目の物語”花筵”は、藩の政治における不正やそれをめぐる武家同士の対立を、何も知らずに武家へ嫁いだ主人公•お市の視点から描いている。起承転結がはっきりしており、ラストへと向かう展開もまさに時代小説の王道として描ききっていると思う。
     二つの目の物語”ちいさこべ”は、火事により両親を失い、若棟梁となった大工の茂次が、お店の再建、火事により孤児となった子供たちの世話などに奔走する物語である。主人公は茂次なのだが、茂次の心の底にある本音の部分が始めは描かれない。それ故、茂次の頑固さに周囲の人々と同様に苛立ってしまうだろう。しかし、物語が進み、茂次の心情が明らかになると、底にあった誠実さに胸を打たれる。そういった物語の展開に沿った心情の描き方などの上手さに唸ってしまう。
     三つ目の物語”ちくしょう谷”は、はたしあいによって兄を亡くした朝田隼人が、志願し木戸という部落の番頭を勤めることとなる。しかし、木戸は兄とはたしあいを行った西沢半四郎が勤める所でもあったのだ。このような流れがありながらも、物語の中心となるのは復讐ではない。木戸の流人村、通称ちくしょう谷に存在する退廃、諦め、人の卑しさとの戦いである。村の現状を知り、改善していこうと孤軍奮闘する朝田隼人であるが、長年わたり疎外されてきた村に漂う暗澹とした雰囲気に迷い、誘惑に負けそうになる。そこに西沢半四郎が絡み、話は進む。まるで修行僧のごとくひたすら苦難に耐えていく朝田。この物語ではそれら全てが解決はしない。それら苦難と対峙しながら、朝田がある決心を固めるところまでなのだ。しかし、この記述に清々しい気持ちになるだろう。ちくしょう谷が象徴している負の部分、貧困と無教育、何の娯楽もなく性を貪る状態。それらは現代でも世界中に見受けられる光景だ。そういった現代との共通点にも考えさせられるものがある。
     四つ目の物語”へちまの木”は、千二百石の旗本の三男•房二郎は養子に出されるのを拒み、家出をする。居酒屋で知り合いとなった木内桜谷の勤め先、出版社•文華堂に自分も働かせてもらえることとなる。しかし、そこで目にしたのは市井の人々の暮らしぶり、虚実関係なく売れるネタなら何でも良いといった文華堂の姿勢に辟易し、自分の考えの甘さや将来の見えない暮らしの不安と対峙させられる。この”へちまの木”も”ちくしょう谷”で見られた市井の人々の暮らしの中にある醜さやずる賢さ、漂う悲しみを描いている。時代小説を読む時、その華やかさや人情に目を惹かれがちであるが、そういった時代にも貧困や嘲笑が町にあふれていたことを忘れるべきではないだろう。そういったことを改めて思い出させてくれる作品でもある。

  • あんまり頭に入ってこなかったなぁ。
    改めて思いましたが、山本周五郎って連続して読むにはちょっとしんどい、個人的には。
    たまにふと手に取って何気に読むのが一番相応しい気がします、暗さがベースにある作家だけに。

  •  山本周五郎 著「ちいさこべ」、1975.5発行。花筵、ちいさこべ、ちくしょう谷、へちまの木の4話。山本周五郎さんの作品だし、傑作と耳にしてるので、頑張って読んでみましたが、花筵、なかなか読み切れず、読みたい本は次々にあるので断念しました。また、機会があれば手に取ってみたいと思います。

  • 皆、自分の生き方を貫くことは尊い
    ちいさこべはハッピーエンド
    山本周五郎の小説の終わり方はさっぱりで余韻を残す

  • 人間の悲哀を描いた、中短編四作を収録。

    どの作品も“生きる”」という、ある意味苦行のような事に耐えて乗り換える者、耐えらない者など、登場人物それぞれの生き方が独特の文体で綴られています。
    中でも、「ちくしょう谷」は、人間の尊厳について、考えさせられた作品でした。

  • 表題作の「ちいさこべ」。これがたまらなく良い。姿勢の暮らしを生き抜く職人の気風と粋、そして曲げられない意地が家事で親を失った孤児たちに、下手くそながらの愛情を降り注ぐ。これにより前後の短編が更にいきてくる。面白い。

  • 望月峯太郎の「ちいさこべ」を読もうと思って、その前に読んでおいた方が楽しめるかと思い、原作である本書を購入。

    江戸の風俗、昔の日本人の感覚みたいなものをとてもうまく書いている。表題作のちいさこべは落語の人情話を聞いているような心地よい、古の波に体ごとゆっくりと漂いながら流されるように山本周五郎が書き連ねた言葉に包まれていく。表題作以外の短編、特に花筵は三歩下がる昔の女性を表現しているのではなく、女性の真から人を愛する美しさを怒濤のような出来事のなかでよく書いている。災害の描写のうまさに引き込まれたが、巻末の解説を読むと、作者の実体験が色濃く反映されているのだなと納得。あれはそういう出来事を感じた人にしかわからないものたと思う。山本周五郎、全然興味がなかったが読み進めてみたいと思う。

  • 人間の一分を描いた傑作中編集。山本周五郎ならではの奥行き。

  • 「花簾」「ちいさこべ」「ちくしょう谷」はどれも良かった。
    「花簾」は少しだらける感もあるが、最後の畳み掛けるような展開が良い。
    「ちいさこべ」は続きを読みたい、もっと読んでいたいと思わせる作品。目頭が熱くなる箇所もあった。
    「ちくしょう谷」はきれい事のような部分が少しだけ鼻につくも、それが筆者の色とも言える。これも良い作品。
    最後の「へちまの木」は面白くないので残念でならない。

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著者プロフィール

山本周五郎(やまもと しゅうごろう)=1903年山梨県生まれ。1967年没。本名、清水三十六(しみず さとむ)。小学校卒業後、質店の山本周五郎商店に徒弟として住み込む(筆名はこれに由来)。雑誌記者などを経て、1926年「須磨寺付近」で文壇に登場。庶民の立場から武士の苦衷や市井人の哀感を描いた時代小説、歴史小説などを発表。1943年、『日本婦道記』が上半期の直木賞に推されたが受賞を固辞。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、とくに晩年多くの傑作を発表し、高く評価された。 

解説:新船海三郎(しんふね かいさぶろう)=1947年生まれ。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。著書に『歴史の道程と文学』『史観と文学のあいだ』『作家への飛躍』『藤澤周平 志たかく情あつく』『不同調の音色 安岡章太郎私論』『戦争は殺すことから始まった 日本文学と加害の諸相』『日々是好読』、インタビュー集『わが文学の原風景』など。

「2023年 『山本周五郎 ユーモア小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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