ユタとふしぎな仲間たち (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101135076

感想・レビュー・書評

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  • ユタという少年と座敷童子たちの短い日々を語った小説だった。
    都会から田舎へと下ってきたユタは村の人々となかなか馴染めずにいる。座敷童子たちは過去にとらわれ今を生きることができず、この時代に馴染めずにいる。この共通点が短いながらも彼らが仲間であるために必要だったことなのだろう。しかしユタは人間であり、変わっていく。座敷童子たちの協力もあり少しずつ村の子どもへと変貌を遂げていくのである。が、座敷童子たちにはそのように変化ができない。それは彼らが人間ではないからだろう。そうして変わっていくユタを見送りながら、馴染めない彼らはきっとこの先も様々な場所を転々としていくことだろう、というところまで考えて少し悲しくなった。成長や変化は人間という生きた者にだけ許されることであり、過去や古い者は淘汰される。それを改めて感じた。しかし、それらは今を生きる者に何かしらを遺すことができる。ユタは座敷童子たちとの短い日々で、きっと多くのことを学んだことだろう。

  • 勇太(ユタ)は父を事故で亡くし、母と二人東北の山間の村に越してきました。
    彼は東京もんとしてなかなか受け入れて貰えず、寂しい日々を送っていました。
    そんな時仲良しの釜焚きの寅吉爺さんから、座敷童の話を聞き母の働く宿の一室に一人で泊まる事にしました。
    すると座敷童のペドロ達が現れ、彼を仲間として受け入れてくれました。彼はそれから度々座敷童達と時間を共にし、彼らがどうして座敷童になったのかを知ります。
    座敷童達は皆、村の凶作の時に口減らしとして行われていた「間引き」で命を奪われた子供達だったのです。
    彼らは優しく、時に厳しくユタと接し、座敷童達の境遇や想いに触れたユタは次第に自分を鍛え、村の子どもたちに受け入れられて行くのでした。
    そんな時にユタと座敷童たちにある事件が・・・・。


    ペドロはじめ座敷童の面々は、生きたくても生きられず、成仏したくとも成仏も出来ず、人を恨むでも無くただただ身を寄せ合って暮らしています。いつまで果てるともしれない時間の中を。
    言葉の端々に彼らのやるせなさが滲み出ます、俺が人間だったらなあ・・・、母ちゃんただいまって言いたいなあ・・・、お盆にやってくる霊たちにこんな姿見られたくないから隠れてるんだ・・・。
    あー駄目だ書いているだけで泣けてきてしまう。

    一言だけ言えることは、もっともっと彼らと一緒の時間を過ごしたかったです。3倍くらいのボリュームが有ってもよかったくらいです。これ子供の頃に読みたかったです。結構寂しい子供だった自覚は有るのでこの本読んでいたらきっと座敷童に会いたくて古い家に泊まりに行ってたと思います。

  • そういえば劇団四季のポスターで見たことがあった。
    十二使徒のユダの話を作り替えたのかと思ったけれどそうではなさそうだとわかり。
    しかし、このあらすじを読んで、昭和初期の話だと思い込んで読み始めたものだから、ロケットが飛ぶような時代の話だと書かれていても違和感拭えず厄介だった。
    ユタが、都会から来た小学生という設定のせいか、音速を知っているとか、端々で小学生らしく見えない知識を披露するのも違和感あった。
    この時代の小学生で音速知っているって、よほどその方面に知識がなければムリじゃあないかしら。

    小学生にしてはずいぶんませている感のあるユタだけれども、自分を鍛えて、あるべき方向へ持っていこうとする。
    村の子供達にバカにされないように、という目的だったり、座敷わらし達の脚力に負けないように、という目的で自分を鍛える姿は、子供の成長物語としていい。

    座敷わらしが、生まれてすぐに間引きされたが故に、今でもおしめが取れない姿でいる癖に、天保の大飢饉あたりから生きていたりするから、煙管も吸えるというこのギャップが生む、子供でも大人でもないという存在だと知らされる感覚。

    座敷わらし達の住んでいた古い旅館が燃えてしまったことによる、ユタと仲間たちとの別れ。
    ユタが、村の子供達とも遊ぶようになり、仲間たちとの別れに正面向いていられる姿。
    明確な、子供時代の終わりだ。

  • 言葉の使い方が良い。バリカンよりハサミ。20人に1人足りない数。とか。

  • 父親を亡くし母の故郷である東北の田舎町に引越してきた都会の少年と座敷わらしの風変わりな交流。蒸れたオムツのにおいがする座敷わらし…奇抜な発想だ。日本むかしばなしのエンディングの歌を思い出すような、切なくて心温まる話だった。

  • 児童文学というだけあって、とても読みやすい。嫌な気持ちになることもないし、めちゃくちゃ平和。現実に起こり得ないことなのかもしれないけど、実はこの世界のどこかでこんなことが起こってるんじゃないか、と楽しくなる。

  • 読む本が無くて、カミさんの持っている古い本を借りて呼んだ。既存のもののけ?を独自設定にしてリアルに描くのは面白い。設定自体はかなり厳しい現実を元にしているが。

  • 父を亡くし、母の実家である東北のとある村に引っ越してきた小学生・勇太(ユタ)と、生きたくても生きることが叶わなかった座敷わらし達との交流を描いたファンタジー小説。この世とあの世のすき間で、信じる者の前にだけ姿をあらわす、愉快な座敷わらしたち。そんな妖怪がいるから、この世は奥行きがあり豊かで、人間の持つ精神や知性に対して、ゆとりを与えてくれている。

  • 座敷わらしの妖怪という存在を、日本の飢餓という歴史に結び付けてうまく体現している。子どもが主人公なので子どもでも読みやすい。田舎という特性もよく現していて、どんどんたくましくなっていく主人公のユタを見るのが楽しい。
    座敷わらしたちが、ユタの役に立つことが出来てよかった。

  •  『名作文学に見る「家」』という本を読んでいる。 小説の舞台となる家を記述から想像して絵に描き起こすという内容だ。その中に『ユタと不思議な仲間たち』が紹介されていたので、興味をもった。

     夜中の1時から読んで3時には読み終わってしまった。
     
     都会から家庭の事情で田舎に転校してきた小六生の勇太(ユタ)は、友達がなかなかできない。村の爺さんに、じゃあ、座敷わらしとでも仲良くしたらいい、とアドバイスを受け、満月の夜に座敷わらしが出ると言う銀林荘という旅館にひとりで泊まる。
     布団の中で眠気をこらえておきていたユタだが、次第にうとうと。夢か現かわからないまま、墨を流したように暗い部屋に白く浮き上がる脚を見た… 座敷わらし?


     とっくの昔に忘れ去った子どもの頃のワクワク、ドキドキ感を、こうして小説で読むのは懐かしいというより新鮮だった。「ユタ」なんて単語が題名につくから口寄せ巫女が主人公なのかと思ったら、ただのニックネームだった。もしかしたら、座敷わらしを呼びだせる霊力と実際の「ユタ」を結びつけたのかもしれない。まあ、それはどうでもいい話。
     
     座敷わらしは複数人でてくる。その中の中心人物(妖怪)がペドロだ。このキャラクターがいい。
    えばったり、すねたり、やさしくしてみたり、いたずらしたり、はずかしがったり、といろんな表情を見せてくれる。今風に言えば、ちょっと毒を吐くゆるキャラっぽい。かわいい。いつも小便臭いおむつをしているのにタバコを吸う。


     ペドロとユタの会話のやりとりを聞いてるだけで面白い。幼い兄弟が大人の真似をして演説をぶっているみたいだ。
     
     ただ、かわいいだけでなく、座敷わらしは、むかし飢饉があった年に間引きされた幼子が起源だから母親の愛情を知らないとか、ちょっとせつない過去を背負っている。だから時々いじける。


     大人目線でずっと読んでいるからこんな感想になってしまうが、子どもが読んだらどう感じるか、とても興味がある。設定は今から昭和30年代後半のようだ。でも今の子どもが読んでも面白くて新鮮に感じると思う。小学生時代に読んでみたかった。


     さて、なかなか村のこどもと溶け込めなかったユタも、座敷わらしの不思議な能力によって、とうとう仲間として認めてもらうことができたわけだが、その方法は読んでからのお楽しみということで。


     

著者プロフィール

三浦哲郎

一九三一(昭和六)年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文科を卒業。在学中より井伏鱒二に師事した。五五年「十五歳の周囲」で新潮同人雑誌賞、六一年「忍ぶ川」で芥川賞、七六年『拳銃と十五の短篇』で野間文芸賞、八三年『少年讃歌』で日本文学大賞、八五年『白夜を旅する人々』で大佛次郎賞、九一年『みちづれ』で伊藤整文学賞を受賞。短篇小説の名手として知られ、優れた短篇作品に贈られる川端康成文学賞を、九〇年に「じねんじょ」、九五年に「みのむし」で二度にわたり受賞。他の著作に『ユタとふしぎな仲間たち』『おろおろ草紙』『三浦哲郎自選全集』(全十三巻)などがある。二〇一〇(平成二十二)年死去。

「2020年 『盆土産と十七の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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