白夜を旅する人々 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (579ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101135083

作品紹介・あらすじ

昭和の初めの東北、青森-。呉服屋の長女と三女は、ある重い運命を負って生まれついた。自らの身体を流れる血の宿命に脅えたか、心労の果てに新たな再生を求めたか、やがて、次女は津軽海峡に身を投げ、長男は家を出て姿を消した。そして長女もまた…。必死に生きようとして叶わず、滅んでいった著者自身の兄姉たちの足跡を鎮魂の思いでたどる長編小説。大仏次郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 北方の一家が、それぞれ悲しみや不幸に打ち勝つでも避けるでもなく、ただ耐えながら生き抜いていく語。読み終えてみると、表題に付く“旅”という単語に前向きな意味合いが含まれていない事が分かる。
    大転換がある訳でもない、約700pに及ぶある種冗長にも感じるボリュームは、本作に込められた主題をよく表現している。
    白夜の様な世界に耐えながら、生きる事を辞めない家族に胸を打たれる。

  • 再読です。

    昭和初期の東北の呉服店の三男三女の物語。
    先天性色素欠乏症(アルビノ)の長女と三女以外は
    なに不自由なく暮らしていたけれど、年齢を
    重ね、自分たちの世間での立ち位置を認識し、
    次女は投身自殺、次女を溺愛していた長男は
    失踪、アルビノの長女は服毒自殺をする。

    著者はこの呉服店の三男にあたり
    物語では0~4,5歳。この三男と
    三女以外が細かく描かれています。

    読みたいフレーズがあったので再読しました。

  • 三浦哲郎さんご自身の家族の歴史がモチーフになっています。確か姉二人が自殺、兄二人が失踪だとか。
    新潮文庫の「忍ぶ川」という短編集でご自身の身内の死を「恥」という感覚に結びつけて描かれていて、この感覚こそが想像力では絶対に補えない部分なのだろうなと思い、ショックを受けた。

    今作で描かれている家庭は、東北の田舎町に住んでいる6人兄妹と父母に女中や乳母というわりかし裕福な家庭。三浦さんのご兄妹が実際どうだったのかはわからないけれど、今作では、るい、れん、ゆう、という姉妹がいて、そのうちるいとゆうは昔では白子とよばれた先天性の病気を抱えている。(アルビノというやつです)
    無遠慮な視線にさらされて縮こまるように生きていたるいとゆう。しかし命を一番最初に絶ったのは、間にはさまれたれん。長男の清吾はれんの死のショックも冷めやらぬうちに恋人の苗が自分に妊娠も知らせずに中絶手術を受け、それの失敗によって命を落としてしまったことを知り、失踪。作品の最後ではるいが睡眠薬の過剰摂取により自殺し、その葬列を末子の羊吉が幼い目で見つめ、馬車に揺られるシーンが描かれている。
    冒頭は逆に母が羊吉を生むために、清吾が産婆を馬車に乗せてくるところから始まります。
    寂しい道で閉じられたこの作品。
    白夜というのがまたなんとも効いていて、読んでいてつらくなった。

  • 六人きょうだいのうち、二人の兄が失踪、そして二人の姉が自殺する。生きつづけたのは三姉と末弟の哲郎のみだった。

    創作の初期から一貫した家族のテーマと向き合い続けた作者が、体験した当事者としてでなく、ひとりの作家として書き切った小説なのだとよくわかる。初期の作品はもっと等身大で、作中に出てくる兄弟のように、他の兄姉の死に影響されている姿が作品の中に良くも悪くも表れていた。死んだ兄姉をひとりの他者として見つめたからこそ、このような小説が生まれたのだと思う。
    この作品は、三浦哲郎と思しき〈羊吉〉という男の子が生まれてから六年間にわたる話である。

    公平叔父として出てきた母の弟と三浦哲郎がどんな関わりを持っていたのかが気になった。というかかならず調べる。

  • 三浦哲郎 「 白夜を旅する人々 」


    どのシーンも「白さ」「静寂さ」が印象に残る。風景の色彩や人物の躍動感を排除することで、生きることの厳しさや人間の内面の悲しみにスポットをあてたいのかもしれない


    私小説だけに、著者が小説を書く原点や決意を 綴った本だと思う。小説を書くことで、医者に治せない病気や遺伝への不安、自殺した家族の虚無感を 取り除き、自分や家族の生きる力を取り戻す というメッセージを感じる


    タイトル「白夜を旅する」は 「白くて静かな世界〜生と死の境界のない静寂の世界〜を生きていく」ということであり、死んだ家族と一緒に、その世界で生きていく
    ということだと思う


    著者の芸術観や人生観を示す言葉がセリフに現れている
    *平凡なのが、いっとう自然
    *人は死ぬときにならないと、自分がしあわせだったか〜わからないものだ


  • 昭和の初めの青森。白子の姉妹を抱える兄弟の、人生への展望は薄暗い。
    だが、この作品では白子が象徴的だが、東北の不幸は健常(語弊がありますが時代背景的にこの言葉を使います)であっても、のしかかるものは変わらないだろう。
    暗い、地域を背負う空気感が濃厚に、しかし淡々と描かれています。だからこそ迫ってくる青森よ…逆に東京の描写が薄っぺらく思えるほど。重厚な長編です。
    前半挫けそうな人へ、後半畳み掛けるようにして面白いですよ。

  • 短編を一通り読んでから、この長編を読んだので、じわじわとくる死と閉塞感がより強く味わえたような気がした。

    もう一度、短編を振り返り、この長編の断片を思い出したい。

  • 遺伝、という避けられない宿命。
    持たざる者の苦痛と持つ者の苦痛。
    誰が誰を恨んだり憎んだりしているわけではなく、皆が他の家族を思い遣っているのに、少しずつボタンを掛け違っていくように暗い方へと転がっていく家族の運命。

  • 再読。服毒自殺を遂げた姉るいの心のことば、暮れるでもなく 暮れぬでもなく 眠れるでもなく 眠れぬでもなく ただ深い井戸の静寂に包まれて 寝返りを打つばかりの白々とした夜 …が印象にのこる。雪国をはしる馬橇の鈴の音が耳の奥から消えない。

  • 三浦哲郎さんの著書を初めて読みました。平積みにされた書店でたまたま手に取った。
    重い内容で最後のあとがきを読むと、自伝だったのでなるほどなー。さらに次男も行方不明になっていたとは!
    でも、すらすら読めた。残った羊吉の無邪気さがなんともいえない。一番かわいそうなのはお母さんだな。

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著者プロフィール

三浦哲郎

一九三一(昭和六)年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文科を卒業。在学中より井伏鱒二に師事した。五五年「十五歳の周囲」で新潮同人雑誌賞、六一年「忍ぶ川」で芥川賞、七六年『拳銃と十五の短篇』で野間文芸賞、八三年『少年讃歌』で日本文学大賞、八五年『白夜を旅する人々』で大佛次郎賞、九一年『みちづれ』で伊藤整文学賞を受賞。短篇小説の名手として知られ、優れた短篇作品に贈られる川端康成文学賞を、九〇年に「じねんじょ」、九五年に「みのむし」で二度にわたり受賞。他の著作に『ユタとふしぎな仲間たち』『おろおろ草紙』『三浦哲郎自選全集』(全十三巻)などがある。二〇一〇(平成二十二)年死去。

「2020年 『盆土産と十七の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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