橋のない川(七) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101137124

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めは、咀嚼し辛い感情だったが読み進むにつれ、40年前がどんどん膨らんできた。怒涛の想いで一気読み。住井さんが30年余にわたり書き続けた大河のうねりは滔々と泊る所を知らない・・それどころか「福祉」というカテゴリーで21C の社会で新たな視点で対峙している。最終巻と言えども筆者死去によるそれでピリオドが打たれたわけだが、新たな書き手に期待はしない(風と共に去りぬの様に換骨奪胎の可能性)牛久の沼から下界を見下ろし小森の行方を微笑みつつ❓憂いの❓面持ちで眺めている事だろう。
    昭和2年と言えば日本が最も暗黒の時間に突入して行く前夜・・それから令和に至る時間は生き証人もいるし、法の仕組みも変わっている。何といっても大日本帝国が消え、日本国になった。水平社はもとより、天皇制、家族観、農業形態etc  天地がひっくり返っている。
    しかし、この時間があって、今に連なることを次世代にぜひとも伝えたい。
    孝二、熊ちゃんはもう存命じゃないだろう・・信吉が言った「末代の栄誉」はもはや死語なのだ。

  • 印象に残ったのは、信吉(だったか?)が肉牛のアスカを大切に育てて、それが事もあろうに皇太子夫妻に供されるという話でした。実話をもとにしたエピソードなのかは分かりませんが、数え切れないほど話題に上った天皇家と小森がここでつながるか…と皮肉です。大人が「末代までの栄誉」と有難がる中、1人涙する信吉の、働く普通の人達に美味しい美味しいと食べてもらいたかった、という心の叫びが辛かったです。学費捻出のために牛を一頭育てるという発想は生まれて初めて聞き、それ程までして勉強したいという熱い気持ちを現代では持ちにくいだろうなとか、農家のやる事ってスケールが違うなぁと思いました。信吉ほど家畜を丹精に育てる事は普通はないでしょうが、家畜肉を食べることの重大さを考えました。一次産業がどの様に営まれているか、どれだけ大切で大変かを、本書のあらゆる情景と共に胸に刻み付けられました。

    最初にこの小説のあらすじを聞いた時、もう現代で部落差別は無さそうだし読む意味があるかな?と思っていましたが、書かれている事は普遍的なことばかりで、インドのアウトカーストにそのまま置き換えられそうですし、根本的な差別意識は私の中に形を変えてあると気付かされもしました。

    また、扱うテーマが、思いつく限りでも人権、天皇制、農業、政治、経済、宗教、家族、地方と都会、戦争、教育、歴史、地理…と多岐にわたるので、これを読めばあらゆる問題意識や知識が与えられるので、いつか必ず子供に読ませたいです。

    解説を読み、「大河小説」という名前が本当にふさわしいなと同感しました。明治生まれの地方の農家の女性が本気を出して書いた小説の貴重さを感じます。戦後になって70歳から書き始めたとのことなので、あらゆる事を踏まえて、満を持しての内容になったのかなと思います。

    第1巻から読み始めて約1ヶ月半、現代の東京での家事育児生活の中、本を開いては小森の人達の人生を追体験させてもらいました。100年前に日本で命をかけて水平宣言を生み出してくれた人達に感謝をし、その精神を自分なりに引き継ぎたいと思います。

    今までで一番くらい影響力のある読書体験でした。

  • 大正から昭和になったところで、残念ながら終わり。仕方のないことだけど、孝二や熊ちゃんのその後はわからないまま。無事網走に行けて、金時のお父ちゃんに会えたのだろうか。
    第六部、第七部は新聞記事の引用などに対し登場人物たちが話し合う記録的な描写が多かった。第五部までの方が、生活の様子が生き生きと描かれていた気がする。後半では団結することの大切さと、恐ろしさと、両面が語られているなと思った。
    それにしても、百年で社会は激変したなぁ。いい変化も悪い変化もあると思うけど、食べ物がないと人間は生きていけないというのは変わらない。当たり前に三食食べていられることに感謝しなくては…。
    「世の中わけのわからないことばかりなのに、それに対して納得の行く答えを出してくれる人はどこにもいない」、登場人物たちのこの声は、今まで自分もずっと持っていた思いなのですごく共感した。だからこそ自分で考える力をつけなくてはならないのだ、と強く感じる。

    • アテナイエさん
      マヤさん、長編の読了、素晴らしいです!!
      確かに5巻以降はルポ風になってきていますが、全体を通して大変読みやすい、しかも正確で優しく美しい...
      マヤさん、長編の読了、素晴らしいです!!
      確かに5巻以降はルポ風になってきていますが、全体を通して大変読みやすい、しかも正確で優しく美しい日本語が使われていていたく感激しました(^^♪)
      また、一貫して作者が伝えたかったことは普遍性をもっていますし、読んだ一人ひとりに考える機会が与えられることが最大の魅力ですよね♪ そういえば私もあらためて毎食作りながら「当たり前に三食食べていられることに感謝する」ようになりました!(笑)それとともに、今の私たちの自由や平等や人権といわれるものが、決して当たり前ではないのだな……宮沢賢治ではないですが、これからも「すきとおったほんとうの食べ物」にしていかなくては……決して残飯状態にしたくない……つい先日の国会に呆然としながらそんなことを思いました。いまの時代だからこそ「1984年」とともに(笑)多くの人に読んでもらいたい作品ですね♪
      2017/06/17
    • マヤ@文学淑女さん
      アテナイエさん、ありがとうございます!これで今年の目標がひとつ達成できました。
      六、七部では大会やデモの様子なんかも描かれていて、石牟礼さ...
      アテナイエさん、ありがとうございます!これで今年の目標がひとつ達成できました。
      六、七部では大会やデモの様子なんかも描かれていて、石牟礼さんの「苦海浄土」を思い出しました。どちらも勇気を出して声を上げることの重要性を伝えてくれる作品ですね。
      苦境にめげず大統領にまでなったリンカーンについて孝二たちが感心する場面がありましたが、アメリカにも黒人白人間の根深い人種差別があるんだよ…と孝二たちに教えてあげたい。
      今の時代だからこそ読むべき古典ってたくさんある気がします。「1984年」は今ブームのようになっていますが、この「橋のない川」はレビューも登録数も少なくてさみしいですね。目を瞑ればなくなるものではないのだから、歴史として知っておかなくてはならないことだと思います。
      2017/06/17
  •  小学校で先生が「人間に一番近い動物は?」。大半は「猿です。」一部の生徒は「エタです。」住井すゑさん(1902.1.7~1997.6.16)の「橋のない川」に橋を架ける作業、お疲れ様でした。第6部で一旦筆を置いたものの、90歳で第7部を完成! 「橋のない川(七)」平4.9刊行、399頁。ご本人は8部、9部への意欲を持たれていました。第7部は孝二とまちえに注目して読みました。きっと川に頑丈な橋が架かるものと信じ、全3670頁を読み終えました。大河小説でした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/60557

  • 3 「大人になる」とはどういうことか[辻智子先生] 2

    【ブックガイドのコメント】
    「被差別部落に生まれた少年の成長を日露戦争から水平社宣言へと向かう時代の中で描く。」
    (『ともに生きるための教育学へのレッスン40』182ページ)

    【北大ではここにあります(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000073502

    【関連資料(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    ・[単行本]1992年発行
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000693630

  • 前作からほぼ20年ぶりという刊行。差別の実態を明らかにする小説として累計400万部のベストセラー。七巻全部読んで良かったと思うがかなり長い。また、差別反対・天皇制反対・真に平等な社会に向けた人言解放という主張に意を唱えるつもりはないが、主張が偏りすぎる箇所があり、読みにくい。ところどころに出てくる”ぬい婆ささんの喝破で十分なきがする。

  • 終わってしもた。
    この本はいつかちゃんと手元におきたい。

  • 自分が偏見の中で生きていると自覚できた小説でした。
    知らず知らずに自分優位になったものの見方をしているという
    恐ろしさに気づきました。
    幸せは、目に見えないということも改めて知りました。

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