櫻守 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101141091

感想・レビュー・書評

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  • 『櫻守』と『凩(こがらし)』の中編二作を収録。どちらも、死場所を求めて旅を重ねる物語のように思える。
    「死にたい」という意味ではない。
    どちらの主人公も、己の生業(なりわい)に真摯に生きた人生の「上がり」の場所を定め、そこで静かに眠りに就きたいのだ。
    変わってゆく世の中への嘆きや不満はある。しかし、自分の人生を生ききればそこで潔く終わる。
    作者の死生観があらわれている。
    どちらも自然の描写がとても美しく、葉ずれの音、その色、風や光、水の流れを近くに感じる。

    【櫻守】
    木樵であった祖父について小さな頃から毎日のように山に入っていた、北弥吉(きた やきち)。
    山桜の散る中で見た、母と祖父の姿が目に焼き付いていた。
    やがて庭師となり、桜の研究者・竹部庸太郎の片腕となる。弥吉は師にならい、あちこちの桜を見て回り、無償で手入れをした。
    多くを語らない人物だったが、見て回った木のことを「桜日記」に残す。
    40代で病を得た時、彼は故郷ではなく、年に何度となく手入れに行った、一本の桜の下に眠ることを望んだ。
    【凩】
    宮大工の倉持清右衛門(くらもち せいえもん)は、老いて脚に神経痛を患い、思うように働けなくなった。
    村民たちとそりが合わず、自分の葬式には何人来るだろうということばかりを考える。
    京の町中で暮らす娘のめぐみに、家と土地を売って自分たちの近くで暮らすよう勧められるが、娘とその相方・達之の生き方にはことごとに反発を覚える。
    達之の、己の手では何も作り出さない、インテリアデザイナーという仕事も理解の範疇を越える。
    近代化を頭ごなしに否定するわけではないが、やはり木造建築の、何百年と変わらない美しさを保つ寺社を見れば、自分のしてきた仕事を誇りに思うのである。
    やがて清右衛門は、自分の死場所としての堂を建てることに、宮大工としての技術の全てをつぎ込んでいく。

  • なぜ主人公は竹部ではないのか、その思いが最後まで解消されることはなかった。保守と革新の相容れない思想のすれ違いが不協和音を発し続け、最後までいたたまれない思いがしてならなかった。

  • 学生の頃に読んで好きだった本。
    吉野で桜守されている方をテレビで観て思い出した。

  • 桜を愛し守り続ける人々の心意気を描く。実在の人物をモデルにしたというから驚きだ。このように桜を愛する人がいたというだけでうれしくなってくる。桜は染井吉野だけではなく、様々な種類があることにも驚かされた。まさしく、日本は桜の国だ。

  • 「飢餓海峡」に次ぐ2作目の水上作品読了。「櫻守」と「凩」、200ページちょっとの2編の中編小説が収録されている。「凩」の老境に差し掛かった(とは言ってもまだ65歳)宮大工の清右衛門の孤独な心境の描写が心にしみた。清右衛門の立場に近い定年間際に再読すれば、より感慨も深い作品となるだろう。

  • 「金閣炎上」で名前を知っていた水上勉。

    初めて読みました。

    櫻守、凩を収録

    文化や価値観は移り変わる。
    新しいものはやがて不貞腐れ、新しいものにしたり顔で批判する。
    だから新しいも古いもない、文化は時間に支配されてはならない。
    古いからいい、新しいからいいではない。

    むしろいい、悪いもない。

    みんなそれそのものを受け止めること。
    大事なことは、ひとりびとりの文化を認めること。
    伝統が必ずしも素晴らしいものであるとは限らない。

  • 櫻守(新潮文庫)
    著作者:水上勉
    発行者:新潮社
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    桜に魅了された庭師の情熱と生き様に、胸打たれた作品。

  • なかなか良かった

  • 表題ともなる「櫻守」と「凩」の二編収録。一言で言えば、美しい作品。情景描写がとても繊細に描かれていて、豊かな自然の景色が目の前まで浮かんでくる様。
    二編共に職人堅気が主人公の作。仕事に対する執着さと頑固気質もありながら、どこか憎めない純朴さもあったりして、その感情の起伏が読んでいてとても楽しかった。
    人生とは何か、生きるとは何かを考えさせられた作品。

  • 桜の木を愛し続けた庭師の話と伝統の建築を愛し続けた宮大工の話の二編。
    どちらも昔気質の職人が自分の人生を捧げるものにこだわり続け、自分の主義を貫いて行く。
    それは現代批判にも繋がっているのだが、ただ現代がダメで昔は良いというのではなく、ちゃんと相手のことを考えた仕事は良い、と言っている。
    説明くさかったり、物語の盛り上がりというものがなかったりなので正直言うと退屈だが、読み終えると一本芯の通った生き方になんとなく憧れるところもある。

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著者プロフィール

少年時代に禅寺の侍者を体験する。立命館大学文学部中退。戦後、宇野浩二に師事する。1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。1960年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、1961年『雁の寺』で直木賞、1971年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、1975年『一休』で谷崎賞、1977年『寺泊』で川端賞、1983年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。『金閣炎上』『ブンナよ、木からおりてこい』『土を喰う日々』など著書多数。2004(平成16)年9月永眠。

「2022年 『精進百撰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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