ブンナよ、木からおりてこい (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101141145

作品紹介・あらすじ

トノサマがえるのブンナは、跳躍と木登りが得意で、大の冒険好き。高い椎の木のてっぺんに登ったばかりに、恐ろしい事件に会い、世の中の不思議を知った。生きてあるとは、かくも尊いものなのか-。作者水上勉が、すべての母親と子供たちに心をこめて贈る、感動の名作。本書は『青年座』で劇化され、芸術祭優秀賞をはじめ数々の賞を受賞した。巻末に「母たちへの一文」を付す。

感想・レビュー・書評

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  • 読む前は、童話であり、お寺近くに住まうカエルや動物たちが出てくる話だから、ホッコリするものかと思いきや、壮絶な物語でした。

    冒険大好きで跳ぶことが得意なトノサマガエルは大きな木を見つけ、好奇心から高いところまで登りますが、危険な場所にたどり着き、そこから大きく物語が始まります。
    色んな動物たちの優しさや思いやり、時には非道さや残酷さが描写され、自然ってこんなに弱肉強食の世界なんだな、でも、美しいところもあるんだなと感じました!
    少し教育じみてる部分もありましたが、改めて普段の生活では気づけない大切な事を学べました!

  • 舞台劇用に作られた作品ということで、舞台で演じられるところが目に浮かぶような内容だった。
    カエルでありながら、椎の木のてっぺんを目指し、そこで遭遇するトンビに連れ去らわれてきた様々な生き物の様子を描く。
    日頃、強さを装っているものでもあっても、そうした姿だけではないという一面を描くとともに、他者の気持ちを理解することと、日々生きていくことの価値を描き出す。
    舞台を見てみたいと思った。

  • トノサマがえるのブンナは、ある日椎の木のてっぺんに登った。しかし、そこは鳶が餌を貯蔵するところだった。雀や百舌、鼠、へび、牛がえるが次々に運ばれてきて、誰もが生きたいと泣き、後悔し、あがき、そして鳶に食べられた。ブンナは恐ろしくて降りられなくなった。そして、生と死について考えるようになった。果たしてブンナは生きのびて木から降りられるのだろうか。水上勉が子どもたちのために、そして大人たちのために編んだ童話。

  • 幼い頃に相国寺の塔頭に小僧に出された経験のある水上勉さんらしい輪廻転生や今を生きることの大切さなどをわかりやすく物語にした児童文学です。

    トノサマがえるのブンナくんが高い椎の木のてっぺんに登るんだけど、そこは恐ろしい鳶がエサを貯蔵しておく場所だったんだ。
    そこで半殺しの状態で死を待つだけの状態になったかつての天敵たち:ヘビやモズなどの会話をこっそりと聞くんだけど、そこからブンナくんはいろんなことを学んでいくってお話でした。

    過去の悲しみや世間の不条理は常にあるけれども、生きるよろこびを謙虚に受け止めて、今を生きていこうってお話でした。
    素晴らしいお話だったよ!

    ちなみに「ブンナ」って名前は、お釈迦さまのお弟子さんの名前からとったんだそうです。

  • いつ読むのが正解なのだろうか。それがこの作品を読んだ正直な感想。童話のような仕立てでありながら、残酷な地獄絵図さえ見せる生き様の物語。子供のころ読んだらうなされそうな気がする。
    ブンナは両親とは死に別れ、ツチガエルの仲間と暮らす孤独なトノサマガエル。特技は木登りで、椎の木のてっぺんに登って生活がしたいと考えるようになり、登ってみるが、そこは鳶のえさ場だった。次々運ばれてくる獲物たち。生への意地汚いほどの執着、死の恐怖。
    学生のころ、よくこの作品がの演劇が近所の公会堂などで演じられているのを広告で目にして、題名は知っていた。恐らく教育的な内容のものだろうな、と漠然としたイメージしかなかった。鳶のえさ場に落とされた、傷ついた獲物の姿、その言動は、まるで戦争映画の残虐な場面を集めたような生々しさで。仏教の曼荼羅のような、丁寧で鮮やかさな筆致に目が眩む。自分が子供だったら読みたくないと思う。子供にはかなりきつい内容、しかし大人としては教えたい、この葛藤。読み終わってしばらく経った今も悩んでいる。

  • 時々、まさにちょうどそれを必要としていたんだ、というタイミングで、そういう本に出会う事があるけれども、この本はまさしくそういう本でした。
    内容は全く知らずに、ただ単にカエルが主人公だという情報のみで手にとって読んだのですが、これはとても大事なことを教えてくれる本でした。
    こどもにも読めるような語り口調の文章でありながら、その内容は重く、せつなく、でもとても大きなメッセージを含んだものだと思います。
    「きょう一日を生きてゆくよろこび」。この命は、おおぜいのいのちの一つ。それは、ただ単に食物連鎖の話をしているだけではないと思う・・・。
    この世に何も残してゆけない私だけれど、どうか願わくば、死んだあとは焼かれて骨つぼに収められるのでなく、土に還ってそこから虫や植物が生まれ育ちますように・・・。そうして私もまた、このイキモノたちのおおぜいのいのちのひとつに加わりたいなあ、と思うのでした。

  • この本はもう20年以上前
    ある事で悩んでいるときに、偶然手に取った本です。
    今でも何かの時に思い出し読み返していて
    もうボロボロになってしまっています。


    ジャンルは児童文学。著者は水上勉さんです。
    もともとは1972年に『蛙よ木からおりてこい』という題で刊行されました。
    青年座によるお芝居や、アニメ化もされているので
    聞いたことがある方も多いかもしれません。、


    内容のエッセンスとしては
    生きとし生きるものはすべて
    生命を頂いてその中を一生懸命に生きているんだ。ということ。
    (ああ、文章にしてしまうとなんて陳腐)


    主人公のトノサマガエル、ブンナは
    自分の力試しに高い椎の木に登ります。
    ある秋の日に、とうとうてっぺんまでたどり着き
    「ここは天国だ」と有頂天になりますが
    やがてその場所が実は恐ろしい鳶のえさ置き場だったと知ります。


    ブンナはそこにあった土に隠れながら
    鳶にさらわれてきた雀、百舌、鼠、蛇、うしがえる、などの
    後悔、ざんげ、あきらめ、自慢、
    母への思念を聞きます。
    さまざまな動物たちが生への思いを語り
    そして鳶にさらわれ、また息絶える。。。
    ブンナそれに怒ったり驚いたり悲しんだりしながら
    やがて、命の流れに気が付いていきます。


    最後のページでブンナは仲間たちにこう呼びかけます。
    「おーい、みんな、がんばって生きようね、きょう一日をね、
    生きられるきょうのよろこびを・・・・きのうのかなしみなんかわすれてね・・・・
    みんな声をあわせてうたおうよ」

    この本は巻末に
    「母たちへの一文」--あとがきにかえて--
    という文章が付されています。
    水上氏は、この文章を
    母が子供たちに朗読するために書いたそうで
    私も、母としての視点で読んでいたことが多かったのですが
    最近はいっぽいっぽ手探りで進んでいる自分個人の視点から
    読み直していることに気が付きました。


    お子さんがいらっしゃる親御さん。
    生きる意味を探しているお若い方。
    今、悲しい報道ばかり錯綜している今の世に
    心が揺れている、そんな方に。

    小さなカエルのブンナからの
    大きなメッセージが伝わるのでは。と。思います。

  • ずいぶん前に古本屋で購入したのですが、この頃は図書館で借りた本を読むのにかまけてずっと積んであるだけでした。連休中は図書館に行かなかったので読む物がなくなりそう言えば前に買ったなあと引っ張り出してきました。
    とても素敵な話でもっと早く読めばよかったと思っております…

    この世は弱肉強食で生きているものはなんらかの形で他者の命を食べて生きながらえている。その事を頭では納得していても実際死の差し迫った状況に置かれた際、観念出来るのだろうか?私もスズメみたいにあさましく他者を売っても生きながらえようとするだろうなあ…

    あとがきが又素敵でした。
    「いったい誰が人なみでいることをわるいときめたか。また、人なみでないことをダメだときめたか。」
    水上勉さんはやっぱり素敵だなあ。この頃読んだ本の中では一番でした。最後の辺りは泣いてしまいましたよ。

  • 水上勉は好きだけど、童話っぽいということで敬遠していた一冊。
    しかしながらとても良い小説でした。
    他者を殺して食べることなしには生きることができないという、忘れがちだけど当たり前の事実を、とてもわかりやすい形で示しています。

  • タイトルも、主人公がカエルだという事も知っていたけれど、読んだ事のなかった水上勉さんの代表作。これは児童文学だけど、大人が読んでも面白い。
    高い木に登ったブンナが、そこで見る(聞く)弱肉強食の世界。<br>生きている物には平等に太陽は降り注ぐし、雨風は厳しい。でも平等だけど世の中は弱肉強食で、強い物は弱い物に容赦はしないし、賢い者は愚かな者を蹴落として生きていく。どんなに冷酷な者にも親は居て、親は無償の愛を子に注ぐ。<br>
    いじめが再び問題化する今、こうやって読むと、とても感じるものがあります。

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著者プロフィール

少年時代に禅寺の侍者を体験する。立命館大学文学部中退。戦後、宇野浩二に師事する。1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。1960年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、1961年『雁の寺』で直木賞、1971年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、1975年『一休』で谷崎賞、1977年『寺泊』で川端賞、1983年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。『金閣炎上』『ブンナよ、木からおりてこい』『土を喰う日々』など著書多数。2004(平成16)年9月永眠。

「2022年 『精進百撰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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