娼婦の部屋・不意の出来事 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101143026

作品紹介・あらすじ

男に翻弄され、ほかの職業についてもすぐに元の娼婦に戻ってきてしまう女に対する「私」の奇妙な執着を描いた『娼婦の部屋』。場末のキャバレーで働く女と、女のヒモで気の弱いヤクザ、三流週刊誌の記者である「私」との三角関係を淡々と描いた『不意の出来事』。ほかに『鳥獣虫魚』『寝台の舟』『風景の中の関係』など、初期の傑作短編13編を集めた作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 小編のいたるところに、昭和の時代のエートスが感じられる。

  • 女性との冷めた関係を好むのは、臆病な自分が安心を求めるからか。ただ、どの主人公も悶々とせず涼やかである。女の情夫がやくざと聞いてもうろたえはしない。それはストーリーが淡々と進むように感じさせるが、先行きを想像させる結末に短編とは思えない余韻を得る。初めての著者の小説だが、他も読みたい。2022.4.21

  • 驟雨や原色の街より面白い。何度も娼婦稼業に戻る女、娼婦についていくと実は男娼で勤務先をやめて薬物中毒とオカマにハマる男、実は傷ついた肉体を持つ女との関係とすぐそばの死、ゴシップでタレントを揺する安い記者とヤクザと女の三角関係。陰気臭い話だが淡々と描かれて良い。

  • この直前に読んだ『原色の街・驟雨』より少なくとも当方にとっては全然上、評価も当然ながら上とならざるを得ず。
    娼婦との関係という、少し厳しく言ってみれば私的な、小さな世界でストーリー展開していたのが、上手く昇華した感じ。まぁ熱狂的なファンからすると嫌なのかもしれないけれど、必要なステップアップという感ありです。つまり、性別問わず、育ちを問わず、誰もが自然に感情移入できるというか。まぁ上手いですよ、逆にそこが気になる位かもしれず。

  • 男女間のやりとりや心情を繊細で緊張感を伴った独特の情緒で描いている。どの短編もレベルが高い。
    「驟雨」の短篇集よりも、本作のほうが出来が良いと思う。

  • この歳になって、やっと吉行淳之介をじっくり
    読めるようになったろうか

    僕にとって
    娼婦とか吉原とか赤線とかって
    谷崎や吉行や太宰の小説がイメージされる

    歌舞伎町とかもそんなイメージで
    思っていたが、実際はもっとデジタル的な
    感じになっているかもしれない。
    あるいは依存症とかメンヘラと言われるものに。

    風俗に以前の情緒を求めてはいけない気がする。
    まあ、でも溝口健二監督の映画『赤線地帯』とかは
    なんかしたたかさとか計算的なものを感じるから
    一概には言えないのかな

    まあ現在でも風俗嬢と親身に話してみれば
    してることは昔と同じなのだから
    昔と同じ情感はあるのかもしれない

    システムがデジタル的である、というべきか

    吉行の描く娼婦は
    今でこそベタな感じだが
    多分かかれた当初は新鮮だったろうと思われる。
    たぶん、吉行の眼が僕達のスタンダードな眼差しに
    なったというのが正解なんだと思う。

    「傷ついた二匹の獣が、それぞれ傷口を舐めながら
    身を寄せ合い体温を伝え合ってい」た

    私の「眼の中で色褪せていく娼婦の町」

    「秋子の部屋は、安息の場所ではなくなった」

    ひとつひとつに定番を感じるのだ。

    ああ、永井荷風の『墨東奇譚』を読も

    以下藤田宜永の解説文より

     売春婦と客は、愛情や恋心で繋がっていることはない。
    金銭取引が成立した上で肌を交わらせる。
    しかし、売春婦にしろ客にしろ人間だから、
    気が合うことも起こりえるし、
    そうなれば、人間的繋がりも発生する。
    しかし、土台はあくまで金銭的繋がり。
    よって、感情の垂れ流しに、一種の歯止めが
    かかっている関係といえる。
     女に感情を垂れ流すのを恐れる男にとっては、
    安心して“交流”できるのが“街の女”なのである。

     恋することに対して、とても臆病になり、
    肉体関係のみを、女との“人間的”繋がりと考えている
    男の心が変容していく…。
    吉行の娼婦を扱った小説の主人公は全員、
    このパターンを踏んでいると言っても過言ではない。 

  • 吉行淳之介の小説は、肉体とか性を通さないと生をつかめない登場人物に不条理を表現させているイメージなので、一見すると無機的なのかと思いきや、不思議な形で感情が介在している感じがします。そのバランスがなんだか癖になります。
    この短編集では、『鳥獣虫魚』という作品がひときわ好きです。登場人物たちの不安定に何かを求める感じと、色彩豊かじゃないのに鮮烈な色合いの感じが、すごく後を引きました。

  • 吉行淳之介の初期の傑作短編13編を集めた作品集。ちょっとした情景描写や登場人物の挙動の行間に含むものがある。ただそこには人間性のどす黒い闇が直接的に描かれているわけではない。それどころかある種の非人間的な清々しさすら漂っている。しかしそれでいて不思議と心を捉える人間臭さが立ち篭めている。「不意の出来事」はやはりその中でも傑出している。

  • 某フェミニストの批判を切欠に手に取ってみた。
    初期作品集だからか思ったほど過激でなく、エゴも鼻につかないレベルに見えたのだが。

  • 20091011-20091014

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著者プロフィール

大正十三年(一九二四)、岡山市に生まれ、二歳のとき東京に移る。麻布中学から旧制静岡高校に入学。昭和十九年(一九四四)九月、岡山連隊に入営するが気管支喘息のため四日で帰郷。二十年東大英文科に入学。大学時代より「新思潮」「世代」等の同人となり小説を書く。大学を中退してしばらく「モダン日本」の記者となる。 二十九年に「驟雨」で第三十一回芥川賞を受賞。四十五年には『暗室』で第六回谷崎潤一郎賞を受賞する。主な作品に『娼婦の部屋』『砂の上の植物群』『星と月は天の穴』『夕暮まで』など。平成六年(一九九四)死去。

「2022年 『ネコ・ロマンチスム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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