胡蝶の夢(四) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101152301

作品紹介・あらすじ

瓦解する幕府の海陸軍軍医総裁となった松本良順は、官軍の来襲とともに江戸を脱出し会津に向かう。他方、ともにポンペ医学を学んだ関寛斎も、官軍野戦病院長として会津に進軍し良順と対峙する。そして、激動のなかで何らなすところなく死んでゆく伊之助。徳川政権の崩壊を、権力者ではなく、蘭学という時代を先取りした学問を学んだ若者たちの眼を通して重層的に映し出した歴史長編。

感想・レビュー・書評

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  • 四巻目。徳川の世が終わりを迎えるなか、良順は幕府の海陸軍軍医総裁として官軍と戦う。最後は江戸を出て会津へと向かう。医で江戸の身分社会を浮き彫りにし、その崩壊を描いた小説だった。蘭方医学の書生達の生涯は、まさにひらひらと封建社会の終わりに舞う胡蝶のように妖しく物悲しい。
    そして。伊之助。語学の天才だったが、社会性欠如のために世間から疎まれ、明治の世でも通訳や医学を教える程度で歴史に名を遺すことはなかった。
    しかし、この小説の表の主人子が松本良順ならば、影の主人公は間違いなく伊之助であろうと思うほど、この語学の天才の点描が多い。しかも司馬の伊之助に対する目線はどこか優しい。作家として異能の弾かれ者の個性に最も惹かれたのではないだろうか。

  • またも週末どっぷりを消費して一気に 読み切ることになってしまった司馬長編小説最終巻、その熱中ぶりを表現する意味でも星一つ追加!

    本作を手に取るきっかけとなったのは「街道をゆく 北海道の諸道」において関寛斎の壮絶な人となりを見せつけられた故にであったが、奇しくもその最終章は予感通りというか彼に関する記述で締めくくられていた。そのあたりも読了後の爽快感に直接寄与している。

    始まりがそこであったがために初志どおり彼に近づけたというだけでも幸運だったわけであるが、その過程で松本良順とその師弟、伊之助こと司馬凌海に密接に関わることが出来たのは果報者と自分を呼んでも大袈裟でないほどの出来事であった。もちろんこの三名にとどまりはしない。「幕末維新期の医療事情」といったともすれば地味な歴史の切り口ではありながら、「オールスター総出演」と呼んでもよいほど数々のこの時代の人物を砂鉄の如く吸い寄せて彩っている。そして本作においてはシバさんの他の作品ではなかなかうかがえない、人権というものに対するシバさんの見地ともいえるものを垣間見させてもらえることができるのだ。

    「竜馬がゆく」、「燃えよ剣」、「最後の将軍」、「世に棲む日日」、「花神」…といった数々のこの時代近辺の彼の作品を眺めてきた自分にとってはまさに「お買い得品」の如き本作、言うなれば「たった四巻で、夜も眠れず」といったところ(笑)

  • 最終巻。倒幕、戊辰戦争、維新政府での松本良順、伊之助、関寛斎の生き様を描く。欲を言えば、会津戦争など、もう少し松本良順の後半部分を詳しく描いてもらいたかった。若干、尻切れトンボの感あり。

    全体を通じて、
    医学史の切り口で幕末を理解するアプローチはとても興味深く、当時は、医者という立場がユニークで、ある意味、封建社会の身分制度から自由な立ち居地で振舞うことができたのだろう。大村益次郎他数々の志士が医学に通じていることも改めて納得するところ。

  • 戊辰戦争が始まり、良順は佐幕軍に従軍し会津若松で軍医をする一方、関寛斎は官軍野戦病院長として働くこととなる。伊之助は佐渡で鳥羽伏見の戦いで官軍が勝ったことを聞いて横浜の佐藤泰然の元へ行きそこで英国医師ウィリスなどの通訳として働く。戦争後伊之助は語学塾を開き新政府が新たに設立した大学東校でドイツ医師ホフマンらの通訳としても働くがこれと言った成果もなく最終的には結核でなす所なく死んでいく。
    全話通して話が脱線する箇所が多くテンポが悪いように感じ少し読みづらかった。良順と伊之助が主人公なのかなと思ったけど後半は寛斎の記述が多くなっていって作者は誰かにフォーカスを当てるというよりも蘭学が江戸時代後期に与えた影響を描きたかったのかなと思った。

  • 全4巻、幕末から明治にかけて医学の進展に奮闘した蘭医たちを描いた松本良順を中心とした群像劇。

    幕末、封建社会の因習に苦労しつつも、オランダ人ポンペから学んだ医学を武器に奮闘する人々。手塚治虫の「陽だまりの樹」でも描かれるテーマ。薩長や幕府からの視点の作品は多いが、いずれにも完全には属さない立場からの明治維新も面白い。

    司馬遼太郎作品は何度読んでも面白いが、本作は初めて。まだまだ未読本も挑戦していきたい。

  • 題名の謎が解けた。胡蝶の夢を見たのか、それとも自分が誇張で今夢を見ているのか。人間というのはちっぽけな存在で、社会という大きな引力に引き寄せられて、知らぬ間にその混沌の中に放り込まれてしまう。

    医学史というテーマから、江戸の身分制を生々しく描き、その中で自分の存在する位置を定めながら器用に生きていくことを知らぬ間に強いられるのが、江戸時代。どんなことよりもその能力が呼吸するのと同じくらい必要で、どれだけ秀でた能力を有していても、その一点が欠けているだけで、社会から放り出されてしまう。社会とは一筋縄ではいかないとはいえ、勝手なものである。

    医師が身分から外れて、僧と同じような扱いである理由がここでわかって良かった。そして、今も残念ながら根強い、医師と患者の関係性の発端も見えた気がした。

    穢多非人という腫れ物のような話題についても書いてあり、非常に勉強になった。奴隷以上に蔑まれ、もはや人ではない身分も作ってしまう、そしてそれを受け入れてしまう、疑問に持たない社会が、ほんのちょっと昔にあったなんてやはり信じられないが、人間もなかなか成長しないわけで、そういう気概というのはなんとなく残っているのが、悲しいかな。

    松本良順の名だけは知っていたが、幕府の人間として新撰組と関わっていたことがわかって良かった。というより、この作品を通して、医学史を大まかに学び、松本良順、ポンペ、関寛斎、伊之助、佐倉順天堂、伊東玄朴など、先人の足跡を追うことができて、充実していた。

  • 2022.11.01読了

  • 蝶のごとく、頭の中を人が翔びまわって、物語をたのしんでいました。終わってしまった。

  • この作家、ストーリーテラーじゃないから、複数人物の話を並行して描いても交錯の妙が全くないんですよね。
    まぁそもそもそんなつもりもないのかもしれないですが、読むのが結構辛くなってくる、後半になればなるほど。
    また、タイトルに意味があっても無くても究極構わないとは思うものの、こじつけ感満載なんですよね。。。
    この小説は正直ちょっといただけないと思いますな。

  • 本編最後の”栩栩然として~”のくだりが出てきたとき、単語について調べて、意味を知って、はぁ~もうだから司馬遼太郎すき!ってなった。荘子の言葉だそう。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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