兄弟 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101154305

感想・レビュー・書評

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  • 筆者のなかにし礼は1938年生まれ。戦争に行っていた、なかにしの兄となかにしの家族が小樽で再会するのが、1946年の11月のことだ。その後、兄は、小樽から海岸線を北上した、北海道増毛という場所でのニシン漁の3日間の権利を買う。その3日間は、1947年3月のことだ。ニシン漁は、海岸線に定置網をしかけて、そこにニシンの群れが飛び込んでくるのを待つ方法で行われる。なかにしの兄は、増毛近辺の海岸のある場所での定置網漁の権利を買ったわけであり、その3日間の間に、兄が買った網にニシンが来れば賭けに勝ったことになり、ニシンが来なければ、賭けに負けたことになる。権利金は高く、兄は、その権利金を自分たちが住む家を担保にして準備した。負ければ、住む場所すら失うという大勝負だったのである。
    ニシン漁のピークは1900年頃。1950年代以降は漁獲量がめっきり減ったとされるが、1947年はまだ漁獲量が激減する前のことであろう。小説の中では、3日目、ぎりぎりに、ニシンの群れが兄の買った網の中に飛び込んでくる。
    この時になかにし礼は9歳だったはずである。この時の光景が、後に、なかにしに、名作「石狩挽歌」を書かせる。

    【引用】
    海猫(ごめ)が鳴くからニシンが来ると 赤い筒袖(つっぽ)のヤン衆がさわぐ
    雪に埋もれた 番屋の隅でわたしゃ夜通し飯を炊く
    あれからニシンはどこに行ったやら 破れた網は問い刺し網か
    今じゃ浜辺でオンボロロ オンボロボロロ
    沖を通るは笠戸丸 わたしゃ涙で 鰊曇りの空を見る

    燃えろ篝火朝里の浜に 海は銀色ニシンの色よ
    ソーラン節に頬そめながら わたしゃ大漁の網を曳く
    あれからニシンはどこへ行ったやら オタモイ岬の鰊御殿も
    今じゃさびれて オンボロロ オンボロボロロ
    かわらぬものは古代文字 わたしゃ涙で 娘ざかりの夢を見る
    【引用終わり】

    私はカバーアルバムをよく聞く。柴田淳という女性歌手が歌うカバーアルバムの中に、この「石狩挽歌」が収められており、最初に聞いた時には、その背景を知らないので、意味がよく分からなかった。その後、ニシン御殿、北前船といったことに関する本を読み、詩の意味を理解した。
    皆の生活を支えていたニシン漁とニシン。目端の利く人たちは、ニシン漁・ニシンの加工・ニシンの運搬というビジネスの仕組みをつくり、大儲けする。その象徴の1つがニシン御殿だ。しかし、ある年を境に突然(というくらい急激だったのかどうかは知らないが)、ニシンは日本の海岸線には来なくなる。そして、使われなくなり、手入れされなくなった網は破れ、栄華を誇り御殿と呼ばれた家もさびれていく。ひとつのドラマだと思う。

    このニシン漁、そして、「石狩挽歌」は、本書の物語の中で重要な役割を占める。
    なかにし礼は、生活破綻者、あるいは、性格破綻者の兄に、数億円の借金を背負わされ苦しむ。それでも、本書の中でのなかにし礼は、兄のことを底の底までは憎み切れていない気がする。それは、9歳の時に、増毛の浜で見たニシンの大漁の風景が幸せの記憶としてあるからではないだろうか。

  • 面白かった。実兄に苦労させられた作詞家なかにし礼の私小説。「兄さん、死んでくれてありがとう」とインパクトのある言葉が何度も出てくる。読んでいくうちにそう思ってしまうのも当然だと思えるような所業。兄弟の縁をなかなか切れなかったのは大切な母を悲しませたくなかったからという著者。血の繋がりは心強くもあり、厄介でもあり、ということか。芸能人は家族関係でトラブルを抱えることが多い。お金で人って狂うよね。

  • 昭和を代表する作詞家のなかにし礼氏による、自伝的小説。ほとんどノンフィクションのようだ。彼と、14歳年上の兄と、7歳年上の姉の3人きょうだいだが、主に著者と兄の話である。
    一言でいうと、壮絶である。まさに常識を大きく逸脱する兄弟関係で、なかにし氏は子ども時代に世話になった兄に恩返しをしようとするが、それはなかにし氏の苦悩の人生の始まりでもあった。
    <以下ネタバレ注意>
    しょうもない兄にとにかく頼られ、次々と利用され、兄のために莫大な借金を背負うことになる。兄はお金の使い方が下手で、事業を起こしては負債を抱えてつぶしてしまう。最初は数百万の援助だったが、それが億という単位になっていき、売れっ子作詞家のなかにし氏がどんなに仕事をしても、返済が追い付かない。
    あまりにも気の毒で読んでいられなかったが、もっと早くに縁を切らなかった本人の責任だ。体の不自由な母の世話を担保に、大人になっても兄だと威張って、金をせびり続ける兄。そんな兄への弟の気持ち。
    家族の幸せを全く考えずに、ただ利用する人がいるということに驚いた。こんな身内がいたら人生おしまいである。血がつながっているだけに無視できないのもわかるが、その罪悪感に付け込む家族に自分の人生が蝕まれる。兄の死によってようやく完全に解放された著者。その後の人生が幸せなものであったことを祈ってやまない。

  • うーん、完全に共依存とか思えない状態を美談的に畳みかけられると結構読むの辛いけど、この図太い兄さんのキャラは中々に強烈だなあ。

  • 端からみればひどい兄貴で、成功すると信じているわけでももないのにひたすら尻拭いをする弟はアホなのかとも思うが、兄貴が死んで万歳!と思うのも当然だとは思う。しかし、全編通して兄を憎んでいるというより、兄に憧れているという印象を受ける部分の方が多く、兄弟間の複雑な思いが見える気がする。

  • 2004.6.2 〜 6 読了

  • フィクションの如き凄まじい兄と、振り回される弟の物語。これほどスケールの大きい共依存は知らない。

  • 目次:第1章 兄の死、第2章 小樽、第3章 日本海、第4章 青森、第5章 大井町、第6章 浅草、第7章 中野、第8章 訣別、終章 絆、対談「兄弟」、この不可思議なもの なかにし礼・石原慎太郎

  • 人から借りた本のまとまりの中に入っていなければ手にも取らない部類。私小説は最も苦手。

  • 兄のせいで?奥さんが出てゆく場面が何とも辛い

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著者プロフィール

1938年旧満州牡丹江市生まれ。立教大学文学部卒業。2000年『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞。著書に『兄弟』『赤い月』『天皇と日本国憲法』『がんに生きる』『夜の歌』『わが人生に悔いなし』等。

「2020年 『作詩の技法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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