- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101156712
感想・レビュー・書評
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まさか、牧野富太郎を池波正太郎が描いていたとは。
少年のようなクリクリした眼が印象に残ったとのこと。らんまんとも通ずるポートレート。
その帯に惹かれて広島空港で購入。
短編集ながら、かなり刺さる言葉が多い。
読み始めた時には、面白く無いと思っていた三根山の短編も、真摯な力士の肖像が立ち上がり、作者の眼差しもよく理解できる。
そして、武士の紋章 滝川三九郎の話。
武士たるものの一生は束の間のこと。何処にて何をしようとも、ただ滝川三九郎という男があるのみ
その境地にて、粛々と俺のすることを為すのみと生きたいものだ。
御報謝するという言葉も初めて知り、そうした心意気を粋に感じる。
そして、こうした作者の美学と眼差しで語られる真田太平記も、読んでみたいと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
黒田如水、滝川三九郎、真田信之、永倉新八他の短編集
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愛読書『男の作法』の池波正太郎が描く、武士(おとこ)たちの物語全8編。黒田如水、滝川三九郎、真田兄弟、永倉新八等、いずれも芯の通った生き方を味わえる。最後、今年の朝ドラで話題になった「牧野富太郎」に印象的なフレーズがあった。
「何時の世にも男が立派な仕事と幸福を得た蔭に、必ず女性の愛情がひそんでいる(p278)」 -
池波正太郎は、1956(昭和31)年に、『牧野富太郎』の劇団新国劇の脚本を書くために、練馬の自宅で病床にいた94歳の牧野富太郎に取材に行く。池波正太郎は、東京都の職員で、目黒税務所で収税をおこなっていたが、1955年に退職。演劇の脚本を描いた。
この作品は、1956(昭和32)年3月に『小説倶楽部』で発表された。文章も初々しい。
この作品は、土門拳の『風貌』という写真集に収められた牧野富太郎の肖像を見た感想から始まる。「90余歳の博士の、大きな巾着頭や、」耳まで垂れ下がった銀のような髪の毛や、強情我慢的な鼻や、女のようにやさしくしまった唇や、痩せぎすな猫背を丸めて、両手に何気なく持った白つつじの花。何よりも私の心を引き掴んで離さなかったのは、その博士の眼であった。白い眉毛の下に、ややくぼんで、小さな、澄み切った眼がある。それはもう、ただ澄み切っている眼というものはこういう眼をいうのであろうかと思われる美しさ」
ふむ。牧野富太郎への想いが重なる。そして、取材で面会した時に「90余年もの人生を一つの仕事に、それも好きでたまらない植物学だけに打ち込ん来られた幸福さが星のように、その眼の中にこもっている。この幸福は博士一人で勝ち得たものではない」それには、女性の愛情が潜んでいるという。
池波正太郎らしい文章の運びだ。
忠義者で、親の代から番頭をつとめている竹蔵は「草や木の葉っぱ、いじくって何処がええんじゃ。いい加減にやめときなされ」という。富太郎は真っ赤になって怒る。
「おんしの来ているものはなんじゃ。木綿は何からとれるんじゃ。ワタだぞ。ワタは植物じゃ。この家も木からつくる。着物も薬も、机や箪笥も。第一我々が食べとる米も植物ぞ。これほど人間にとって大切な植物の学問をするのがどうしていけないんじゃ」「僕は、子供の頃から、どうしょったもんか、草や木や花が好きじゃった、なんとなしに、他愛なく好きじゃったけん、これは、もうどうにもならんのです。植物は僕の愛人じゃけん」「好きなものは好きなもの、他に答えようがないのである」
このわずかな文章で、牧野富太郎の一途な有り様をうまくすくいあげる。
矢田部教授にあったときに「新しい植物を発見しても、何という名前かわからず、外国の学者に見てもらって、名前をつけてもらうようでは困る」と言われる。
富太郎が故郷で発見した草に、「ヤマトグサ」という和名をつけて、植物学雑誌に発表した。日本で、日本人の手によって初めて発見され、日本人が名前をつけた。
そして、矢田部教授から、大学出入り禁止を言われるエピソードを物語る。
大学と、あらゆる権威、名誉、地位、体面などというものへの反抗が、この時ハッキリと富太郎に芽生えた。周りのものに言われて博士号を取ると富太郎は詠む。
何の奇も 何の興趣も消え失せて 平凡化せるわれの学問
長く通したわがまま気儘 もはや年貢の納め時
ふーむ。富太郎の反骨精神がうまく表現される。
病床にいても、大日本植物志の原稿を作る95歳の牧野太郎。生涯を植物学に捧げた富太郎を池波正太郎は物語る。小品ながら、良い作品だ。
男と生まれたからには、こういう風に生きてみたいと思う池波正太郎は牧野富太郎を選んだ。
#池波正太郎 #牧野富太郎 -
それぞれの男の生き方を描いた八編。現在放送中のNHK朝の連続連ドラマ「らんまん」主人公、牧野富太郎の話も収められている。
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牧野富太郎を扱った章があったので読んだ.
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池波正太郎さんは恐らく初。ですが、読みやすかったです。官兵衛、幸村などの馴染みのある歴史(大河で)の題材だったからかな。機会があれば他作も読んでみます。
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戦国時代から幕末明治にかけての時代小説と、近代の実在した人物を綴った【池波正太郎】の、何れも興味をそそる八編の物語。お気に入りは、若き日の中山安兵衛(堀部安兵衛)が恩義ある菅野六郎左衛門の助太刀に馳せ参じる『決闘高田の馬場』。ケガと数多の病気に苦しみながらも、昭和29年3月場所で幕の内最高優勝した大関・三根山隆司(本名:島村島一)の人生に肉薄した『三根山』。東京帝国大学の教授らの軋轢の狭間で苦学研究を続け、日本の植物学の父と謳われるようになった『牧野富太郎』の苦難の人生に、強く惹きつけられた。
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潔さが廃れた現代には良い短編集ですね。真田家関連が多いのは池波さんの好みなのですかね?とかく今の日本では幕末の方々に人気が集中していますが、こういう作品でいろんな時代に思いを馳せることができるというのは素晴らしいと思います。