喜劇人に花束を (新潮文庫 こ 10-30)

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101158303

作品紹介・あらすじ

ジャズから出発してジャンルを超えたTV時代のスーパースター・植木等と、関西新派の家に生まれて舞台一筋に生きた名優・藤山寛美。東京と大阪、モダンと土着、すべてに対照的ながら戦後日本に傑出する二人の喜劇人。そして"最後の喜劇人"ともいうべき伊東四朗。人気稼業に不可避の人生の浮沈と時代相を背景に、豊富なエピソードと共にその芸と素顔を活写し、個性の輝きを定着する。

感想・レビュー・書評

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  • ものすごく面白い。

  • 「商人の子」「江戸(下町)っ子」と自己規定する小林信彦こそ真性のミドルクラスだと思う。この人が断定すれば特に根拠を示してもらわなくても、ま、いいか。と思える。素敵なおじ様です。

  • 3部構成で、それぞれ大物喜劇人を取り上げてゐます。第一部は植木等。
    いふまでもなく、クレージーキャッツのメンバーとして、映画に出演しまくつた男であります。
    著者の小林信彦氏は東宝クレージー映画では、ギャグのブレーンとして参加してゐたので、いはば身内の一人とも申せませう。ただしクレジットはされてゐません。
    ゆゑに映画におけるクレージーの凋落振りを痛烈に指摘しながらも、どこか自責の念も感じられます。
    著者はクレージーの魅力は、①生の舞台②テレビ③映画の順番で、映画が一番つまらないとしてゐます。私は年代的にも生の舞台は見たことがありませんので、ははあ、さういふものですかとつぶやくしかないのですが。
    確かに後年の映画(特に古澤憲吾作品)はギャグが空回りしたり、往年の冴えが見られないけれど、「ニッポン無責任時代」のやうな傑作はさうさう出来るものではありますまい。

    第二部は藤山寛美。この人は完全な舞台役者として超一級なのださうです。私の父親も「映画では特に印象に残らないが、これが舞台では面白いのだ」と言つてゐました。
    借金騒動や松竹新喜劇解雇、そして復帰とありましたが、結果的には寛美の名声を高める要因になつたやうです。
    この人の不幸は、役者に徹することが出来ずに、劇団責任者としてすべてを仕切らざるを得なかつたことだと著者は指摘します。松竹新喜劇といふ団体ではそれが運命だつたやうです。
    そして寛美といふ役者については...
    「寛美の演技は、観客が肌で<感じる>ものであった。(中略)いくら数多く観ても、深層部分で<感じ>ない人には、無縁の芸であった。<寛美はすごい>と語れても、どう<すごい>のか説明できない芸であった」(本文より)
    すると私なんかには「無縁の芸」だつたのかな、と考へると寂しいのであります。

    第三部では伊東四朗。この第三部があることが本書の最大の特徴と申せませう。
    てんぷくトリオも遠くなりました。今でもバリバリ活躍する伊東四朗さんですが、すつかり大物俳優の雰囲気も漂わせてゐます。
    「伊東四朗の芸風は、どちらかというと、笑わせておいて<退く>タイプである。東京落語の味に近い」(本文より)
    また著者が直直に伝へた言葉「欽ちゃんはコントの天才だけど、演技者じゃない。そういう意味じゃ、芝居のできるコメディアンは今いないでしょう。やるとしたら、伊東ちゃん、あなたしかいないんだよ」
    これはコント55号が大人気の時代の発言です。
    同時代に活動し、生で演技を見てきた著者の批評眼は説得力抜群であります。今後の伊東四朗さんを改めて注目したくなつたのでございます。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-173.html

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著者プロフィール

小林信彦 昭和7(1932)年、東京生れ。早稲田大学文学部英文科卒業。翻訳雑誌編集長から作家になる。昭和48(1973)年、「日本の喜劇人」で芸術選奨新人賞受賞。平成18(2006)年、「うらなり」で第54回菊池寛賞受賞。

「2019年 『大統領の密使/大統領の晩餐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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