魚雷艇学生 (新潮文庫)

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著者 : 島尾敏雄
  • 新潮社 (2011年7月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101164045

魚雷艇学生 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  初めて読み切った島尾の小説。面白かった。
     小説としては特攻隊として死を覚悟した人間の感情を描くというところがポイントであろう。当時の日本の戦況から、実に貧弱な装備=魚雷艇しか与えられず、またそうした極限状況にあってもなお世間的な人間関係に悩み翻弄され知らずに世間に染まっていく人間の愚鈍さを描いている。
     島尾はそんな自分がおかしかったのでもあろうし、戦争の愚かさ--しかし、人間は戦争を行い滅びるという愚かさを犯し続けるであろうという確信--に対するあきらめをも描いている。 そこに、人間の未来に対する希望などはあまり感じられない。人間という絶望的な存在に希望をもたらす何かがあるとすれば、それは最終第七章「基地へ」の後半に描かれる(母への)祈りでしかない。
     鹿児島から無事に奄美の加計呂麻島に到着する。同じく出向を待っていた8個師団のうち3個部隊は途上敵襲に遭いほぼ全滅している。人間とはまことにちっぽけで無力で、戦争や社会(あるいは自然の脅威)に放り込まれたならひとたまりもなく押しつぶされてしまうという無力感が漂う。

  • - 島尾の予備学生としての入隊から、第18震洋隊長として、奄美・加計呂麻島に赴任するまでの時期を対象とした自伝的作品。

    - 隊長としての島尾はとても島民たちから慕われたという話を聞いたことがあるが、「特攻隊に志願すること」が、熟慮の上の決断というよりは、あれよあれよと周囲に流される中でふと飛び越えてしまった一線であり、「死すべき訓練をすること」が、周囲の特別視をどこかで感じ取りながらも、日常性の中へと奇妙に泥んでいくことであるありようが、微分されながら描かれていく。

    - 島尾がくり返し書いているように、特攻隊とて、人間どうしの集団であり、「世間」の延長に過ぎない。島尾の記述は、「特攻」にかかわるロマン的な心情が次々と裏切られ、虚妄の情熱にすぎないことを淡々と綴っていく。隊員たちは、決して「英雄」ではない。そのようなものでありたいという願いをふくめ、たんに「人間」であるだけなのだ。

  • 毎年8月は戦争ものが書店にならぶ。今年はこの一冊を購入。
    主人公(著者)は海軍予備学生として特攻隊を志願。
    少尉に任官、終戦間際の島に赴く。
    出撃する多くの戦友、部下を見送った心境、葛藤などとともに
    海軍特攻員の生活が詳細に描かれている。
    数々の戦争ものを読んだが、これほど特攻隊員をつぶさに描いたものは初めて読んだ。
    戦争文学の傑作と言っているが、同世代の私は切なさだけが残った。

  •  不思議な世界観。
     Sさんが強いンだか弱いンだか読んでいてわからなくなる。
     特攻を言われた人の開き直り方の一種かもしれない。
     そういう意味で興味深い。

     文中で小さな戦艦という単語が出てきた。
     駆逐艦程度だと思われるが、何か気になった。
     もう少し、士官とか階級をしっかり覚えなくては。

  • ベニア板製モートーボートの特攻隊隊長、という極限状況でありながら、淡々とした記述に終始するのは、戦地赴任前かつ後年の作だからか。島尾さんの本は初めて読んだが、有名な「死の棘」も読んで見たい。

  • 2017.02.26

  • 底本昭和60年刊行。特攻用舟艇震洋隊の指揮官たる著者の自叙伝的小説。著者の部隊は、終戦の前々日に出撃決定されたが、その発令がないまま終戦へ。人間関係の心理的・叙情的な描写が少なく、「同期の桜」で唄われる軍隊世界とは対極。人との繋がりに不器用な著者の様子が目に浮かぶ。また、訓練や修正、古参下士官との関係、さらには軍人らの特攻隊員への腫れ物に触るような振舞い等、淡々と怜悧な目で軍隊内を活写。とはいえ、満足な装備を与えられないまま、命令による死に向き合う(一応自主的な選択機会があったようだが)特攻隊員の諦念も。
    そして、ほぼ1年もの間、死ぬためだけの訓練を部下たちとともに淡々とこなしていく。こんな力のこもらない、パッションを声高に唱えない叙述にも関わらず、なんとも重苦しい読後感が残るのは、著者の力か、それとも読み手の受け取り方なのだろうか。なんとも悩ましい。

  • 160426読了。
    やっと読み終わった!やっと。
    実家を出ても本棚にずっと置いてある文庫本です。代表作『死の棘』よりも本作を読もうと思っていたのは、高校の現国の教科書にあった“笛の音”という短編を読んだから。
    本作も学生時代から成り上がりの少尉になってからまで、“笛の音”に通じるものがあります。
    不条理な暴力、仲間との不和、疎外感、怠惰、些細な記憶…。
    戦争という大きな時代の中で、さほど現代と変わらない、少し無気力で投げやりな若者の姿が描かれていて、その若者がうまく生きられない姿がしっとりとページに染み込んでいて、もはや昔の話だけどつい3、4年前の回想くらいにみえる、妙に近い感じがしました。
    味気のない、淡々として窮屈な従軍生活で、酒保の羊羮をまるまる一本食べた瞬間が、なんと輝かしいことか。
    戦争という強大なテーマに押し潰されない、個人の私小説というぜんたいの雰囲気が素晴らしかったです。

  • 1943年に大学生で、1944年に予備学生で、少尉で、特攻隊で、隊長で、という間に終戦を迎えた著者。普通の大学生が1年も経ずして九死に一生を得ない特攻隊に志願し、しかも指揮官へとなっていく異常な環境の中、なにを思い、なにを考えるのか。。といった内容。戦後何年も経って書かれているせいか、とても読み易い。

  • 特攻隊に志願しながらも、出撃することなく終戦を迎えた筆者の自伝的小説。
    テーマが戦争でしかも特攻隊となると、どうしてもお涙頂戴なエンターテインメントに成り下がってしまいがちである。そんな小説が流行る中、徹底的にドライな語り口で時に考察を交えながら、「死」=出撃までの日々を綴る。

    あくまで冷静さを保ち、特攻隊の内情を客観的に語るその姿勢は文学の域を超えた一つの”記録”として読み継がれていくべきものではないだろうか。

    残念なことに、この物語は前線基地への出発で幕を閉じる。「死」まで極限に近づいた出撃命令と終戦を描いた後編は別作品というところが惜しまれる。

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