魚雷艇学生 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101164045

感想・レビュー・書評

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  •  初めて読み切った島尾の小説。面白かった。
     小説としては特攻隊として死を覚悟した人間の感情を描くというところがポイントであろう。当時の日本の戦況から、実に貧弱な装備=魚雷艇しか与えられず、またそうした極限状況にあってもなお世間的な人間関係に悩み翻弄され知らずに世間に染まっていく人間の愚鈍さを描いている。
     島尾はそんな自分がおかしかったのでもあろうし、戦争の愚かさ--しかし、人間は戦争を行い滅びるという愚かさを犯し続けるであろうという確信--に対するあきらめをも描いている。 そこに、人間の未来に対する希望などはあまり感じられない。人間という絶望的な存在に希望をもたらす何かがあるとすれば、それは最終第七章「基地へ」の後半に描かれる(母への)祈りでしかない。
     鹿児島から無事に奄美の加計呂麻島に到着する。同じく出向を待っていた8個師団のうち3個部隊は途上敵襲に遭いほぼ全滅している。人間とはまことにちっぽけで無力で、戦争や社会(あるいは自然の脅威)に放り込まれたならひとたまりもなく押しつぶされてしまうという無力感が漂う。


  • 野間文芸賞と川端康成賞のダブル受賞という地味に凄い作品。
    特攻隊から生還したという特異な経験が、当時の感情を交えて静かな筆致で描かれる。
    幾度もキャリアで使われた本テーマが、晩年での想起という点も感慨深い。

  • 毎年8月は戦争ものが書店にならぶ。今年はこの一冊を購入。
    主人公(著者)は海軍予備学生として特攻隊を志願。
    少尉に任官、終戦間際の島に赴く。
    出撃する多くの戦友、部下を見送った心境、葛藤などとともに
    海軍特攻員の生活が詳細に描かれている。
    数々の戦争ものを読んだが、これほど特攻隊員をつぶさに描いたものは初めて読んだ。
    戦争文学の傑作と言っているが、同世代の私は切なさだけが残った。

    • arrows7banさん
      10月1日に知覧特攻記念館にカミサンと行ってきました。5時間じっくり見ましたが時間が足りませんでした。 隊員の写真、手紙、遺書を涙ながら見ま...
      10月1日に知覧特攻記念館にカミサンと行ってきました。5時間じっくり見ましたが時間が足りませんでした。 隊員の写真、手紙、遺書を涙ながら見ました。 本当になんとバカな戦争をしたんでしょうか、人間を人間と思わない戦争。
      平和ボケした現代の日本人にはぜひ知覧には行って欲しいですね。
      島尾さんはたしか沖縄の人だったと思いますが人間魚雷の将校だった人ですよね?
      早速探してみます。
      2011/10/07
    • guniang79さん
      arrows7banさん,知覧は私の今もっとも行ってみたいところですが、高齢になり難しくなりました。
      先年「無言館」へ行きました。涙が止ま...
      arrows7banさん,知覧は私の今もっとも行ってみたいところですが、高齢になり難しくなりました。
      先年「無言館」へ行きました。涙が止まりませんでした。
      おっしゃるように今の若者に読ませたいですね。
      島尾作品はこれが初めてです。
      島尾さんは鹿児島出身?かも・・・
      学徒出身で短期間の訓練で部下を率いる特攻隊長でした。
      2011/10/08
  •  不思議な世界観。
     Sさんが強いンだか弱いンだか読んでいてわからなくなる。
     特攻を言われた人の開き直り方の一種かもしれない。
     そういう意味で興味深い。

     文中で小さな戦艦という単語が出てきた。
     駆逐艦程度だと思われるが、何か気になった。
     もう少し、士官とか階級をしっかり覚えなくては。

  •       ―20081023

    1986年に島尾敏雄が亡くなった時、文芸各誌はこぞって島尾敏雄追悼の特集をしている。そのなかで生前の島尾を知る作家や批評家が追悼文を書き、もっとも評価する島尾作品を挙げていたのがあったが、「死の棘」-6票、「魚雷艇学生」-7票、「夢の中での日常」-2票、といったものであった。概ね批評家たちは「死の棘」を挙げ、作家たちは「魚雷艇学生」を選んでいた。
    巻末で解説の奧野健男は、「晩年の、もっとも充実した60代後半に書かれたこの作品は、戦争の非人間性の象徴ともいえる日本の特攻隊が内面から実に深く文学作品としてとらえられ、後世に遺されたのである。それはひとつの奇蹟と言ってもよい」と。

  • 海軍予備学生となった主人公の青年が、創設されたばかりの魚雷艇を志願し、特攻隊として戦争にくわわることを予定された彼の日々の訓練をつづった作品です。

    ほかの学生たちにくらべてやや年上の青年は、予備学生となった当初から、周囲から浮いた存在として、彼らのようすを観察していることがえがかれています。それでも、彼もまた戦争へと向かう状況から離れた立場に立っているわけではありません。彼は、特攻隊に身を置くことになりながらも、そんなみずからの運命をどこか遠い所からながめるように記しています。

    こうした著者の独特のスタンス、たとえば次の文章によく示されているように感じます。「私は勢い荒々しく声を張りあげて叱咤する結果にならざるを得なかったが、考えてみればつい一、二箇月前までは、魚雷艇の操縦もままならず、魚雷の発射操作に至ってはまるきり飲み込めずに、教官から罵声をあびせられ、指揮棒代わりの棍棒でこづき廻されていた私ではなかったか。それはおかしな具合に意識の中で現在と二重写しになりながら、震洋隊一個艇隊の艇隊長としての配置を与えられただけで、滑稽なくらい自信に満ちた態度で彼らに訓練を施す姿勢が執れている自分を見つめているもう一人の私もいたのだった。」不思議な感懐であるようにも感じますが、戦争において死がせまりつつある状況というのは、あんがいこのようなものであるのかもしれません。

  • 海軍士官学校から入隊し、特別攻撃隊に配置され、出撃までの、作者の体験を基にしたフィクション(記録?)。
    独白で話が進むが、作者の言いまわしのせいか、酷く読みづらかった。

  • ベニア板製モートーボートの特攻隊隊長、という極限状況でありながら、淡々とした記述に終始するのは、戦地赴任前かつ後年の作だからか。島尾さんの本は初めて読んだが、有名な「死の棘」も読んで見たい。

  • 2017.02.26

  • 底本昭和60年刊行。特攻用舟艇震洋隊の指揮官たる著者の自叙伝的小説。著者の部隊は、終戦の前々日に出撃決定されたが、その発令がないまま終戦へ。人間関係の心理的・叙情的な描写が少なく、「同期の桜」で唄われる軍隊世界とは対極。人との繋がりに不器用な著者の様子が目に浮かぶ。また、訓練や修正、古参下士官との関係、さらには軍人らの特攻隊員への腫れ物に触るような振舞い等、淡々と怜悧な目で軍隊内を活写。とはいえ、満足な装備を与えられないまま、命令による死に向き合う(一応自主的な選択機会があったようだが)特攻隊員の諦念も。
    そして、ほぼ1年もの間、死ぬためだけの訓練を部下たちとともに淡々とこなしていく。こんな力のこもらない、パッションを声高に唱えない叙述にも関わらず、なんとも重苦しい読後感が残るのは、著者の力か、それとも読み手の受け取り方なのだろうか。なんとも悩ましい。

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著者プロフィール

1917-1986。作家。長篇『死の棘』で読売文学賞、日本文学大賞、『日の移ろい』で谷崎潤一郎賞、『魚雷艇学生』で野間文芸賞、他に日本芸術院賞などを受賞。

「2017年 『死の棘 短篇連作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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