俺俺 (新潮文庫)

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感想 : 103
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101164526

作品紹介・あらすじ

なりゆきでオレオレ詐欺をしてしまった俺は、気付いたら別の俺になっていた。上司も俺だし母親も俺、俺ではない俺、俺たち俺俺。俺でありすぎて、もう何が何だかわからない。増殖していく俺に耐えきれず右往左往する俺同士はやがて――。他人との違いが消えた100%の単一世界から、同調圧力が充満するストレスフルな現代社会を笑う、戦慄の「俺」小説! 大江健三郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;星野氏は小説家。大学を卒業後、産経新聞記者になったが、会社を退職し、メキシコに私費留学。ラテン文学の影響を受けた。現実と幻想を掛け合せた小説を書き続けている。植物・水をモチーフにした作品や社会問題を問う作品が多い。「目覚めよと人魚は歌う」で三島由紀夫賞、「焔」で谷崎潤一郎賞などを多数受賞。
    2.本書;永野均(主人公)は、些細な事で他人の携帯をポケットに入れオレオレ詐欺をする。それを契機に自分によく似た俺が大量発生。家電量販店で働く俺、公務員の俺、大学生の俺、・・自分だけの世界を作ってゆく。しかし、それは長く続かない。やがて俺同士の殺し合いへと発展。文庫あとがきより、「他人との違いが消えた、100%の単一世界から、同調圧力が充満するストレス社会を笑う小説」。大江健三郎賞を受賞。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『第二章 覚醒 』より、「お父さんもいぃつも、まだ大丈夫だ、休むわけいかないって言って、少しずつ悪くなって気が付いたら取り返しつかなくなってたんだから。ちりも積もれば山となる、だよ」「体が弱るとね、心も弱るんだよ。体だけなら休めば治るけど、心まで弱ると、そんなつもりはないのに、自分から人生諦めたりするんだ。人間は弱いんだよ」
    ●感想⇒「体が弱るとね、心も弱るんだよ」という言葉には、身につまされます。私事です。会社に入った頃から働き盛りの頃まで、無茶をしていました。企画業務が長く、この仕事は時間軸で成果を出すのが難しい職種です。上司に、「スタッフ仕事は24時間勤務、有給休暇は万一の際の保険」と鼓舞されました。自分も、“自身と現場の人達”の為に、良い仕事をしなければならない、という使命感がありました。早朝出勤・遅くまでの勤務・ストレス解消の為の暴飲暴食・・が祟り、体を壊し精神的に落ち込む事が間々ありました。心と体の健康は車の両輪なのです。私は、ある事をキッカケに、生活態度を変えました。業務の生産性を上げ、休日は休養日と割切りました(=読書・散歩・家族団欒を楽しむ)。今は働き方改革で、私のような愚行はないと思います。しかし、“上司の労いに対する感動”や“仕事に役立つ勉強”は掛けがえのない財産になったのも事実です。
    (2)『第二章 覚醒』より、「一人前の社会人になれなかった奴に、自力で切り開いていかなきゃならない仕事ができるかっていうの」「税理士だとか会計士だとか弁護士だとか、会社を辞めてから試験勉強始める人って、大抵が逃避なのよね、私の経験からすると。本当に受かる人って、仕事と勉強両立させてでも受かるもんよ」
    ●感想⇒人生の節々には選択すべき岐路があります。進学・就職・結婚の選択は重要です。知人の中に一旦は企業に就職したものの、会社の風土が思い描いたものとは違った事もあり、学生時代の理想を実現すべく退社し、再勉強して目標達成した人がいます。名門企業に勤務していただけに、周囲の人は「働きながら勉強した方が良い」とアドバイスしました。しかし、当人曰く「仕事と勉強を両立した方が万一の際の保険になるが、自分を追い込まないと、良い結果にならない」と言い、勉強に専念し見事に成功しました。こういう人は稀かもしれませんが、何が何でも目指した事を成就したいという信念に感服です。「本当に受かる人って、仕事と勉強両立させてでも受かるもんよ」は決め付けだと思います。
    (3)『第四章 崩壊』より、「おふくろは一人で働き続けて、俺と姉貴を育ててくれた。・・・自分はもう諦めた、その分、あんたが写真の道を極めなさいとハッパを掛けてくれた。でもカメラマンとしての就活に失敗してフリーターを始めたら、あんたは自分の夢どころか人の夢まで壊したと罵られた。何のために、あれだけ無理して働いてきたんだ、息子をフリーターにする為なんかじゃない、だったらお姉ちゃんみたいに地道に大学目指せばよかったんだ、まったく情けない、恥だ、と言われ続け、俺はいたたまれなくなって家を出た・・・」
    ●感想⇒親の責務は、“世の為人の為”に少しでも貢献できる子供を育て、社会に出してあげる事です。片親家庭が大変な事は十分理解出来ます。子育ての過程では、人に言われぬ悩みもあると思いますが、人格を否定するような言葉だけは慎むべきです。所で、社会問題となっている“引き籠り”を持つ家庭は大変でしょう。色々事情があると思いますが、一つには親の子への接し方に問題があったのかも知れません。人格は2~3歳で基礎が出来るそうです。子育ては片親に任せる(特に精神面)のではなく、父母両方で愛情を注ぐ事が基本と考えます。自責の念を込めて。
    4.まとめ;オレオレ詐欺から始まり、自分にそっくりな俺が至る所に増殖する、という話の展開は奇想天外で、理解するのに一苦労です。人は様々な顔を持って生活しています。親、子、夫、妻、上司、部下・・・という顔で、様々な役割を演じています。人は他人と関係を持ちながら生きているのです。良きも悪しきも一人では生きてゆけません。そうした時に、本書の様に周囲がみんな“俺”だったら生き易く、心地よいでしょう。しかし、現代人はマスコミに踊らされ、個性が埋没。お互いを排除しようとする人もいます。本書は、奇抜な発想で青年の心の葛藤を描き、現代社会に警鐘を鳴らす秀作だ、と思います。(以上)

  • 個性が疎まれる時代になってきた。小さい頃から、リレーは順位を着けずに皆でゴールし、競争なんてもってのほか。出る杭は打たれる。人と違う事をするのを恐れ、人と同じだと安心する。皆流行りの同じ服を着、流行りの同じ髪形で、少しでも足並みを合わせない他者を異質の目で見る。自分とは何なのか、本当の自分はどういう人間なのか分からないまま何となく生きる。そんな世の中を見ていると、いつかこの世界が俺俺時代になってしまうのではないかと不安になる。

    主人公の記憶がどんどん改竄されていき、一体今主人公は誰なのか、本当の主人公はどういう人間なのか分からなくなって行く、とても怖い話だった。「世にも奇妙な物語」に出てきそうな、ゾッとする話。映画化されるそうなので、どう作られるか楽しみだ。

  • 映画をみてから興味を持って読んでみました。主人公のおれおれぶりが活字の場合、また違った勢いを伴っていて面白かったです。

  • 苦手なあの人を観察すると、私とよく似た部分がある。そのことに気づくと、何だか憎めなくなってくる。

  • 最初の日常の一場面からまさかまさかの展開。 想像だにしないストーリーに、とにかくこの混乱を早く治めたくて、ページをめくればめくるほど更なる混沌が待ちかまえていて。 凄かったです。なんでしょう。非現実なホラーな世界なんだけど、明瞭にイメージできる世界に圧されて震えちゃいました。 ラストの意外性も良かったです。手放しでホイホイと人に勧められないのですが、是非読んで体感してみてほしいと思える強烈な一冊。 できれば前知識無しに手にとることをお勧めします。ようこそ俺俺ワールドへ。

  • 周りの人との関係性、自分の在り方。
    普段自分がいる世界の中に潜む非日常体験。
    「増殖」と「アレ」への恐怖。
    有り得ない話ではあるけれど、もしかしたら……。

    ちなみに映画鑑賞後に読みましたが大筋は同じですが、映画と小説は別物です。

    • miya-ayimさん
      こんにちは。
      もしかしたら自分も入れ替わっても誰も気付かないのでは…と心配になりますよね。
      こんにちは。
      もしかしたら自分も入れ替わっても誰も気付かないのでは…と心配になりますよね。
      2013/05/30
    • miicamさん
      miya-ayimさん

      こんにちは。コメント有り難う御座います。

      架空の世界じゃなく、私たちが住んでる世界が舞台になっているだけ...
      miya-ayimさん

      こんにちは。コメント有り難う御座います。

      架空の世界じゃなく、私たちが住んでる世界が舞台になっているだけに不安になりますよね。
      2013/06/09
  • すごーいなんか一気に読んだし悪夢も見た。最後らへんはよくわからん。

  • 4年ぶりに再読。直前に宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』を読み、それを道標にまたこの作品を読みたくなった。

    私なりにこの作品の構造を整理してみる。

    ヤソキチがメガトンを辞めると言った時の大樹の反応などに例えられるように、【俺】たちは自分より劣っている存在によって自分の存在価値を感じているのである。
    同時に自分も誰かから見下されていたり、同調圧力に晒されたりしていて、自分の存在価値が不安定であることを許せないのである。(「均」的考え)
    自分が固有で特別な存在でありたいという思いから、自分を見下したり圧力をかけたりする【俺ら】を「削除」し始める。
    しかし元々他の【俺】を見下すことで自分の存在価値を確かめていた【俺】にとって、【俺ら】を「削除」することは自分の存在価値が消失する危機に晒すことになる。
    【俺】は食われながら、自分は相手に必要とされていることに気づき、喜びを感じる。また【俺】は【俺】を食いながら、【俺】のおかげで自分が生きていることに気づく。

    『〈私〉時代のデモクラシー』では、〈私〉が〈私〉であるためには、〈私〉を認めてくれる存在、他者が必要である、と述べられている。
    自分を大切にすることと相手を尊重すること。この2つは相反しているように見えて、実はお互いが必要とし合っているのだ。
    この両立を実現するには、【俺】そして【俺ら】を信用することができるかどうかにかかっている。

  • もう何が何だかわからなくなる本

    途中から全く理解できなくなった。自分の理解力が乏しいのか、この物語が難しいのか分からないけど、自分と自分以外を区別するものってなんだろうと考えさせられた。

  • 亀梨くん主演の映画化が話題になっている大江健三郎賞受賞作品。
    偏見は良くないが、この小説にしかなしえない小説の映画化は困難だろう。
    後半は終始一見哲学的な自己分裂の連続描写は評価が難しいと感じた。

    ただ、あとがきにある、
    秋葉原連続殺傷事件の犯人である加藤智大の言葉、

    「自分の家に帰ると、自分とそっくりな人がいて自分として生活している。家族もそれに気づかない。そこに私が帰宅して、家族からは私がニセモノとして扱われてしまうような状態です。」

    この小説が、加藤が起こしたあの惨劇よりも前に書かれた小説であるという事実だけで、評価に値し、そして、この小説がフィクションを超えた現実になったとも言えるのだ。

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著者プロフィール

1965年、 アメリカ・ロサンゼルス市生まれ。88年、 早稲田大学卒業。2年半の新聞社勤務後、 メキシコに留学。97年 「最後の吐息」 で文藝賞を受賞しデビュー。2000年 「目覚めよと人魚は歌う」 で三島由紀夫賞、 03年 『ファンタジスタ』 で野間文芸新人賞、11年 『俺俺』 で大江健三郎賞、15年 『夜は終わらない』 で読売文学賞を受賞。『呪文』 『未来の記憶は蘭のなかで作られる』 など著書多数。

「2018年 『ナラ・レポート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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