私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101167558

感想・レビュー・書評

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  • 私は、彼の何を知っているというのか? 彼は私に何を求めていたのだろう? 大学教授・村川融をめぐる、女、男、妻、息子、娘――それぞれに闇をかかえた「私」は、何かを強く求め続けていた。だが、それは愛というようなものだったのか……。「私」は、彼の中に何を見ていたのか。迷える男女の人恋しい孤独をみつめて、恋愛関係、家族関係の危うさをあぶりだす、著者会心の連作長編。
    Amazon より

    不思議な距離感の話.最後まで読んで「彼」について少しでも何かが分かったかと言えば、そうとも言えるし、そうとも言えないように思う.ゆるゆると真綿で首をしめられるような息苦しさが残る.事実は一つでも、真実は人の数だけあるのだ.

  • 不倫を繰り返す大学教授の周りに生きる人たちが主役の連作短編
    そこに描かれるのはドロドロの熱情ではなく、虚ろな執着と少しだけ熱を残した諦念であるように自分は感じた
    文章がとにかく良い

  • とにかく村川という人物はなんだったのかと言うことにつきる。
    村川に少しでも翻弄されたり関わった登場人物お疲れ様でした。
    と言うしかない

  • 2005年(第2回)。9位。
    かっこいいわけでもない大学の先生がモテる。女性がいっぱい寄ってきて、妻子を捨てて、子持ちの女性と新家庭を気づく。そして誰も幸せにならなかった。
    を、先生に関わってしまった人々の視点から見る小説。捨てられた妻子も、新家庭の誰も幸せじゃない。唯一、先生の助手は、それではいけないと気づく。
    結婚して二人でいると閉塞する。子供作って家族作らないと閉塞する。あーあーあーあーあー
    な感じで、物語を楽しむというより、作者の言葉(うんちく)に膝を打つ小説。そして助手は気づいてよかったと思う。

  • ある一人の男性大学教授をめぐり、関係する人物のそれぞれの立場にて繰り広げられる物語が集まっている一冊。一話一話味わいつつ、各物語の登場人物は他の物語と関係があるので、全ての話のつながりを考える楽しみもある面白い構成でした。
    まずは比喩や表現力が豊かな点に驚きます。少々凝り過ぎて話の本筋を見失いそうになりますが。。。ストレートな表現をしないところが、恋愛小説のようでミステリー小説ようなますます謎めいた様子を引き立てていました。
    一人の男性から元妻、家族、その友人、研究者などなど、こんなにも人間関係は広がるものかと感心しました。

  • いつ、「彼」が出てくるのかしら?と
    私の中で「彼」がだんだん形成されつつあったのに、終いまでいってしまった。
    「彼」自体は、語ることのないままで終えて、座りの悪さを感じた。まるで、御斎の食事のような。

  • 母はよく言っていた。その年齢にならないと分からないことってたくさんあるのよ、と。それを、しみじみ実感出来る年齢になってしまった。でも三浦しをんと言う作家はそんなハードルなど軽々越えてしまう。なぜあの若さで、老いて行く者の抱える心の襞があれほど鮮明に書けるのだろうか。一人の男を巡る人々のそれぞれの想いや葛藤の中に、幾つも心惹かれる言葉を見つけた。

  • 図書館で。
    特に何か特別なことが起こるわけでもなく、ものすごい特徴のある人物が描かれるわけでもない…のだけれども、それが反対に面白いというか、気が付いたら世界に引き込まれていた感じで読みました。文章が上手なんだな、うん。

    当事者ではなく、色々な人物がある特定の人を語っていくという手法は他でも見たことがあるのですが、なかなか面白い。センセイは一言でいうとかなりどうしようもない男なので、本人が登場しない方が色々イマジネーションが膨らんで面白いなぁ、と。それにしがみつく女性もある意味滑稽だし、離れた方もなんだか負け犬みたいで…難しい。

    個人的には振り回された助手が、一応それでも何とかなったみたいで良かったね、という感じでした。そういう話ではないんだろうけど。

  • 人間の微妙な感情の襞をすくい取った純文学。文章も美しい。無常が定めの虚しい世の中にあって、「ことさらに求めていかない愛」のみが存立可能であること、また、そういった愛の逞しさ、美しさを静かに描いた連作短編小説。「私の痛みは私だけのもの。私の空虚は私だけのもの。だれにも冒されることのないものを、私はようやく、手に入れることができたのです」損われてしまった愛をいつまでも味わい続けていたい、とつぶやく。その『結晶』はこの世で一番美しく、そこにたゆたう思いの、なんて豊かで、なんて切ないことか。

  • 三浦しをんは「舟を編む」「風が強く吹いている」という作品が有名で、森絵都のようなさわやかな文章を書かれる方だというイメージがあったので、そのイメージが大きく覆った。


    老いた大学教授、村川融を巡る、それぞれの独白からなる作品である。

    しかし、独白によって構成されている多くの作品(※といっても湊かなえ著の作品以外出会ったことがないので、湊かなえ作品だと言い換えても問題ありません。)と違う点は、全く騒動の全貌が見えてこないことだ。
    それもそのはず、各章で語り手となる人物は、中心となる大学教授とどこかで繋がりがあるということが共通しているだけで、繋がりの強さは家族から全くの赤の他人まで幅広い。そして語り手の語っている時代までもが幅広く設定されている。
    したがって、先程『騒動を巡る作品』と記述したが、どちらかというと騒動の基となる大学教授のことをどのように見ていたか、そしてどのように感じていたか語り手の視点を通して知るという作品に近いのではないかと思う。

    全編を通して、良い意味で全く何も分からなかった。
    ただ、中心となる村川融がここまで人を魅了し振り回すことができるのがすごい。作中に何度か村川の魅力が語られるシーンが出てくるが、自分は全くその魅力が分からなかった。
    一方で、確かにこういう人を好きになる人がいるのはわかる。趣も何もあった表現ではないが、村川は俗に言うだめんずなのだと思う。
    このような人の魅力に振り回されるのも、人生のスパイスとしてある意味楽しいのかもしれない。

    そしてこの作品の一番の魅力は、三浦しをんの描写力が光っていることだ。
    ここまで人のもやもやとした形にならない心境を、感情を、温度を、空気を、描写できるだろうか。
    語り手の視点を余すことなく伝えることができる描写力は、変態的で官能的であるとさえ感じた。
    ある章でうさぎが登場するが、この物言わぬ無力なうさぎがとても可愛らしく、記憶の中のうさぎとは別の生き物なのではないかと思わせるほどに官能的だと感じさせられた。

    彼女の他の作品は私の思っていたようなさわやかな作品が多いようなので、今度はその中で彼女の光る描写力を楽しみたいと思う。
    しかし欲を言えば、彼女のうさぎを官能的と思えてくるような作品も再び読んでみたいという気持ちもある。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

三浦しをんの作品

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