井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 (新潮文庫)

著者 :
制作 : 文学の蔵 
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101168296

感想・レビュー・書評

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  • 文章作成の基礎である「作文」をテーマにした短期講座の講義録。

    見たものを見たままに書くのが基本、しかしそれが難しく、それを誰も教えない。

    作文だけでなく、日本語をどう捉えるかも学べる良書。

  • フォロワーさんが読んでらしたので気になって手に取りました。一関でひらかれた井上ひさしによる3日間に及ぶ作文教室を文章化したもの。原稿用紙の使い方から、基本的な文章の書き方、日本語がどういう言語であるかまで縦横に語っていて、とても楽しく読みました。実際に参加してみたかったくらいです。特に興味を引かれたのは日本語論。自分でも文章は書くけれど、日本語についてあまり知らないなと改めて実感。文章を書く上で大事なこと、誠実さ、明晰さ、わかりやすさ。観念的にではなくて具体的に、理屈ではなくて具体的に。この点は忘れないようにしたいです。

  • 1996年11月15日から17日にかけて岩手県一関市にて開かれた「作文教室」の記録。講師は井上ひさし。
    基本的な原稿用紙の使い方から始まり、日本語の仕組みや日本の国語教育について等を時に笑いを交えつつ講義。生徒たちは「自分が今いちばん悩んでいること」をテーマに作文し提出、井上の添削・講評の後に返却され、その中から井上に指名された26名が皆の前で自作を朗読した。
    「自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書く」――井上の説く作文の秘訣のなんと簡潔で、自明で、難しいことか。同時に、これまで読んできた本の中の数冊が特に好ましく印象深かった訳が、反対に別の数冊がひどくつまらないと感じた訳がわかった気がする。日本語と日本語表現の第一人者ならではの助言であり真理だと思う。

  • 非常に面白い。
    文章をうまく書くためのシンプルなコツが書いてある。

  • 予想よりかなり面白かった。読書は好きだけど、根本的には作家の方に憧れがあるからか。井上ひさし自身はかなり個性的で、パーソナリティー的にはあまり好きになれないが。

  • 作者の私見による作文の基礎〜周辺知識。「作文教室」として、実際に開講されていた講座を話し言葉のまま収録している。
    教室の雰囲気を楽しみたい人には良い本なのかも。

  •  全部わかって書いている--これぐらい、つまらなこともありません。
     それなら、書かないで頭の中で考えて、あっ全部できたと、もうそれで終わればいいんです。
     ものを書いていて文章が活き活きして自分でもおもしろいな、というのは、周到に計算して書いているうちに、自分にも予想もつかないような展開になる時です。
     それが実は文章の本当の値打ちです。
     予想もつかない展開とは、もともと自分の中にあったことです。普通に考えていては出てこないけれど、長期記憶の中からはとんでもないものヒュッと出てくるんです。
     読み手のほうもわかりきったことを書かれると、だんだん飽きてきます。そこで、わたしたち作家は、わざと混乱させるとか、どこかに話を持っていくかして、読み手を飽きさせないことを考える。
     でも、本当におもしろいのは、書いてるうちに筆が自然に外れていくことなんですね。そっちへ行っちゃだめ、というのに外れていく。それが一番おもしろいんです。
     理詰めで考えながら、なおかつ自分でも思いがけない「邪魔者」に出会う。
     そうなった時、その文章は必ず自分にもおもしろいし、読む人にもおもしろいものになるんです。読んでいて何か発見があったとか、そういう文章になるはずです。

     日本人は昔から国語力が不足しています。
     なぜかと言うと、僕らの時代もそうですが、小学校でも中学校でも、綴り方の作文の教室の時間は、生徒の頭の中に起こったことを書かせるわけです。
    「昨日の遠足の感想を書きなさい」とか「遠足について書きなさい」とか。
     けれど、子どもが書くことといったら、「きのう遠足に行きました。たいへん楽しかった。夕方ごろ帰りました」--これしかパターンがないんです。
     それは、皆さんにしても、われわれのようなプロの物書きにしてもそうです。
     出かけた。楽しかった。あるいは、つまんなかった。帰りました。
     それしか書けないんです。
     つまり、プロでも書けないことを、小学生、中学生たちに要求している国語教育が根本的にまちがいなのです。
     丸谷才一さんの文章を借りますと、日本の国語教育は、全生徒をすべて小説家か詩人にするつもりでいると。これが日本の国語教育の根本的な欠陥です。
     つまり芸術鑑賞とか、文学鑑賞とか、人の心を動かす文章を書かせようとするわけです。こんなの、子どもには無理ですね。大人だって無理なことを、なぜ子どもに要求するのかよくわかりません。
     つらつら考えて、ひとつの結論を今とりあえず出しますと、子どもたちに書かせる文章はまず、感想文ですね。頭の中に今、何が起こっていますかと言う、大人でも難しいことをやらせている。それじゃ、駄目なんですね。
     そうじゃなくて、あなたはそれをどう見てますか、と言う観察文とか、報告文とかを書かせなければならない。
     例えば、これはイタリアの教科書の有名なくだりなんですが、ちょうど秋で教室の外に高い木があって、そこから落葉がハラハラ散っているわけです。みんなで落葉の落ちるようすを見て、それを書く。
     つまり落葉を見て、あなたの頭の中でどういうふうなことが起こりましたか、というようなことを、絶対書かせないのです。
     大人でしたら、落葉というのは自分の髪の毛とか、人生の秋とかいろいろなことを考えて、寂しいと書いたりしますが、そういうことを、いっさい子どもに要求しないのです。ただ、自分の目でどう見えたか、これは子どもでも書けるわけです。
     どうして落葉は葉っぱの先の方から下に落ちないで、付け根のほうから先に落ちるのか、とか、あたり前ですね。そっちのほうが重いわけですから。
     ひらひら蝶々のように舞って降りてくるとか、見ながら書く、ということが大事なのです。
     よく観察して、何かを報告するということが大事で、落葉を見て、あなたは落葉からどういう感じがしましたか、落葉をどう思いますか、というのは、これ、大人に言っても無理な注文なのです。
     料理を食べる。料理の味はどうでしたか、というのは、これはかなり無理な注文です。でも、どういう料理が出ましたか、というのは誰でも書けるわけです。
     小学生に大人もできない、落葉を見てあなたはどう思った、ということを要求しているわけです。これは駄目ですね。われわれでも書けません。
     そうではなくて、落葉はどう落ちていくんですか、ということを書かせる。
     それから一冊の本を読ませてこれを四百字に縮めなさい、とか。そういうことなら、子どもたちは、ちゃんとできます。
     日本の国語教育は、いっさいそれをやってないんです。みんな文学的なことばっかりやっているんです。学校の先生方もそういうことが好きなんです。文部省も好きなんですね。
     そういう場合、子どもがせっかく答えを出しても、大人が用意した答えに合わないと、まちがいになっちゃうんですね。子どもにとっては踏んだり蹴ったりです。
     大人ができないようなこと、つまり思ったことを書きなさいと、よく言えるものだと思います。

  • 読み手のことを考えて書くのが大切。そのためには、いきなり核心から入る、文章が長くなるときは、副詞(決して、まだ、さぞ)などを使い、読者が続きを判断しやすいようにする。
    最後に、著者いわく、人間は書くことを通じて考える生き物である。

  • 生徒が実際に書いた作品を井上さんが添削を行っていく章は、こんな見方があるのか!と勉強になった。

  • 「人間は書くことを通じて考えを進めていく生き物です。」

    作文教室では、日本語の使い方から始まり、文を書く時の注意点がこと細かに書かれていた。

    自分の日々考えていることを、少しずつ丁寧な言葉で綴っていきたいと思わされた。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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