将軍が目醒めた時 (新潮文庫 つ 4-4)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171043

感想・レビュー・書評

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  • 短編10作品を収録しています。

    大江健三郎の代表作になぞらえたタイトルの「万延元年のラグビー」は、桜田門外の変のあと、浪士たちによって持ち去られた井伊直弼の首のゆくえをめぐる物語です。「ヤマザキ」は、本能寺の変によって織田信長が殺害されたあと、羽柴秀吉の電光石火の決断によっておこなわれた、いわゆる「中国大返し」に題材をとった物語です。歴史小説のような語り口から、突如として著者のえがき出すナンセンスの世界に連れ去られていくような感覚があじわえます。

    「乗越駅の刑罰」は、7年ぶりに故郷に帰省した入江又造という作家が、駅員に無賃乗車の疑いをかけられることにはじまって、悪夢そのもののような展開に巻き込まれていくストーリーです。不条理は、現代文学における重要なテーマですが、奇想天外なナンセンスやパロディを駆使する著者がそのテーマを料理すると、こういう作品になるのかと感嘆させられます。

    「新宿コンフィデンシャル」と表題作「将軍が目醒めた時」は、著者らしいナンセンスに満ちたストーリー展開のなかに、現代批評的な視点がかいま見られます。ナンセンスとブラック・ユーモアに徹することを著者に求める読者にとっては、これらの作品のうちにも説教臭さを嗅ぎつけて興覚めしてしまうのかもしれませんが、引き締まった物語を構築する手腕はみごとだと感じます。

  • 内容紹介
    将軍として精神病院に君臨してきた蘆原老人が長い狂気の眠りから目醒めた時、世界が崩壊した――正気と狂気の渾然とした現実世界のナンセンスを突く表題作。一枚の切符を発端に、懐かしい故郷の駅に降り立った男を次々に襲う悪夢をシュールなタッチで描く『乗越駅の刑罰』。他に『万延元年のラグビー』『ヤマザキ』など、奇想天外なアイディアとブラックユーモアに満ちた全10編。

  • 史実に題材を取ったSF作品が面白い。「ヤマザキ」の終いにはしれっと新幹線まで出てきてしまうはじけ方も良いが、寓意を込めた「空飛ぶ表具屋」が好きだ。本書の中では表題作の他に「家」の不思議な世界観が良かった。果たして暴風雨の後の縁側を漂流する隆夫がどうなったのか? 筒井康隆の多面的な才能が開花したような短編集だった。

  • 僕の好きなのは家っていう短編で海に浮かんでいる家自体が不思議な"謎"を含んでいる。大きなことは起こらないんだけど、縁側より高く作られた居間や日当たりのこと等細かい描写がどことなく懐かしい。今は見えないけれど、水の向こうにいつか主人公は陸地(現実)を見るに違いないし、それから目を背けることは許されない。しかし、だからこそ今は夢の中で熱に浮かされながら、水に揺られててもいいんだよ。

  • 短編集はどうも記憶が怪しくなる。将軍はかすかに覚えているのだけれど。

  • お茶の水の古本コーナーで購入。歴史に材をとったドタバタが展開される。SF色は少ないが十分楽しめる。とくに「乗越駅の刑罰」は面白い。単に切符を無くすことが死を招くこともある。

  • 笑える物から怖い物まで色々なタイプの短編が入っているので筒井康隆を読み始めたい人にオススメしたい。
    『万延元年のラグビー』
    解説したら負けだ。北斗の拳。
    『ヤマザキ』
    有無を言わせず爽快な気分にさせてくれる。これで笑えない大人にはなりたくない。
    『乗越駅の刑罰』
    悪夢を文章化したような作品。『走る取的』と並んで最も怖い作品の一つ。
    『騒春』
    珍しく私小説っぽい話。昭和の不良の香りがする。
    『新宿コンフィデンシャル』
    シュールレアリスムの教科書のような話。でありながら青春小説でもあるのだなあと感じる。舞台劇にしたら面白そう。
    『カンチョレ族の繁栄』
    またまた悪夢的な作品。価値観が固まってしまった人にとって異文化とのコンタクトはなんと難しいことか。
    『註釈の多い年譜』
    当事これを中間小説誌に載せたんだからすごい。今でも充分前衛的。
    『家』
    何度も読み返したくなる名作。『遠い座敷』『夢の木坂分岐点』と並んで、日本人の原点をSF仕立てにすることでよりくっきりと浮き上がらせることに成功している。
    『空飛ぶ表具屋』
    今こんな作品書いたら批判の槍玉に上がるだろう。言論の自由よ今いずこ。俺も日和ってはいかんなあ。
    『将軍が目醒めた時』
    こんな爺さんがいたら、楽しいだろうなあ。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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