おれに関する噂 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171050

作品紹介・あらすじ

テレビのニュース・アナが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた-「森下ツトムさんは今日、タイピストをお茶に誘いましたが、ことわられてしまいました」。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。なぜ、平凡なサラリーマンであるおれのことを、マスコミはさわぎたてるのか?黒い笑いと恐怖にみちた表題作、ほか『怪奇たたみ男』など、あなたを狂気の世界に誘う11編。

感想・レビュー・書評

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  • 「48億の妄想」を読んだ時に「この本も傑作揃いですよ」と教えてもらったので、さっそく古本屋に注文して読んでみた。いゃあ、面白かった。

    筒井康隆初期の短編集だそうだが(単行本は昭和49年発行)、かなり売れている頃のエピソードは、編集者の戦略通りに作品を書かされ作者もそれに乗っかる「養豚の実際」や無限ループの「講演旅行」に見事に反映されている。「おれに関する噂」もそうだが、いつの間にか「世間」(?)という「情報」(?)にコントロールされる恐怖がいろんな所にちりばめられているのである。

    それは、使い捨ての消費社会に対する政府の節約キャンペーンを皮肉った「YAH!」にもあてはまるだろう。

    集合住宅に住んでいる夫婦の元に、無料で家計簿診断をしてくれるという男がやってくる。「無料ならば‥‥」と始めたそれはだんだんとエスカレートしていき‥‥。

    おれのことばに、チョビ髭があっと叫んで飛び上がった。「それをおっしゃてはいけません。いつあなたがそれを言い出すかと、実は恐れていたのです。どうせ家は買えないものと諦めて、なかばやけくそになったサラリーマンのそういう考え方、それこそが諸物価を値上がりさせている原因なのですよ。乏しい給料をはたいて次々と流行のものを買い漁ってゆく現在の大多数サラリーマンの消費生活こそが、物価高や大企業の公害を生んでいるのです。諸悪の根元はそういったサラリーマンたちの、分をわきまえぬ贅沢、やけくその購買意欲、乞食的虚栄心にあるのですよ。あなたもそういう連中のひとりに身を落としたいのですか」彼は喋り続けた。これは政府や役人の考え方だ、おれはぼんやりとそう思った。しかし反駁する気にはなれなかった。(165p)

    流されて、死ぬほど働いて、気がついたら貯金を全部持っていかれた夫婦の姿は、やがてインフレと社会福祉削減と消費拡大キャンペーンで貯金全てを持っていかれる我々の未来をも暗示しているのかもしれない。
    2013年4月8日読了

  • 昭和56年12月15日 13刷 再読
    家族八景や時をかける少女やこんなシュールなショートまで書けてしまうって、流石。

  • あいかわらず面白いし。しかし背景設定が気になる。会社、通勤、職場の人間、家庭、マイホーム。昭和のサラリーマンとはこういうものだったのだ。
    ところで、なんでこの本が、私の「読むリスト」に入っていたのだろう?

  • 「行く手の何ものをも踏みつぶして行進する象の大群を、おれは連想した。いや、あるいは通ったあとには何ものも残らないといわれる蝗の大群であろうか。これは人間ではないな、と、あたりの連中の腑抜けたにやにや笑いを見まわしながらおれは思った。まさにレジャー・アニマルだ。」

  • 半分しか読んでないけど、「読み終えた」。「幸福の限界」まで読んで、露悪趣味に耐えきれなくなった。

  • 短編11作品を収録しています。

    表題作の「おれに関する噂」は、平凡なサラリーマンである森下ツトムの日常が、とつぜんマスコミを通じて人びとに伝えられるという、シュールな世界がはじまります。このままナンセンスの路線で行くのかと思いきや、マスコミに踊らされる現代人の風刺とも受けとることのできるような結末が用意されていて、個人的にはなくもがなの感があります。

    「YAH!」も、同様のねらいをもった作品であるように思われます。アパートに暮らすしがないサラリーマン一家のもとに、田中と名のる家計コンサルタントの男がずかずかと入り込んできて、彼らの金遣いに口出しをはじめます。とくに結末部分で、現代の世相を風刺するような内容があからさまに提示されているのですが、こちらは田中といういかにも胡散臭げな男が生活のなかに不躾に入り込んでくるという展開が不条理性を強く帯びていて、「おれに関する噂」にくらべると純粋におもしろく読むことができたように思います。

    「心臓に悪い」は、日本海沖の柘榴島に出張を命じられた会社員の男が、心臓の持病の薬がなかなか届かないことに苛立ちつづけるというストーリーです。結末部分でそれまでの流れを大きく跳躍するような締めくくりかたになっているのは、著者が最後の最後で我慢ができなくなってしまったかのようにも感じられます。

  • 『幸福の限界』がかなり良かった。
    資本主義の行く果て…みたいな話が好きなんだと思う。
    筒井康隆の文章は情景が鮮明に頭に浮かぶから凄い。

  • ブラックなユーモアと的確なメタファーどん詰めでおもしろかった〜。「幸福の限界」、ハッとさせられる…

  • 才能がこわい

  • 「心臓に悪い」...心臓発作の緊迫感とそのトリガーになる怒りが同時に押寄せ、苦しくなりつつもあまりに上手くムカつかせてくるので笑ってしまう。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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