旅のラゴス (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171319

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  • 初筒井康隆

    旅人ラゴスが高度文明崩壊後の世界を南へ北へ向かう行きて帰りし物語。文明崩壊後に人類が突如として手に入れた特殊能力(転送、壁抜け、予知夢など)やスカシウマ、ムラサキコウ、ミドリウシなどの架空生物が当たり前のように存在する独特な世界観だが、先祖=高度文明(=現代の地球?)の知恵を手に入れたラゴスの「段階を踏まぬ飛躍は社会に有害であり、秩序が崩壊する」などの懸念は現実世界にも通じるものがある。

    約250ページの中に半世紀くらいの物語が詰まっているため、別れや死も含めて、一章一章が淡々と語られるイメージ。
    そんな中でも作品を通じてラゴスが忘れることができなかったムルダム一族の女性デーデという女性の存在に導かれて最後の旅に赴く。

    当初の目的に向かう途中で直面する出会い、知恵、好奇心が新たな目的を作り出し、その無限のサイクルで人生というものは成り立っているのだということを思わせられる。

  • 高度な文明の面影だけが残る世界の中で、旅を続ける男ラゴスの足跡を記した連作短編小説。癖の強い筒井康隆の小説の中では屈指の読みやすさを誇る。30年前の小説だというのにその描写は一切色褪せておらず、誰しもが心の奥底に抱いているであろう探究心や冒険心をざわざわと呼び覚ます。テレパスやテレポーテーション等の能力に目覚めた超能力者たちの住まう世界観は幻想的でありながらも、雄大な自然や遊牧民などは現実の世界と相似しており、生きもの地球紀行のような深い味わいがある。スカシウマ等の馬と思わしき架空の動物の名称も世界観にぴったりと合っており、他にもカナの実という豆が謂わばこちらの世界でいうコーヒー豆というのは非常に面白かった。栽培し、焙煎することによりコーヒー豆という名称を取り戻すのは、人間の築き上げてきた叡智や文明が復活したかのような深い感動がある。結局のところ、旅には理由などなく、目的は口実に過ぎないのだろう。未知のものをみたいという好奇心や探究心の暴走である。人生そのものが旅であるという意味を、これほどシンプルに描き切った小説はそうは無い。名作の一つである。

  • 一生をかけて旅する主人公の物語。

    運命の人と出会え、最後までその人を追い求めることができた主人公は、幸せだったと思う。

  • 時間の経ちかたが淡々としていて容赦がない。だからか、SFなのにリアリティを感じた。
    主人公の感情も淡白そうだけど、そこに興味をそそられる。

    筒井さんの本は初めて読んだけど、他の作品も読んでみたい。

  • 昭和61年の作品。

    二千二百年前に宇宙船でこの地にやって来たご先祖様は、高度の技術を身につけた文明人。その知恵の全てを記した書物を読むために、青年ラゴスは南方大陸へと旅をする。

    ご先祖の文明を引き継げなかったラゴスたち子孫は、代わりに空間転移や他者の心への感応、予知等の能力を身につけ、中世諸都市のように点在する都市や村落で生活を営んでいる。盗賊、追い剥ぎも出没し、治安はあまりよくない。

    ラゴスの旅は波瀾万丈。奴隷として七年も鉱山で働かされ、目的地キチではいつに間にか王さまに祭り上げられ、帰路には奴隷商人に拉致され、帰り着いた故郷の地ではご先祖様の知恵の普及に引っ張りだこ。身に降りかかる運命を淡々と受け入れるラゴスの誠実なキャラが心地よい。

    独特の世界観とラゴスのキャラが味わい深い一冊でした。ご先祖様の書物を読み耽ったラゴスの十五年間の読書生活が羨ましい。

  • いきなり読み始めると、転移?とためらってしまうので、そこはやはり氏、これもSFものとして心得てから読み始めるのがおすすめ。
    でもそこまでSF色が強いわけではないので、ヒットしたのもファンタジー的な感じで受け入れられているのではないだろうか。

    主人公ラゴスがいろんな場所に旅をしていくので、その一つ一つの場所が短編集のよう。
    場所によってすっと読めるところもあればなぜかなかなか進まないところもあったり。
    顔、壁抜け芸人、たまご道はあまり後の話に関係してないっぽいし、不思議なとこばっかりで少し読むのがしんどく、銀鉱は他のより長いが、まあこの話の内容はまあまあ重要なので仕方なく、でもここを過ぎるとあとはもうあっという間。

    読む前はただ単に旅をし続ける話がなぜ話題をよんでいるのだろうと思ったけど、読んだあとでも「どこがよかった?」と聞かれてもうまく答えられない。
    一つ思うのは、ラゴスが旅を続ける理由が無理やりではなく、そうせざるを得ないということが無理なく伝わってくることと、ラゴスの実直さにあるのかもしれない。

  • 長い旅をしてきたような感覚になった。うらやましい!
    自分もこんな旅がしてみたい!と思う。
    羨望の目を集めながら、己の目的のため行動する。
    その際の別れは厭わない。惜しむが厭わない。
    その姿勢に憧れるし見習い到達せねばならぬと思う。
    もっと勉強していろんなことを知ろう!と思った。

    最後、デーデに出会えていてほしいと強く願った。

  • 不思議な本。正直なところ、ものすごく面白いわけではない。が、最後までよめば何かわかるだろうと、好奇心で最後まで読了。SFのような、文明批評のような、一人の男の旅のものがたりだった。

    難解な小説かと思いきや、とてもすらすら読みやすいのは、さすがの筒井先生。でも他の小説とはちがって、衝撃や驚きは少なかった。わりとたんたんとしている。

    心に不思議な余韻が残った。ラゴスとともに長い旅を楽しんだ。この本は、一体なんだったんだろう?

  • 200ページ強の短い作品で、さらに旅を描いているから一つの場面があっという間に過ぎていく。

    それでもユーモアのあるストーリーや、キャラクタの存在感。考えられた設定によって世界が立体となって現実味を帯び、ラゴスと一緒に旅をした気分になれた。

    とても気持ちのいい読了感を得られた作品でした!

  • 初の筒井康隆。

    主人公のラゴスは、一生分の人生を費やす旅をする。たった230ページなのに、その間には数十年の月日が経ち、とても長い物語を読んだかのような気分。

    旅先で出会う人々やその生活の描き方はそれなりに丁寧で、しっかりと紀行小説として成り立っている。そんな中にも、ワープやら読心やら完全記憶やら浮遊やら、超常能力が散りばめられているんだけど、それは人々の生活に自然な形で浸透していて、ファンタジーとSFのなんとも言えない絶妙な塩梅を生み出している。

    有能で人当たりの良い主人公が旅をするという意味では、
    パウロコエーリョの「アルケミスト」っぽい。
    そして地球ではないどこか別の惑星で、少し不思議な能力を持った人々と出会って行くという意味では、ルグィンの「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズを思い出した。

    ただ、物語のテンポは普通で、登場人物には特段感情移入できず、可もなく不可もなくと言ったマイルドな読後感。
    SF的なエッセンスがもっとあれば良かった。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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