旅のラゴス (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171319

感想・レビュー・書評

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  • なかなかに良かった!
    「私のこのウツウツとした感じ…もしかして旅を求めてるのでは…?」と変な影響を受ける笑

    まず手に取ってみて、この薄さは、と驚く。
    (旅の本、というと厚い本であるべきという先入観)
    連作短編の形だが、一遍が口説くなくあっさりと終わったりする。あと、主人公がいい意味で醒めていて読む方もさらさらと読めてしまう。
    世界観も独特。
    瞬間移動や、読心など特殊能力が普通に出てくる。その代わり文明が後退し、南方に行くに従って治安も悪く、乱暴に命を奪われることも珍しくない世界。

    ラゴスは奴隷になったり王様になったり忙しい。
    柔らかな物腰が知性を感じさせ、やたらと女にモテる。

    特に終わり方が良かった。
    人生の目的を達し、会いたい人に会いに行く最期の旅。男性は特に、ラゴスのような人生に憧れる人も多いのでは…と思った。

    【人間はただその一生のうち、自分に最も適していて最もやりたいと思うことに可能な限りの時間を充てさえすればそれで良い筈だ】

  • 高度な文明を失い、その代わりに人々が超能力を身につけ始めた世界。その世界を旅するラゴスの連作物語。

    「旅をした気になる一冊」として紹介されていたため、期待しながら読んだ。が、一気に読んでしまう面白さはあったものの、読んだ後どうもすっきりしない。このもやもやは何なのだろう、と考えてわかったのは、ラゴスの人間性に全く共感できなかった、ということだった。

    話の前半は、原始的だが超能力が使えるようになっている近未来の町をラゴスが旅するロードムービーのような味わいで、ちょっと不思議な世界観と相まって楽しめる。
    話の中盤にさしかかるころ、ラゴスは訪れた町で奴隷狩りに遭い、7年もの奴隷生活を送ることになる。ラゴスの故郷は奴隷生活を送る世界より文明が発達しているようで、彼は自分の持っている知識で命拾いし、ラウラという女性に助けられて奴隷生活から抜け出すことに成功する。このあたりのエピソードはなんだか安部公房『砂の女』を彷彿とさせる。

    問題はこの後である。ラゴスの旅の目的が明らかになる中盤以降、物語は急にラゴスに都合のいいように進んでいく(ように思える)のである。
    さすらう者は自由を得るかわりに孤独である。前半の彼は、まちの人と交わりながらも一つの場所に落ち着くことのできない人間特有のハードボイルドな雰囲気を漂わせていたように思う。なのに、後半の彼は何も失うことなくひたすら享受し、あがめられ、高い場所から施しをする。安住の地に飽いたら何にも縛られることなくその場を去る。終盤、故郷に戻った彼はこれまで家族を全く顧みていなかったにもかかわらず温かく迎えられ、得た知識で高い尊敬を集める。そしてそのような生活に飽きたらまた旅に出る。かつて自分を愛してくれた少女の面影を探して。この甘すぎる展開にも心がもやもやしてしまう。
    前半と後半のギャップは、ネタ切れで前半のテイストが続けられなくなった著者がやけくそになって後半に自分の理想の生活を書き綴った結果なのではないか、と邪推したくなるほどである。

    思うに、私のような現実主義者には夢想が過ぎる小説なのかもしれない。前半の不思議な世界観は嫌いじゃなかっただけに、ちょっと残念である。

  • ラゴスの旅を描く。
    世界観が不思議な小説。
    時間が経つのが早いね。人が一生に出来ることは限られていると感じた。だからこそ儚い夢を描き、情熱に動かされ、失望し、喜ぶのだろうと思う。

    旅の目的は知識であったか。自由なのか。それとも淡い恋心か。

    物語は最後までラゴスの主観で進んでゆく。ラゴス自身は、人望があり、知識欲も強く、聡明で人を思いやる気持ちもある魅力的な人物である。しかし、目的の為ならば、残酷な選択もするという、ハードボイルドな部分も持ち合わせている。出来る限りの準備をし、人々に役立つものを残し、それぞれの村、街から旅立ってゆくラゴス。

    祖先の知識に触れる部分については、本書の中盤以降、ラゴスや人々に大きな影響を与えている。ある種、禁断の知識であり、ラゴス自身も慎重に扱っている描写が多い。

    ラゴスが求めた一人の女性は一体どんな魅力があったのだろうか。
    読者としては、旅の中で出会った女性の一人であり、特別何かを感じたわけではなかったが、ラゴスは最後に彼女を求めて旅をした。
    たとえ、それが死の旅であったとしても。

  • タイトルそのままラゴスの旅のSF小説。

    世界は文明が衰退しているが、
    人や動物の心を見、それと同調できる能力や空間転移なる瞬間移動など超能力が一般的な世界。

    前半はいい感じに不便な超能力が生活を左右していてバランスがよく面白かった。

    後半にゆくにつれラゴスの目的が明らかになりつつ、科学技術
    や政治も混ざりファンタジー感が薄らいでもっと前半のような話が読みたかったと個人的には思う。

    ラゴス自体に共感はできなかったり、少し好みに合わない部分もあったがそのラゴス由来の淡々とした語りや文体は好きです。

  • 色々目的を言っていたりもするけれども、旅をする事それこそがラゴスの目的だったんだろぅなぁ。

    一所に長逗留することもあるけれどもすぐに旅に出たくなるのは性分なのだろう。

    自分なら恐らく王国に留まって悠々自適に余生を過ごすかなぁ。

  • 期待を裏切らない脳内小旅行。

    旅とか冒険って言葉を聞くと、なんかワクワクしてしまうのは自分だけかな笑

    旅の途中で出会う人たちが、とにかく魅力的でした。

    一人旅がしたくなる本。

  • 旅人を主人公とした物語。
    世界が滅亡した数千年後の話ではあるが、数百年前のようなムードの世界観で、プラスアルファで超能力やSFチックなエピソードがあるという、一風変わったストーリー。

    読んでてほのぼのとするというか、ゆったりと話を読み進めることができた。
    出てくる登場人物や特殊能力(顔の変身、壁抜け、集団転移、テレパシー)、ケモノ達(巨大な鳥とヘビ、スカシウマ、赤い蝶)、国や環境も等の物語の構成が非常に凝っていて、文章も非常に読みやすく、ストーリーそのものが楽しかった。

    ただ、あまりストーリーの進行に強弱がなく、主人公も非常に落ち着いていて拍動がないところが、読んでて少し(非常に少ないが)物足りなく感じたかな。

    かと思いきや、終わり際は「どうなるんだ?」と思ったところで、途中で完結してしまうというストーリー。

    ああ、本当に面白かった!!

  • 「旅のラゴス」筒井康隆氏

    1980年代の著書。遡ること40年。
    筒井康隆さんの想像豊かな世界が堪能できる著書。
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    1.物語の設定。
    電気のない時代。活版印刷もない時代。
    学者あがりの青年、名はラゴス。

    遥か海の向こうの大陸に存在が噂される蔵書を知りたいため、旅にでる。

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    2.旅、経年そして、、、
    旅はあしかけ30年に及ぶ。
    20代で出発し、帰郷は50代となる。

    山賊に誘拐、炭鉱で10年近くの肉体労働。
    蔵書がある村での読書、まとめの15年間。

    蔵書を通じて、工学、医療、生物、法律と世界を広げる楽しみを知るラゴス。

    彼の姿を通じて、読者側は、筒井康隆さんの知識への飽くなき欲を垣間見ることができる。

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    3.晩年に向けて
    ラゴスの晩年。
    70歳を前に、故郷で教鞭をとるこもやめ、ひとつの心残りを果たす目的で、最後の旅へ。

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    筒井康隆さんがラゴスに託した50年のあゆみは、書と旅が好きな読者の方ならば、引き込まれる世界となることでしょう。

  • ラゴスさんの人生旅のお話。

    なんか良く分からなかったけど楽しかったです。
    はて...?

  • 高度な文明を失った代わりに、人々が特殊な能力を獲得した世界。
    この世界を旅するラゴスという名の男が本書の主人公です。
    ある時は奴隷として鉱山で働き、またある時はその知恵を称えられて王と呼ばれ。
    旅先で出会う人々や出来事を綴った短編が積み重ねられ、だんだんとラゴスの目的やこの世界の背景が見えてきます。

    ラゴスとの交流がもたらした刺激や知識により、人々の考え方や技術が向上していく様子を読みながら、どこかで不安を感じている自分がいました。
    今は電気もない世界ですが、やがて産業が発達し、科学技術が世の中を変えていくだろう。
    政治や社会の在り方もより洗練されていくだろう。
    しかし、その先に待つのは、再びの滅亡なのではないか。
    そんな予感にうっすらとした寒さを感じた読後でした。

    初めて読んだ筒井康隆作品にあまり馴染めず、それ以降読んでこなかったのですが、本書はとても好みでした。
    あとがきによると、筒井作品の中では異色作のようですが、これを機にほかの筒井作品にもチャレンジしてみたいと思います。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

筒井康隆の作品

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