敵 (新潮文庫)

  • 312人登録
  • 3.39評価
    • (22)
    • (28)
    • (82)
    • (10)
    • (3)
  • 35レビュー
著者 : 筒井康隆
  • 新潮社 (2000年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171395

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フランツ・カフカ
宮部 みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印

敵 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

  • 読後3日はむなしい気分になる

  • 圧倒的すぎる孤独にただただ読後、放心。
    解説の川本三郎が「老人文学」と評していたがこれはもう他に類はないのではないか。

    儀助の日々日常を淡々と、しかしすさまじく細かに描く冒頭から筒井ワールド。擬音を独自の漢字に当てはめて描くのも筒井ファンにはたまらない、お約束の表現として楽しく読む。しかし、「酒」を辺りにから現実と夢、幻覚の区別が徐々に曖昧になってくる。

    さあこれも筒井御大独特の導入と、読む者は気を引き締める。パソコン通信で「敵」があらわれたときなど、読者は小躍りする。どんな展開が待っているのだろう、ここからドタバタになるのか、儀助の身に何が起こるのか。何ならもうすでに最初からすべて儀助の妄想であって などなど、永年やられつづけてきたファンは各章を読み進める。どれも、筒井読者には通ってきた道であって最後の行で「やられた!!」となるはずだと確信をもってページを繰るのだ。

    そして、やられた。最後の行にあったのは、ただ、ただの老人の孤独だった。独居老人の日常にはなにが起ころうと展開などあるはずもないのだった。「春雨」の章、「彼は首を四十五度にして耳を傾ける」。

    あれだけ夢で死んだ妻に焦がれながら、毎年のように遺言状(ただし効力はない下書きのワープロ)を書き換えながら、毎晩晩酌をし酔生夢死にうっとりしながら、そう、貯金が底をついたら自死をすることだけを日々考えながら、春の前の使途使途死都死都ふる雨を聞きながら、ただ思うのは「春になったら来てくれるだろう」「信じて待つとしよう」と、「生きている知り合い」に逢うことだけ。恐ろしい孤独。生きている人間が最後に感じる、圧倒的な孤独。「老人文学」とは本当によくいったもので、これはこの年まで生きて筆をとりまた全盛期の力と意地を失わない筒井康隆でしかものせなかっただろうと思う。孤独を描き切り読む者に伝えることができた作家の力とは、と想像を絶するしかない。また文庫版の表紙がいいんだ、これが。

  •  単行本買ったまま積ん読にしておいたら、2年後に文庫化されて、しかし、いまやどっちも絶版ではないか。

     主人公というか主たる描写対象は儀助という人物である。まず最初の章は「朝食」である。儀助がどのような朝食をどのように摂るのか微に入り細を穿って描写される。そして次の章ではまた別のテーマが主軸にすえられて儀助の生活が克明に描写されていく。
     渡辺儀助はかつて大学教授で西洋演劇史を専門としていたが、定年を迎えて10年ほどたち妻には既に20年前に先立たれていて子どもがいないために持ち家でひとり暮らしをしている。老人の淡々とした日常である。格別、贅沢をしているわけではないが一定水準の生活は保ち、しかしそれ以上は厳しく自分を律している。すると年間の経費が明らかになり、蓄えがいつなくなるかもみえてくる。そのときが死ぬときだと儀助は考えている。
     「麺類」が好きで、昼は麺類を食するが何をどうやって用意しているのかとか、「郵便物」はどんなものが来るのかとか、「昼寝」のときには物故映画俳優が出てくるが頻度が多いのはこの順だとか、書かれていることは特に事件もない日常の瑣末の連続である。そこで仄かに漂ってくるのは、老いることの侘びしさ、淋しさ、惨めさなどである。それも誇張されたものではなく、当然誰にでも訪れそうな状況であって、余計、薄ら寒くなる。
     そして真ん中を過ぎたあたりで、タイトルと同じ「敵」という章が来る。これは儀助がROMをしているパソコン通信の雑談サロンの「北の方から敵が来る」という内容の奇妙な書き込みである。

     と、ここで「新潮社新刊案内」が本にはさまっていたのを発見したので、本書の紹介を引用いたします。

    「これ以降は常に、『これが最後の作品』と思いながら書き続けねばならないだろう」(筒井康隆)
    渡辺儀助、75歳を脅かす「敵」とは何なのか? 老醜をさらす前に自裁を決意した元大学教授の〈死を前提とした生〉の光陰を超絶的緻密さで描き、残酷なまでに衰え崩れゆく意識の襞の襞まで見すえた感動と哀切の430枚。『虚構船団』から14年、筒井文学の達成を示す長編作品!

     それだけのことを言っておいて、いまや絶版にしていていいのか、新潮社。

     さて、この異質な一章のあと、話は死んだ妻のことになり、「敵」の侵攻が始まるのだ。敵の正体は大体見当がつくので、あとはそれがどう描写されるかに、著者の手腕が示されるというわけだ。

  • 筒井作品の中で、あらすじに惹かれて購入。
    SF作家の小説のあらすじに
    『「敵」が攻めてきた』
    なんて書いてあったら、どんな敵なんだろう。エイリアンかな?なんて思うのが普通ですよね?笑
    この作品は、よくも悪くもその期待を裏切ってくれます。
    主人公は、妻を亡くした老人なのですが、物語の前半は主人公がどんなところに住んでいて、どういう経歴を持っていて、毎日何を食べていて・・・という話が延々と書かれており、私はここで挫折しそうになりました。
    実際、この小説を読み終わるのには相当な時間を要しました。一時期読書を敬遠していたのはこの本が読みたくなかったからと言っても過言でないかもしれません。
    そんな日常パートが終わるといよいよ「敵」が出てきます。
    ・・・その後は読んだ方ならお分かりの通りのオチです。
    ボケ老人の思考を内側から表現するというのはなんとも突飛で非常に面白いと感じました。
    日常パートも、その事実を知った上でよくよく考えるとおかしなところがあるんですよね。
    ぜひ、もう一度読み返したい・・・とは思うのですが前フリ部分である前半が非常に細かく長いので少し躊躇ってしまいます笑
    しかし、冷静に考えると怖いですよね。
    自分ももしかしたらなんて考えると・・・・。

  •  一人暮らしの老人の日常を細部まで描写することから始まっているのだけど、擬音が当て字表記になっているところが既にこちらを心許ない気持ちにさせてくる。そうしているうちに老人の意識と無意識の境界線が曖昧になっていき、書かれていることは過去に本当にあったのかそれとも彼の夢または幻なのかが少しずつ分からなくなっていく不安感をこちらも感じるけれど、もしかしたらこの感覚が"老い"、"耄碌"なのかもしれないと思った。果たしてこれは老いが人に与える幸せなのか哀しみなのか…ということを考えさせられた良い老人文学。

  • 中盤まで会話という会話がなく,文字がずわーっと並んでるし,擬音が漢字になってるし,これ読み切るの大変かもと思っていたらそこから…。
    読み終えたときは「おおぅ」みたいな変な溜息が出て十秒くらい固まった。そこから一週間くらいふとした瞬間にそのときの感じが再現されて困った。

  • 結局この話は何だったのだ。
    視点が足りなすぎて全然わからなかった。

  • 妻に先立たれた元大学教授75歳

    ひとり暮らしの生活を淡々と綴っていきながら
    だんだんと現実と夢、妄想との境目があやふやになっていく。

    歳をとるということは、そして老耄するということは
    こういうことなのか・・・と
    シンシンと恐ろしくなる1冊です

  • これは怖い。
    自分も目指したくなっちゃうような端正な日常生活の細かな描写からだんだん”敵”が見えてくる辺りが非常に秀逸。

  • とにかく読みにくい序盤を抜けると「敵」の出現からどんどんと現実感が薄れていく。
    この流れるような展開のさせ方は流石に凄い。

  • 85歳男性、新東名高速を逆走。

    今日のニュース記事である。「高速を走っているつもりはなかった。料金所を見て間違いだと気付いた」という。

    老人小説というジャンルは表立っては無いが、古井由吉がその手の枯れた文章の名手だとどこかで見た覚えがある。しかし”老人小説”で検索すると、ヘミングウェイや谷崎がでてくるから、該当する作品を並べるとジャンルとして確立されていないことがわかる。

    老人小説という、「大人びた」世界を超越した境地を語る文学にはなんだか心惹かれるものがあるのは、いつかは通る道、というよりかは「いつかは行きつく”誰かの(私の)”最終世界」に対する興味があるからだ。これがただの古典との大きな違いだと思う。フィクションによるカタルシスではなく、数十年後に遭遇するかもしれない事態のケーススタディとして。

    私が考えているそれらの作品の特徴は、基本的に動きが無い。回顧、懐古が文章の大半を占める。しかし物理的な動きが極端に少ないローカロリー小説である半面、過去の思い出や反省の度に時間軸を頻繁に行き来する。


    さて、表題の筒井康隆の作品だが。実験的作風でも定評のある作家なので、老衰・耄碌によって現実世界が徐々に溶解・変容していく様が生々しく描かれている、という評判に魅かれた。

    75歳の元仏文学教授の身辺のあれこれが細かい章に分けて記され、独居老人の基本的に単調な生活が最初の頁から7,8分目まで細かく描写されている。

    妻を50代後半で亡くし、60代で退職、少ない知人と年に数回会う以外にはずっと古い戸建てに一人で暮らしている。生活パターンをある程度固定化し、また自堕落にならないよう適度に欲望を自制することによって、ボケ予防を心がけているようだ。元教授だが手持ちの現金や預貯金はさほど多くなく、また度を過ぎた倹約は矜持にかかわるからと生活レベルを極端に落とそうとは考えてはいないゆえに、渡世の糧がなくなればそれは死期と考えながら余生を送る。

    作品の後半から、幻視幻聴の類と思われる会話文が徐々に多くなってゆくき、確かに非現実的な世界も描かれているものの、私が想像していた「老人を主体とした思考実験、そこからのドタバタ」とは異なる、ずいぶん穏やかなものだった。

    あまりにも意外性がないゆえに、精神面での老後の不安は容易くリアルに転じそうで若干ホラーの様相もある。


    以下抜粋、
    ―突然幻聴は消えて静寂がやってくる。頭が冴えわたっていて晴れ晴れとした気分だ。自分の中の毒を他者の言葉として聞き膿のように絞り出し尽くした故の爽快さであろうか。生きている事が楽しくなり、残りの時間が楽しみに思え死の時さえ享楽できそうなこの安らかな気持ちは自分の死期を早々と決定したが故の功徳なのだろうか。ならば須らくこの後利益に与するため自らが死すべき時をおのれで決めるべきではないのか。お迎えの時がいつか分からぬままに生きる不自由さに比べてこれこそが真の自由と言えるのではないだろうか。(目次「幻聴」より)

  • 漢字の擬音語が面白かった。
    でも、その擬音語が、最後あたりには少し不気味さも含んでくる。
    それは、妄想の世界が幅をきかせてくるのに比例している気がする。

    思い出とは、一種の妄想なのだ。
    過去は形を変え、目の前に広がる。
    それにひたる時間が徐々に増え
    現実を凌駕する。

    小説全体で、それを表現しているようだった。

    大切な人たちに自分を愛してもらいたい
    でも、自分は自分が望むほど愛されていたのだろうか。

    信子さん僕が嫌いか信子さん

    何気ないこの呟きが、切なかった。

    様々な自分の弱さや死が、敵となり声となりまわりを囲んでいる。
    それらから心を守り、あたためるための幻想の世界なのかもしれない。

    空白の多い雨の中
    賑やかな幻想が消えた先生は
    春になって、皆に会えたんだろうか。
    会えたんだろうか、なぁ。

  • お爺ちゃんの日常の話

  • 一人暮らしの老人が徐々に若かりし日々の追想に囚われていき、現実と幻想の区別がつかなくなっていく様を主観的に描いている。もっと端的に言えば老人がボケていくのを主観で体験できる。

    ある時点で突然にというのではなく、いつのまにか幻想が入り交じってくるのを主観的に書いているので、読んでいるこちらまで境界線があやふやになり、何が事実で何が妄想なのかわからなくなっていく。とても目新しい表現で興味深く読んだ。

    が、読んでいて面白かったかというと、うーん。かなり微妙だったように思う。
    とくに前半〜中盤の微に入り細を穿つような恐ろしいほど詳細な日常描写があまりにもどうでもいいことにまで言及してくるので辟易としてしまった。食事の具材を用意する場面で、どれだけの量の具材をどのように切ってどう調理したかとか描かれてもどうでもいいわ!と思ってしまう。これが後半に向けてのフリだというのはもちろん解るのだが、それが解っていてもなお読むのが辛かった。

    ただ実験的な作品としてやりたいことをやりきっており、読んでいる最中は本当に自分が年老いたような気さえした。これを読めて良かったとは思う。

  • 前半ゆっくり読んで後半一気に読みました。最後の方では、あまりにも怖くなってきたので、思わず涙が出てきてしまいました。敵はあまりにも恐ろしい。

  • 酩酊感のある文体にたっぷり酔っぱらった頃に
    ものすごい勢いで流されて
    そして、最後にこれでもかと言うほど静かで空虚な場所に放り出される。
    この小説は凄い。

    未読の方は是非とも一気に読んでほしい本。

    文末の解説がこれ以上は無いほどに的を得てるので内容を知りたい人は読むといいと思う。

  • 2010.11.22(月)。

  • 例えば、”鬼平犯科帳”のように、たしかに読んでいておなかのすく小説というものは存在しており本作もそのひとつだ。
    しかも、これは少々のこだわりはあるものの”普通”の食事であり、明日にでも実行のできそうな。
    もっとも、筒井らしい”ひねり”はるものの、ただ、日々の暮らしをするただの一人暮しの老人であり
    その日常を淡々と書くだけで楽しませる筒井はやっぱり筒井だ。

  • ・1/28 久し振りの筒井康隆だ.いろんな人のを読んでたから、数えてみたら13冊目だ.あっという間に読み終えるかもしれないな.読み始めるとなんだか私小説のような日々の生活やこだわりが延々と続いている.単に主人公の性格や人となりを説明しているだけとは思えない.どこかで急展開があるだろうが、(やっぱり「敵」という章だろうな)ここまでの話はどうつながっていくんだろう.結構楽しみだ.
    ・1/29 それにしても描写があまりに具体的過ぎないか?これ程詳細に描写する必要が果たしてあるのだろうか.「敵が来る!」と出てくる章にしても、何事も無かったかのように終わってしまった.いったいこれからどういう話の展開になっていくのだろう.
    ・2/3 ちょっと下の本に寄り道してたけど、今日から復帰した.やっぱり「敵」に関してはちょっとしか出てこなくて、淡々と日常の描写が続いているだけだ.早く急展開しないかな.
    ・2/4 あれ?なんだ、終わってしまったって感じ.そうか、老人小説か.ヘミングウェイの「老人と海」のようなジャンルだね.でも’敵’ってなんの象徴だったんだろう.なんかさみしい.

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/4101171394
    ── 筒井 康隆《敵 199801‥-200011‥ 新潮文庫》
     
     筒井 康隆 19340925 大阪 /~《断筆宣言への軌跡 199310‥ 》
    http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/search?idst=87518&key=%C5%FB%B0%E6+%B9%AF%CE%B4
     

  • 筒井康隆の作品でいちばん好きなものと言われたら、
    間違いなくこれを挙げます。

    自らのルールを徹底して遵守して生きていく主人公と、
    その日常の徹底的に詳細な描写が大変面白く、
    物語自体は淡々と進んでいくのに
    非常に強く惹きつけられ、あっというまに読了しました。

  • 前置きが随分長いなぁ〜?と読んでいたら、気づけば中盤になり…。
    ある老人の日常生活が非常に細かくかかれている。
    特に焼き鳥を食べるシーンは細かすぎ(笑)

    でも細かすぎる『日常』を追っていると思っていたのが、いつの間にか『非日常』というか実体があやふやなものになっていく感じ(・ω・;)(;・ω・)
    本当にあれっ?!いつの間に?!って感じ。

    あと擬音がすべて漢字というのも読んでいて楽しいですねー♪これにも意味が隠されているわけだが…w


    個人的には犬丸がやってきて、鍋をつつく描写が面白かった!!!笑


    味わい深いし、完成度の高い作品だと思うけど、この評価は私の好みにあわなかっただけ。
    本の後ろのあらすじで抱いたイメージと、だいぶかけ離れたなぁって感じたのと、主人公と自分の年が離れすぎていたからかなぁ(;´д`)
    そんなわけで☆2つはあくまで主観。

    真剣に『老い』が怖くなってから読んだら、また違うと思う!

  • 老人がだんだんボケていく過程、という斬新な形の小説。凄いの一言に尽きました。
    大学教授の主人公のこだわり、が語られていく生活の単調な描写の中で、不意に異彩を見せる描写。パソコン画面に写るBBSの書き込み。「敵です。皆が逃げ始めています――。」“敵”とは、一体何なのか。

    小説という枠の中で、こんな形で表現できるなんて!!
    最初はすごく単調で読みづらく、眠気との戦いでしたが、あるとき急に、ふと“おかしい”と気づくんです。それまで気がつかないんです。
    途中でもしかしたら、と思うところが1,2点あったのですが、最後の、抜き差しならない状態になるまで、一体どこからそうだったのか、分かりませんでした。筒井さん、ボケたことあるの?っていうくらいリアルで。
    疑似体験した気分ですよ、私も。あの喪失感、相当切なかったです。
    こういった手法の見事さは、筒井さんの偉大さに尽きますね*心から尊敬する作家の一人です。

  • 妻に先立たれた75歳の元大学教授の物語
    日々の生活が気持ち悪いほど事細かに書かれている。
    そしてついに「敵」が現われるのだが・・・

    この本を読んでいると、一人の人間の生活を観察しているようであった。どうやって落としてくるのかと思いきや、まさかの展開。
    ハマりました

  • 現実と虚構の境界線地図を
    描いた作品。
    その地図は言語によって
    彩られている。

全35件中 1 - 25件を表示

敵 (新潮文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

敵 (新潮文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

敵 (新潮文庫)のKindle版

敵 (新潮文庫)の単行本

ツイートする