最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171432

作品紹介・あらすじ

ドタバタとは手足がケイレンし、血液が逆流し、脳が耳からこぼれるほど笑ってしまう芸術表現のことである。健康ファシズムが暴走し、喫煙者が国家的弾圧を受けるようになっても、おれは喫い続ける。地上最後のスモーカーとなった小説家の闘い「最後の喫煙者」。究極のエロ・グロ・ナンセンスが炸裂するスプラッター・コメディ「問題外科」。ツツイ中毒必至の自選爆笑傑作集第一弾。

感想・レビュー・書評

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  • 読んだ感想としては、「怖いけど笑える。」
    そういった気持ちになりました。まさにブラックユーモアな雰囲気に陥りました。筒井さんの作品に共通するのは、社会への風刺をいかに、滑稽な表現にすることで、笑えることもあるが、いざ自分だったらと思うと怖くなるような場面もあるので、まさに「怖いけど笑える。」この一言にすべてが詰まっています。この作品は、筒井さんの世界観を充分に味わえる短編集になっているので、初心者の方にオススメします。ちょっとグロい部分もあるけど、絶対にハマると思います。

  • 筒井康隆の文体と世界観は時々摂取したくなるし、一回摂取すると次々に読みたくなる中毒性を持っている。今回初めて筒井康隆の短編集を読んで、ドタバタ傑作集という名前通りに様々な物語が心をかき乱してしっちゃかめっちゃかにしてしまう様を心の底から楽しんだ。特に「問題外科」は胃の中の内容物が食道あたりまで込み上げてくるほどのグロテスクな描写であるのにどこか滑稽さ、面白さのある話だった。個人的に1番好きなの短編は「最後の喫煙者」である。どのストーリーも新鮮で型破り的なもので、これこそが本当の読む娯楽だと感じた。

    この短編集を通して一つのライフハックを発見した。今自分は大学の膨大な課題の量に押しつぶされそうになっているのだが、そこでその課題を一つこなす毎に一つの短編を間に挟んで休息を取るようにすると、集中力が永遠に続いて全体で見ると課題を処理する効率が大幅に向上するのである

  • 久々に本読んだ。
    この作家さんの作品は初めて読みました。
    ユーモアのある御伽噺にはとどまらない、何か怖さがありました。
    実際には自分が知らないだけで現実に起きていることかもしれない。近い未来本当にこんなことが起きるかもしれない。

  • 筒井康隆自薦の短編集。こんなに胸のむかむかというか、むずがゆさを感じながら読んだ小説は久々。ストーリーはめちゃくちゃなんだけど、その違和感を超越したすごみが各作品からあふれている。全くあり得ないとは言い切れないのではと、はたと気づき恐ろしくなる。

    最後の喫煙者なんて今のSNSにおけるバイアスかかった扇動や、匿名性をいいことに乱立する心無い中傷なんかを想起させる。

    こぶ天才はまだまだマジョリティな学歴至上主義を揶揄しているし、最後のオチなんてのは学歴社会で量産される堅物たちの行く末を暗示してる気がして他人事ではない。

    喪失の日なんてのは、劇画チックではあるけど昔自分も同じような不安と期待と葛藤してたなーなんて思いを馳せる。

    襟を正して盲信的に信じているただ一つの世界なんてのは、ちょっと状況が変われば瓦解するよう頼りないものなんだ、想像力を働かして突拍子もない世界に浸ることも不透明な時代で起こりうることを受け入れる鍛錬になるのではと思う。そんなときに筒井康隆の作品は良い教材である。

  • シュールかつスラップスティックな短篇を集めたドタバタ短篇集。荒唐無稽なネタに合わせて世界を自在に捻じ曲げてしまう悪夢の如き短篇のオンパレードである。「急流」は時の流れが加速してもそれに辻褄を合わせようとする愚直さを笑った短篇で、特に細部のギャグが面白い。工場努めの人間が加速する時間とベルトコンベアに合わせて加速した結果、日常生活で必要以上に力を込めてしまい、手の骨を折ったりドアノブをねじり切ったりする様は、チャップリンの喜劇を思い出す。時報を延々と喋るうわ言のようなラジオなど、五感に伝わるリアリティのある描写もさることながら、突拍子のない設定を大真面目に考察し、それに応じて世界の細部まで作り変えてしまう手腕こそ筒井康隆の真骨頂といえよう。「問題外科」は倫理観の欠如した医者が患者を弄ぶエロ・グロなコメディで、直腸をしごくシーンはえげつないながらも、子どもが虫を残酷にいたぶるブラックな笑いを感じる。表題作の「最後の喫煙者」は名作と言っても過言ではない出来で、国会議事堂の上で煙草を吸うという絵になる冒頭、そこからの回想と構成に一切の無駄がない。禁煙ファシズムが極限にまで達した世界というのは今の社会を端的に表しており、その先見性には脱帽するばかり。特に人権擁護委員会とのやり取りは秀逸で、この会話に込められた人権派の欺瞞や胡散臭さなどは音読したいレベルである。また弾圧から一転して最後の喫煙者として保護されるという流れもブラックユーモアに溢れている。「老境のターザン」は老いたターザンが狂い咲いて悪の道の進む話だが、軽快なテンポの裏には、老いた人間の存在価値や報いのない正義が悪へと転じるという重いテーマが隠されている。「こぶ天才」は虫を寄生させることでこぶ天才を作り出す物語だが、協調性のないこぶ天才が増えすぎた結果、単なるIQではどうにもならない人間社会の壁にぶち当たり、社会にひずみを生み出して権力からそっぽを向かれるというのがたまらなく斬新で面白い。こぶ天才が増えすぎたことによってこぶ天才の中から脱落者が出たり、かえってこぶのない人間がもてはやされたりという逆転現象を描いている。また周りと衝突するぐらいなら天才でなくてもいいというのは一種の真理であろう。「ヤマザキ」は一番の問題作である。最初は時代劇なのだが、途中でいきなり電話が出たかとおもいきや、新幹線やホテルなど急に時代が狂いだしていく。圧巻なのはオチであり、「説明は何もないのじゃ」という言葉を残して読者の理解すら置き去りにしてしまうのだ。執拗に説明を欲する心理を逆手に取った短篇ともいえるし、またオチのないことがオチになっているという極めて稀有な短篇である。この言葉を言わせるためだけにこの話があったともいえる、一度読んだら忘れられない迷作である。「喪失の日」は大仰なタイトルに見せかけて中身はエリート社員の童貞喪失の話であり、童貞の妄想が先行する様は昔も今も変わらない。「平行世界」は地平がねじれて一続きになった平行世界の話で、自分の弱さを見たくないあまりに駄目な自分を見るために上から降りてきた自分というのが色々と興味深い。「万延元年のラグビー」はタイトルこそ大江健三郎のパロディだが、桜田門外の変の後日談を描いた話で、井伊直弼の首をめぐって忍者がラグビーをやったりイギリスからの助っ人外国人を雇ったりという奇想天外な物語である。ネタに走った一本かと思いきや、万延元年とラグビーを組み合わせた描写は時代が符合するせいか内容に妙に真実味があり、前述の「ヤマザキ」と違い文体も歴史小説のそれである。雪を踏むぽっぽっという音や、切り捨てる、ずべらぼ、という擬音はセンスの塊でしかない。総じてどの短篇も面白く、筒井康隆の短篇を勧めるならまずはこの一冊であろう。

  • 「最後の喫煙者」読みたさに購入。購入後「夜のコント・冬のコント」既収録と分かった。悔しい。他短編は何度も既読だが、勢いで読んでしまった。「ヤマザキ」がやっぱり面白い。

  • ほんと久々の筒井ワールド。学生のとき以来か。
    相変わらずのシュールなストーリー。嫌いじゃないんだけど…。

  •  表題作をオーディオブックで聴いたり、ドラマで観たことがあったので、おもしろそうという期待の元に購入しました。

     この本は9つの短編からなる本で、そのうち「急流」、「問題外科」、「最後の喫煙者」、「平行世界」が朗読作品となっています(自分の知る限りでは)。
     少し話がそれますが、自分はそのうち「問題外科」以外の3つを先にオーディオブックや動画サイトで聴きました。どの朗読も大変良いもので、不思議と何回聴きかえしても飽きが来ません。自分も朗読のまねごとをやろうとするといかに難しいことなのかを実感し、作品世界を鮮やかに表現する技量の高さに驚かされました。「問題外科」はまだ朗読を聴いたことがないので、これをどのように表現するのだろうという関心が非常にあります。
     本が手に取りづらい方は、自分と同じように、興味があれば朗読作品から入るというのもいいかもしれません。

     この本の中で特に印象に残った作品は、朗読作品を除くと「ヤマザキ」と「万延元年のラグビー」でした。

     「ヤマザキ」について。
     本能寺の変で織田信長が亡くなり、その報せが羽柴秀吉の元へ届き、俗に言う「中国大返し」がどのように始まり、明智光秀との「山崎の戦い」へどう繋がったのかというもの。
     これだけ書くと誰もが真面目な時代小説かと思います。実際、途中までは全くもってその様な感じなので、何か読む作品を間違えたかな、とさえ思いました。
     ところが、途中から様子がおかしくなります。電話が出てきます。駅が出てきます。新幹線が出てきます。突然過ぎて読みながら「ええっ!?」と声を出してしまいました。そこからは前半の雰囲気と違い、笑いながら最後まで読みました。説明も何もなく物語はそのまま終わるのですが、後半からの怒涛の展開の馬鹿馬鹿しさのせいか、別にいいかと思えてしまいます。何か完全に「やられた」と思わされた作品でした。

     「万延元年のラグビー」について。
     桜田門で井伊直弼が浪士に遅われ、その首が奪われる。家臣は首がなければ面目が立たず、井伊直弼が亡くなったということも公表できない。そこでその部下に窃盗団を結成させ、首があると思われる場所から奪取させようとするのだが……。
     これも真面目な時代劇かと思われる前半と窃盗団を結成し、いざ盗み出そうとする後半のギャップにやられた作品です。
     窃盗団は何故かラグビーを用いて首を盗み出そうと決行の日までの間鍛錬を積みますが、上手くいかず、結局イギリス人を雇って窃盗団を結成します。いざ盗み出そうとすると相手もなかなかのラグビーの使い手で、上手くいかず首はあられもないことになっていきます。
     正直、ラグビーのことがわからないので用語が出てきても何のことかわからないのですが、それでも笑えてくる作品です。
     最後の「蛇足」と書かれた一連の文章は、映画「マグノリア」の冒頭部分を思い出させてくれました。

  •  ドタバタパニック短編集。狂っているし不条理だし何もかも終わっているのに、読む手を止められないのが筒井さんの作品の中毒性。どのお話も筒井さんの果てしない想像力から生まれたとんでもないフィクションであるのに、妙なリアリティーを感じ、現実とのリンクに気付かされることがあるのも、また病み付きになる原因だと思う。なんせ面白かったけれど、これからもこれを笑っていられる世の中であってほしいなぁ。

  • 「問題外科」を中学生くらいで立ち読みし、口あんぐりとはこのことと思った記憶がある。その後大学生くらいで物心ついた後に購入し愛読している。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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