花埋み (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101176017

作品紹介・あらすじ

学問好きの娘は家門の恥という風潮の根強かった明治初期、遠くけわしい医学の道を志す一人の女性がいた-日本最初の女医、荻野吟子。夫からうつされた業病を異性に診察される屈辱に耐えかねた彼女は、同じ苦しみにあえぐ女性を救うべく、さまざまの偏見と障害を乗りこえて医師の資格を得、社会運動にも参画した。血と汗にまみれ、必死に生きるその波瀾の生涯を克明に追う長編。

感想・レビュー・書評

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  • 20230924読了
    公美さんに借りる。
    荻原吟子さんの伝記的小説
    初・渡辺淳一でしたが、思ったよりずっと面白かった。なるほど、人気なわけだわ渡辺先生。

  •  この時代の男尊女卑の障害と虐めは想像を絶するもので、それらに対し計り知れぬ覚悟と時に敵意を持って立ち向かってゆく主人公に感銘を受けた。
    登場人物の心情描写、生きた時代は異なるのにその人生を見守っていたかのように愛をもって描いている著者を感じ、自分も近くでその景色を見ているような感覚になった。

     日本初の女医、荻野吟子の生涯を描いた小説。
    「読んでみろし」と父に渡され持ち帰ってきたけれど、難しそうでしばらく本棚に眠っていたもの。
    読み始めてすぐに引き込まれたのでした。

  • 二つの意味での驚きであった。一つは、失楽園の印象強い作者の人物像、印象が変わった事。一つは、日本で初めて女医師となった、荻野ぎんという人物、壮絶な人生。

    努力をしなければ、人は進めない。しかし、決断がなければ、人は立ち上がらない。立ち上がらなければ、当然、歩めない。また、歩みを邪魔する他人の価値観がある。ぎんは、立ち上がり、他人の価値観と戦い、歩んだのだ。

    男に運命を翻弄され、故に、一人で生きていく事を決断したぎん。だが、最後には、しかし今度は能動的に、自ら男の人生に連れ添うのだった。

    人の生き方は多様。また、何が良かったかも、人それぞれである。そんな教唆も得られる、読むべき一冊ではないだろうか。

  • 女性に社会的地位のなかった明治初頭に日本初の女医となった荻野吟子の生涯を描いた一冊。
    女が勉学を積み医者になるなど何事かと一掃した当時の閉鎖的な空気が恐ろしい。
    晩年にキリスト教に傾倒し、夫と共に信者の理想郷を建設すべく北海道開拓に乗り出したときに味わった艱難辛苦、この描写が寂寥感溢れるものでまた素晴らしい。
    傑作『阿寒に果つ』でも見せつけられた淡々としていて且つ鋭く重い文体がここでも存分に活かされている。
    やっぱり渡辺淳一の文章は知的で無駄がなくて大好きだわ。

  • 日本で初めての女医である荻野吟子の伝記的なお話だった。明治のまだ女性蔑視の時代、医者になるということがどれほど大変だったかがわかる。なんでも最初にやるというのは大変だ。それをやり遂げた意志の強さに感心した。やがて彼女は医者だけの力ではどうしようもないことがあることを知る。病気を治すには周りの人の協力も必要なのだ。そこにたどり着いて彼女はキリスト教を信仰するようになり、夫となる志方と出会う。彼に出会うことが彼女の人生をがらりと変えてしまう。東京での医師としての名声も仕事も捨て、北海道に行くがそこでの10年の間に医学は進歩しもはや自分の知識と技術は古いものであると知りショックを受ける。志方と結婚したことは彼女にとって良かったのか。愛する人を得たことは良かったのだと思いたい。彼女の残した功績は忘れられることはない。人生は人との出会いで変わるものだと感じざるをえない。

  • 初婚相手にうつされた膿淋がはじまりだった。
    男医者に恥部を見せる屈辱が忘れられず、女は医者を志す。

    荻野ぎん、のちの荻野吟子という日本人女性初の医者が誕生するまでと、それからを描いた長編。
    家族の反対を押しきり
    師匠のプロポーズを断り
    男性だけの学校で執拗な嫌がらせを受けたり
    彼女が挫折する要因はその人生の中で幾度も幾度もあった。
    しかし、彼女は医者になる。

    「男から受ける側の女である性」と立ち向かいながら、彼女は女である私たちに励ましをくれる。

  • 「常識や風習にとらわれず、新たな道を切り拓く人たちがいる。後世からは英雄に見えるが、同時代の人からは後ろ指をさされたり、好奇の目で見られたり、あからさまな妨害にあったりする。「花埋み」は近代日本初の女性医師、荻野吟子(おぎのぎんこ)(1851~1913)が主事能。差別や生涯を乗り越えるために、努力を積み重ねた人だ。」
    「16歳の時に豪農の家に嫁ぐが、淋疾(りんしつ)という性病を夫にうつされてしまい、離縁されてしまう。入院した東京の病院では、診察の際、医師だけでなく、若い医学生たちにも下半身をさらすはめになり、強いショックを受ける。「女医者がいれば私と同じように羞恥で苦しんでいる多くの女性が救われるのではないか。」退院後、医師になるため道なき道を突き進む。ー勇気にあふれ、波乱に満ちた生涯である。」
    (『いつか君に出会ってほしい本』田村文著の紹介より)

  • 自分が女医なのでいつか読もうと思っていたがやっと読むことができた。いろいろ共感できるところもあり、辛いことに耐えながらもはじめての女医者になれたのがすごい。とてつもなく辛かったことと思う。この方がいなかったら今の自分がないと思うと感慨深いものがあった。

  • 日本初の女医。荻野吟子の半生を特に女医になるまでの記述は、かなり熱量もあり良かった。なんだか立志編という感じで著者も書きやすかったのではないかと思った。その反面、その後の話は、なんとなく書きにくかったのか、断片的で熱量も低い。

  • 主人公が置かれている状況って、今の中東諸国の女性たちに似ているのではないだろうか。女性だというだけで、学問も職業も発言も制限された時代。今のようにどんな職業でも女性が挑戦できるようになるためには、彼女のような人が正面から困難と向き合ってくれたからこそなんだとわかった。
    それにしても好寿院で学んでいるときの男子学生の嫌がらせといったら、本当に低俗であきれてしまう。人としてどうなの?って思ってしまう。まあ、時代背景もあるとはいえ、ひどすぎる!
    どこかのレビューにも書いてあったけど、無駄のない文章で読みやすく引き込まれた。吟子が最後に13歳年下の志方と結婚し、北海道で生涯を終えたことには賛否あるようだけど吟子が自分で選んだ道なのだからいいんじゃない?と私は思います。

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著者プロフィール

1933年北海道生まれ。札幌医科大学卒。1970年『光と影』で直木賞。80年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で吉川英治文学賞受賞。2003年には菊池寛賞を受賞。著書は『失楽園』『鈍感力』など多数。2014年没。

「2021年 『いのちを守る 医療時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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