愛の年代記 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181011

感想・レビュー・書評

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  • イタリアの中世末期からルネサンスにかけて、激しく美しく恋に身をこがした女たちの愛のかたちです。成就した恋、秘めた恋、破滅へと向かう恋、そして破れた恋…どの恋もドラマティックです。
    政略結婚が当たり前の時代。女には愛する人と結ばれることは難しかったのでしょう。若さと美しさを持つ自分よりもかなり年上の夫は、他の女と浮気をしたり、仕事に没頭して帰ってこなかったり。そんな虚しい心の隙間を女たちは何で埋めるのか……それは、やはり恋になるのでしょうね。
    夫のいる身で恋に堕ちる女に待ち受けるもの、それは死。そんな時代だととわかっているはずなのに、女は自分を愛してくれる男を求めてしまうのです。

    ある物語では、妻の不貞を冷めた目で暴き、それはそれは恐ろしく残酷な復讐を妻とその相手となった家来に行う伯爵がいます。
    それは妻への愛情から噴き出てしまった嫉妬や怒り、悲しみからなのか?うーん、わたしにはそうは見えませんでした。夫の目には、妻は虫螻同然の汚らわしい女の姿にしか見えないようでした。

    また、嫁いだ先の義理の息子に恋する女の物語でも待っているものは死でした。
    18歳の若鹿のように美しく静かな男に恋心を吐露したのは父親の幼妻です。彼女は男より1歳だけ年上。そう、義母と義息子の恋物語です。きっと、男も父親から母親となる女を紹介されたとき一目惚れしたんじゃないのかと思うんです。だから、危ない危ない、近づかないでおこうと女に一線引いていたように思います。でも、女にとってはそれが嫌われているようで悲しい。もしかしたら心の奥底には、自分の魅力になびかない義息子が気になって仕方ないって想いもあったのかもしれません。そんな息子を目で追ううちに、義母は彼への恋心を抑えられなくなりました。ついに艶やかな色気を漂わせる美しい義母の涙と抱擁にクラリと来てしまった義息子。でもね、来ない方が驚きかもしれませんね。これはね、仕方ないですよ……と思ってしまうわたしです。19才の女と18才の男は恋に堕ちました。
    そして父親にバレてしまった息子は黙って罪を認め死を受け入れました。なんだかね、この息子には同情してしまいました。とても良い子だったんですもの。ほんとにね、もうね、恋とは怖ろしいものですよ。

    まさに命をかけて恋をする時代。
    だからといって、こんな欲望にまみれた恋ばかりではありません。時代に翻弄されながらも、ロマンティックで一途な恋もあるのです。

    わたしが一番お気に入りとなった物語。それは、海賊と身代わり王女となった伯爵夫人の物語。なんだか某少女小説文庫のタイトルのようになってしまいましたが 笑
    王女の身代わりとして、一度出会っただけの海賊に恋してしまった伯爵夫人。その恋心を秘めながら彼からのプレゼントを大切に生涯を過ごした夫人です。海賊の男も彼女のことを気にしていたようなのだけれど、その後一度も会うことなく、どんどん出世しながら生涯を終えます。2人の間を宗教や戦争など時代のうねりが隔てていて、この時代ならではの恋のお話だなと思うのです。想像がどんどん膨らむ素敵なお話でした。

    他にも、初の女法王となった女の人生の軌跡には、この時代に女でこれだけ道を開いていったことに脱帽しました。
    また大公の愛人から后となった女性のスキャンダラスな人生は、世間の人々を嫉妬や妬みをひっくるめて楽しませたんだろうなと思いました。あ、こんなお話、現代でもありますよね。

  • 久々に塩野七生を読みたくなって、手に取った1冊。中世ルネッサンス期近辺のヨーロッパ(主としてイタリア半島の都市国家)を舞台に、愛に翻弄され、愛を持って翻弄した女性たちの物語である。

    恋愛沙汰ってのは、もうどうしようもない。惚れた腫れたの話になると理性やら理屈は吹っ飛びがち。それでもまあ、渦中の人たちは仕方ないとして、そこに、関係ない人が善意や損得勘定やもろもろから下手に関わると、大概ろくでもない(あるいは実にくだらない)結果に終わる。

    部活やサークル活動、SNSやら、社内恋愛であれば、まぁまぁくだらなくても取り返しもつきやすい。芸能界やらであれば話題になっても1年もたてば禊もすむ。
    ところが、歴史を動かしたり、国家存亡の危機になったりするから、恋愛沙汰もあなどれない。

    額田王をめぐる兄弟の話
    傾国の美女楊貴妃…
    史上エラいことになってしまった恋愛沙汰って結構転がってる。

    この本に出てくる話は史実のはざまに埋もれてしまったような、西洋史裏話(ゴジップ)みたいなものなのだが、塩野マジックにかかると、なんとも味わいのある物語になるねんなぁ。ちょっとした落とし噺風もあり、ホラーもあり、王道の大河恋愛風もあり。

    1970年代に初刊行された本だからずいぶん古い本、ひょっとしたら最近の人にとっては古典であってもエエような本かも知れないが、今読んでも古さをあまり感じないのは、歴史を扱っているからや、俺がじじいだから…だけではないと思う。
    人類不変の一大テーマを扱っていることと、塩野七生の筆の冴えが不変であることもきっと大きいんだと思う。

  • かくも激しく美しく恋に身をこがし、生きて愛して死んだ女たち――歴史資料の片隅に、わずかに残されたその華麗な生の証しをもとに、欲望・権謀の渦巻くイタリアの中世末期からルネサンスにかけて、《恋の歓び、哀しみ、憤り》など、さまざまな愛のかたちを抽出する。『大公妃ビアンカ・カペッロの回想録』『ドン・ジュリオの悲劇』など、胸ときめく恋の物語9編を収録。


    「ルネサンスの女たち」よりも少し前の時期が舞台かな。
    当時、女性が愛に生きることはほぼ不可能であり、愛を貫くことによる代償がとてつもなく大きかった時代の、愛の短編集。
    この作品の中で、「大公妃ビアンカ・カペッロの回想録」と「女法王ジョヴァンナ」が特に印象深い。
    対極のような生き方でありながら、ともに死後はほぼ歴史から葬り去られているような感じである。

    いつの世も"愛"は難しいものなのかもしれない。

  • イタリア滞在中に読んだので情景がより目に浮かんで楽しかった。切ない話も多かったが、何よりもイタリアの文化的豊かさは圧倒的だと感じた。

    解説?は気に入らん。ロミジュリを例に出して「男は何かを成し遂げる必要があるが、女は恋だけでも生きていける」とかなんとかほざいてるけど、教養があっても女という理由で活躍の場が圧倒的に制限されていたり、不当な扱いを受けたりしていたという事実を無視して「女は恋だけで生きていける」って何様だよ。最後の女教皇ジョヴァンナが記録から抹消されたのだってそういうことだろ。だいたいジュリエットだって家のために親の決めた相手と結婚させられるという家父長制に反対したせいでああいう結末を迎えたんだろうが。
    解説に関しては「お前何を読んでたん?」みたいな解像度の低さだった。

  • 「ビアンカ・カペッロの回想録」がお目当てだったが、他の短篇も中世イタリアの雰囲気を良く伝えてくれてた。
    しかしビアンカのお相手の「フランチェスコ」って、天正遣欧少年使節の時代のトスカーナ大公!もしかするとビアンカも、伊藤マンショとワルツを踊ったりしたのかも~(笑)更に、フランチェスコの(正妻の)娘がマリー・ド・メディシス。ルイ13世の母后として君臨したけど、浮気な父親のせいで寂しい幼少期を送ったのかもしれない。

  • いつまでたってもヨーロッパの歴史が覚えられない。なんとか帝国や王国、なんとか二世三世というだけで拒絶反応を起こしてしまいがちだが、塩野さんの小説だけは、どんなに馴染みのない国名でも人名でも、スラスラ読めてしまう。

  • 新潮文庫 し−12−1
    NO1になっていますが、ずっと後に買って読みました。

  • ルネサンスを中心とするイタリア史のなかで、歴史の現実に翻弄されながらもそれぞれのしかたで愛をつらぬいた9人の女性たちのすがたをえがいている作品です。

    女法王ジョヴァンナと呼ばれる人物の生涯をたどった章のなかで、「アーロン収容所あたりで日本人捕虜を動物以下にあつかったイギリス人のことを知ったら、中世の人々とて、さて歴史の進歩とはなにかと、頭をかしげるにちがいない」ということばが見られますが、いうまでもなくここで言及されているのはイタリア・ルネサンスの研究者であり『アーロン収容所』(中公文庫)の著者である会田雄次のことです。本書は女性たちに焦点をあてた作品ですが、歴史の冷徹な事実のなかでこそ彼女たちの生涯の輝きを語る著者のスタンスには、会田の歴史観および人間観に通じるものがあるように感じられます。

  • 中世末期からルネサンス期のイタリアを中心に、愛に生きた女性たちの物語。
    現代のように自由恋愛が当たり前でない社会にとって、愛することは簡単に命がけの行為になり得た。
    若い愛人を行李に閉じ込めて道連れにしようとしたり、男装して逃避行したり、高貴な貴婦人が羞恥プレイにはまったり。
    そんな愛憎を見て、感情的に嫌悪し、憐れみを持って理解するけれど、明日には私もそんな一員になり得るかもしれない。なんてね。

  • 背景はイタリア 愛憎物語
    暗い 重い 深い しかし、面白い
    ”フィリッポ伯の復讐” が一番心象に残る
    最後の一文を読んだとき思わず悲鳴をあげてしまった
    この話は読み手の胆と場所を選ぶ 

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