レパントの海戦 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181059

感想・レビュー・書評

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  • 『コンスタンティノープルの陥落』『ロードス島攻防記』(ともに新潮文庫)につづく三部作の最終巻です。

    地中海を支配しつつあるオスマン帝国に対して、ヴェネツィア共和国を中心とする西洋諸国が戦いをいどみ勝利するも、その後の政治的な駆け引きにおいてなおも苦慮する立場に立たされる当事者たちの姿をえがいています。

    司馬遼太郎の『坂の上の雲』に比較すると分量的にはかなり小さな作品ですが、東西文明の大きな潮流のなかで転換点をなす海戦を、何人かの登場人物の眼を通しつつも大きな視野のもとでえがききった作品だという点に、共通するところがあるように感じました。

  • 4/30
    斜陽のヴェネツィアを生きる人々がいかに外交、軍事をつかってレパントの海戦を戦ったのか。
    ヴェネツィア共和国が東地中海の主要な港を占拠し、海路を抑え、繁栄したさまを想像させる。共和国を支えた造船テクノロジー、元老院と十人委員会の政体、運河に支えられた文化も丹念に描かれている。

  • 資料を並べて西暦や人物や数字をとつきつけるのではなくて、その時代に確かに生きていた人として、親し気に人物像や服飾や土地に育む季節や文化などを織り込んでいくように書かれる塩野七生の文章が好きです。本文中に血を流さない戦争、血を流す戦争という名言がでてくるのですが、こうして三部作を通して読んでみると、教科書で暗記しただけの過去に起こった歴史の一片というようりは、今こうしているうちにも世界中でまきおこる血を流さない戦争と血を流す政治の多さに眩暈を感じつつ、この国の政治と外交はどうかとおもいはからずにはいらません

  • ヴェネツィア、スペインを中心にたくさんの国が集まって、イスラムのトルコに挑むのですが、なかなかまとまりません。
    しかしキプロスでのトルコの残虐な行為の知らせに、誰もが復讐を誓う。
    私もはらわたが煮えくり返りました。
    共通の敵は団結をもたらすものですね。

    でも、それもどんなものか、と思う自分も確かにいます。
    「憎しみの連鎖は断ち切らなければいけないのではないか」と。

    トルコが敗れた後、結局勝った国々もまとまらず、ヴェネツィアはトルコに対してかなり妥協して、『血を流さない戦争』を選択します。
    もやもやするけど、うーん、それで良かったのかもしれない。

  • 後半の海戦だけでなく、前半の「血を流さない戦争」も面白い。ヴェネツィア外交官たちに課せられた任務の重圧もさることながら、その上をいく彼らの老獪さはまさに海千山千。海戦シーンは実際の戦闘時間に比例して短いがスピード感があり、目まぐるしく戦況が変化していく様が感じ取れる。

  • 20170616

  • 塩野七生の「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」三部作の最後の一つ。
    強大なトルコがキプロスを攻略して我が物とし、その後クレタ島を攻略してクレタ島は陥落寸前であった。トルコは東地中海の覇権を確保しつつあり、ベネチアは支配地域だったキプロスを失い、その上クレタまで失い、海洋通商国家としてトルコと通商関係を破棄ししてでも対決せざるを得ない状況にあった。
    しかし、東の超大国トルコに対してヨーロッパの結束は心許ない状況であり、ローマ法王の権威は低くヨーロッパ各国が領土争いをしていたため、ローマ法王が対トルコの十字軍をなかなか結成できない状態だった。そういった中で、ベネチアが対イスラムの十字軍としてヨーロッパ各国をまとめ、トルコと対決するのは並大抵の努力ではなかった。
    そのベネチア外交によるヨーロッパ各国の政治的駆け引き、そして決戦となるレパントの海戦がベネチアの男たちの活躍を通じて描かれている。
    手こぎのガレー船が主体であった時代に、ベネチアの最新兵器である浮かぶ砲台とも言える重装備船からの砲撃はベネチアの海軍力の技術力と強さを見せつける。
    結果的にガレー船による最後の大海戦となったレパントの海戦は、ヨーロッパ・キリスト教国連合艦隊の勝利に終わり、超大国トルコが負けるという歴史的転換点になる。特に負けることがなかった超大国トルコが負けたと言うことの精神的な側面は大きかったようである。
    戦闘もさることながら、外交交渉も興味深い。ベネチアの外交官がトルコからの帰国報告で、「相手にどう思われているかよく考え、相手が強大だからといっても怯むことなく相手の弱点を突き、毅然とした態度を取ること。そして、こちらの強みを生かして、なめられないように交渉するということが重要である。しかしながら対トルコ外交は穏便に済まそうとして外交交渉が不十分であったために、トルコに野心を抱かせ領土拡張を許してしまった。」と述べている。
    何とも現代の日本が二重写しとなり、時と場所は違えども何も変わりがないように思える。

  •  『海の都の物語』シリーズの続きであり、ヴェネツィア共和国の衰退の一歩を描く海戦シリーズの最終巻。どのシリーズでもそうであったがヴェネツィア共和国の人たちの祖国愛の深さに感嘆されるばかりであった。イタリア本国や島々で活躍する人、コンスタンティノープルに残りトルコ相手に交渉する人、教皇を説得する人と様々な人々の模様を描きながら海戦本番に載せていく構成は流石であり、とても面白かった。

     一度は失敗していても、次には成功させる。そのような粘り強い外交がヴェネツィア共和国繁栄の一因であったのであろう。そんな共和国がこの戦の後に衰退の一途をたどっていったというのは信じられないが、歴史であり国家というのはそういうものなのであろう。

  • 面白い。が、ローマ人の物語、十字軍に比べて数段劣る。地名がかなり頻出するが地図も巻末にしかなく、海戦も図を使えばより面白みが高まるのにもったいない。

  • 神聖同盟連合艦隊はトルコを打ち破った。これを期に地中海から西欧大国へと歴史が転換していく。ヴェネツィアは海戦の勝利後にトルコとの講和。引き換えに、70年余りの平和を手にする。コンスタンティノープル駐在大使の帰国報告にある「他国に対する毅然とした態度」が海戦後欠けてしまった。平和は戦と戦の隙間にあるものと、どこかで読んだ事があるが、ヴェネツィア国家のその後の衰退をみると、歴史はその繰り返しなのか。フローラは作中での海戦がもたらした平和の象徴として余韻が。『ドン・キホーテ』著者セルバンテスも参戦していた。

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