サロメの乳母の話 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.47
  • (34)
  • (50)
  • (112)
  • (16)
  • (1)
本棚登録 : 520
感想 : 51
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181110

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み

  •  物語や歴史上の有名な人物について、その周りにいた人間が、実はこうだった、自分にはこう見えたと語る形式の短い諸編を集めたもの。

     対象人物と語り手は、オデュセウスの妻ペネロペ、サロメの乳母、ダンテの妻ジェンマ・ドナーティ、聖フランチェスコの母、ユダの母について、ユダを教えた祭司、カリグラ帝の馬、アレクサンダー大王の奴隷、カエサルを暗殺したブルータスの師、キリストの弟、ネロ皇帝の双子の兄。
     いずれもあるところまでは史実や物語の筋に則っているので歴史の勉強にもなるし、他人から見るとそう見えるのもさもありなんと思われるところもあり、軽い読み物として面白く読める。

     ラストの「饗宴・地獄篇」は、地獄で楽しく暮らす世間的には悪女と呼ばれた女性たち、クレオパトラやマリー・アントワネット、ソクラテスの妻クサンチッペなどの宴でのやり取りが描かれる。本書が書かれた時代柄、中国からは江青女史が参加。では日本では彼女たちに匹敵する女性は誰?、持統天皇?北条政子?淀君?最後のオチもご愛嬌か。

  • 神話や歴史の逸話の人物たちの周りの人が、その時の話をする形で、それぞれの語る人ごとに話が形成されていく。
    完全にタイトル買いをした作品だったが、地獄会議以外はかなり面白く感じた。特に神話逸話の中で待たされることの多い妻や、タイトル作品である乳母など、主人公に近いが主人公ではない人間が語るその世界は、もとの世界の解像度をあげ、より人間的なものにするものだなと思う。

  • オデュッセウスの妻、サロメの乳母、聖フランチェスコの母…歴史上の英雄・偉人たちの周辺人物が語る舞台の裏側。

    ワイルドの『サロメ』を最近読んだのをきっかけに表題作に惹かれて。どの章も20ページ程で、原作を読んだ後に本作を読むとイメージが付きやすいです。
    オデュッセウス編では、妻のぼやきにも似た語り口調は軽快で、あくの強すぎる原作の主役を思い起こせばこんな想いも抱えるだろうと想像できます。狂気が注目されがちなサロメも、乳母の目から見ると賢い女性像が浮かびます。また、舞の描写は見事でした。最後の「饗宴・地獄篇」は、まぁ著者の悪ノリみたいなものでしょうか(笑)

    イメージが固まりがちな名主役たちも、塩野七生さんの想像力にかかれば知られざる新鮮な一面が見えてきます。原作のスピンオフ的に、気軽に楽しめる1冊。

  • オチが秀逸。

  • イエスやユダ、アッシジのフランチェスコ、サロメ、ネロ帝など、有名な歴史上の人物の伝聞を「ほんとうはこうだったんじゃないか?」といろんな視点で語る物語です。
    真面目な話もあり、思わず笑っちゃうような展開もあり…
    ユダの母親の話が一番面白かったです。

  • 20180515

  • 「饗宴・地獄篇」は第一夜、第二夜共おもしろかった 
    が、いくら読んでも他の作品が全く印象に残らない 
    もう少し大人になればおもしろさがわかるのか、、??

  • 蠱惑的な踊りの対価に預言者の首を求めた王女サロメ、覇者として大いなる国を統べたアレクサンドロス大王、暴君として悪名高いネロ皇帝・・・。
    聖書や神話や伝説に登場する有名人たちの生涯について、彼ら・彼女らの傍らにいた人物(一遍は語り手が馬)が「実は・・・」と語る「伝説上の人物の本当の素顔」を描いたパロディ的な短編集だ。
    自分でも元ネタを知っているような著名なキャラクターたちが勢ぞろいし、よくまあこんなひねくれたこと考えたなぁと呆れて笑いたくなるようなうまい「裏話」が軽妙に語られていて面白い。
    最後の歴代の悪女が地獄で会合をもつ2編のオチはご愛敬だろうか。

  • 目次より
    ・貞女の言い分
    ・サロメの乳母の話
    ・ダンテの妻の嘆き
    ・聖フランチェスコの母
    ・ユダの母親
    ・カリグラ帝の馬
    ・大王の奴隷の話
    ・師から見たブルータス
    ・キリストの弟
    ・ネロ皇帝の双子の兄
    ・饗宴・地獄篇 第一夜
    ・饗宴・地獄篇 第二夜

    歴史上の有名人を、違った視点から掘り下げる。
    なんとなく功績を知ってはいるけれど、詳しくは知らない。そんな人物の選定がすばらしい。

    なかでも「サロメの乳母の話」が白眉。
    素晴らしい踊りを披露したご褒美に、若く有名な預言者ヨハネの首を所望したサロメ。
    それは、恋い慕う彼女の気持ちをヨハネが受けとめようとしなかったから…というのは、オスカー・ワイルドの戯曲の話。

    多くの画家がサロメを題材にした絵を描いているけれど、衝撃的なそのシーンは実に冷静な政治的判断のものに行われたものであるというのが、塩野七生の解釈。
    「善意に満ちていて、しかも行いの清らかな人が、過激な世改めを考え説くほど危険なことはないと思うけれど、乳母はどう思う?」
    サロメの行動がいちいちクールでロックなの。格好いいわ。

    「饗宴・地獄篇」は、地獄に落ちた女ども(クレオパトラ、ビザンチン帝国の皇后テオドラ、トロイのヘレン、ソクラテス夫人のクサンチッペ、マリー・アントワネット)が、繰り広げる女子会トーク。
    第一夜は毛沢東婦人・江青をゲストに招いての夜会。
    第二夜はゲストを日本から呼ぼうと思ったけれど、意外と悪女がいないのね…と結論付けようとした時、地上の方から推薦人の声が…!

    地獄がまた楽しそうなのです。実際楽しいらしいです。
    地獄の恐ろしげな描写は、天国サイドの陰謀らしいですよ。

    “また、地獄に送られてきた顔ぶれが面白かった。だから、女たちにしてみれば、交き合う男たちにも恵まれていて、天国の住人のように、立派かもしれないが面白くもおかしくもない、まじめ人間の集団ではない。それに、天国は、住む人間だけが退屈なのではなく、一年中気候温暖でも四季の区別がないから、その点でも、一週間もいれば、頭がボケてしまいそうな思いになるのだった。”
    天国、すごい言われようです。

    地獄にはいい人たちもたくさんいます。
    “女王に仕える奴隷たちの中には、天国に送られる資格充分な者が多かったが、天国と地獄を分けたのはキリスト教だから、それが普及する以前に現世で生を送った者は皆地獄行きなので、これら古代世界の善男善女たちも、地獄まで女王に従いてきたというわけである。だが、想像した以上に過ごしやすいので、誰一人、煉獄での試練を経た後に許される、天国行きを希望した者はいない。”

    塩野さん、こんなに書いちゃっていいのでしょうか?
    地獄に落とされちゃうんじゃないかしら?
    あ、望むところなのか。

  • 歴史の人物をちょっと違った目線から読めて面白い短編集
    特にユダの母親とキリストの弟が面白かったなあ
    ユダの話は太宰の駆け込み訴えをちょっと連想させる

    永井路子も書いてたけど、悪妻悪妻のレベルが日本は小さくまとまっちゃってる!
    クレオパトラとかアグリッピナとかカテリーナスフォルツァレベルの女性陣は、日本の歴史上いないかも

全51件中 1 - 10件を表示

塩野七生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×