海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 5 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181363

感想・レビュー・書評

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  • 大航海時代の中のヴェネチア共和国。

  • 【本の内容】
    <1>
    ローマ帝国滅亡後、他国の侵略も絶えないイタリア半島にあって、一千年もの長きにわたり、自由と独立を守り続けたヴェネツィア共和国。

    外交と貿易、そして軍事力を巧みに駆使し、徹底して共同体の利益を追求した稀有なるリアリスト集団はいかにして誕生したのか。

    ヴェネツィア共和国の壮大な興亡史が今、幕を開ける。

    「ルネサンス著作集」中の大作、待望の文庫化、全六冊。

    <2>
    ヴェネツィア共和国は十字軍の熱狂に乗じて東地中海に定期航路を確立し、貿易国としての地歩固めに成功。

    異教徒との通商を禁じるローマ法王を出し抜き、独自の経済技術や情報網を駆使して、東方との交易市場に強烈な存在感を示した。

    宗教の排除と政治のプロの育成に重点をおき、強力な統治能力を発揮した内政にも裏打ちされた「ヴェネツィア株式会社」の真髄を描き出す。

    <3>
    東方との通商に乗り出し、地中海の制海権を握ろうとしたのは、ヴェネツィアだけではなかった。

    アマルフィやピサといった海洋都市国家が次々と現れ、なかでも最強のライヴァル、ジェノヴァとの争いは苛烈を極めた。

    ヴェネツィア共和国は、個人主義的で天才型のジェノヴァの船乗りたちといかにして戦ったのか。

    群雄割拠の時代を生き抜くヴェネツィア人の苦闘の物語。

    <4>
    1453年、トルコ帝国がコンスタンティノープルを攻め落とし、ビザンチン帝国が滅亡。

    東地中海の勢力図は一変した。

    東方での貿易を最大の糧とするヴェネツィアはこの状況にどう対応したのか。

    強大な軍事力を誇り、さらに西へと勢力を広げようとするトルコ帝国との息を呑む攻防、そしてある官吏の記録をもとに、ヴェネツィアの新興ビジネスである観光事業、聖地巡礼旅行を活写する。

    <5>
    十五世紀末、ポルトガルがインドへの新航路を発見という、中世の一大ニュースがヨーロッパ中を駆け巡る。

    トルコ帝国との攻防も続く中、スペインに代表される君主制国家も台頭。

    ヴェネツィアは統治能力の向上による対抗を図るも、「持たぬ者の悲哀」を味わうことになる。
    地中海から大西洋へ。

    海洋都市国家から領土型封建国家へ。

    新時代の幕開けはすぐそこまで迫っていた。

    <6>
    ヴェネツィア共和国はトルコ帝国との争いで、交易拠点を次々に失い始める。

    海外交易市場の主導権もイギリス、オランダに譲り、衰退の兆しは誰の目にも明らかだった。

    そしてフランス革命に端を発したヨーロッパ世界の動乱。

    ナポレオン率いるフランス軍の圧力を前にして、かつて「地中海の女王」とさえ呼ばれたヴェネツィア共和国の命運は尽きつつあった…。

    歴史大作の完結編。

    [ 目次 ]
    <1>
    第1話 ヴェネツィア誕生(蛮族から逃れて;迎え撃つ;聖マルコ;海の上の都;運河;地盤づくり;広場;井戸;国づくり)
    第2話 海へ!(海賊退治;海の高速道路;海との結婚式;交易商品;ヴェネツィアの船;帆船;ガレー船;東方への進出)
    第3話 第四次十字軍(エンリコ・ダンドロ;契約;ヴェネツィアへ;コンスタンティノープル;コンスタンティノープル攻城戦;落城;ラテン帝国;ヴェネツィアが得た“リターン”)

    <2>
    第4話 ヴェニスの商人(交易商人(その一)
    資金の集め方
    交易市場
    マルコ・ポーロだけではない
    定期航路の確立
    海上法
    羅針盤と航海図
    船の変化
    中世の“シティ”
    交易商人(そのニ))
    第5話 政治の技術(共和政維持の苦労;政教分離;政治改革;クィリーニ・ティエポロの乱;「十人委員会」;元首ファリエルの乱;政治と行政)

    <3>
    第6話 ライヴァル、ジェノヴァ(海の共和国;アマルフィ;ピサ;ジェノヴァ;ジェノヴァの商人;ジェノヴァ対ヴェネツィア;ヴェネツィアの二人の男;キオッジアの戦い)
    第7話 ヴェネツィアの女

    <4>
    第8話 宿敵トルコ(トルコ帝国;「本土」;マホメッド二世;コンスタンティノープルへ;ビザンチン滅亡 ほか)
    第9話 聖地巡礼パック旅行(まず、ヴェネツィアへ;ヴェネツィア滞在;旅立ち;イェルサレム;聖地巡礼 ほか)

    <5>
    第10話 大航海時代の挑戦(胡椒ショック;航海者たち;危機;巻き返し;通商と産業と ほか)
    第11話 二大帝国の谷間で(都市国家から領土国家へ;統治能力の向上を期して;ヴェネツィアの光と影;元首グリッティ;その息子 ほか)

    <6>
    第12話 地中海最後の砦(法王庁に抗して;クレタ攻防戦)
    第13話 ヴィヴァルディの世紀
    第14話 ヴェネツィアの死

    [ POP ]
    帯に〈『ローマ人の物語』に並ぶ代表作〉とある。

    著者が30年近く前に発表した、「地中海の女王」ヴェネツィア共和国の興亡史が、新潮文庫から全6巻で刊行された。

    1981年度のサントリー学芸賞受賞作だ。

    ローマ帝国滅亡後、他国の侵略も絶えないイタリア半島にあって、ヴェネツィア共和国は1000年もの長きにわたり、自由と独立を守り続けた。

    それはいかに可能だったのか。

    彼らの信条は、「はじめに、商売ありき」。

    経済的に成り立つことを第一目的に、外交と軍事力を巧みに駆使して、強力な共同体を作り上げた。

    「ヴェネツィア株式会社」ともいわれる経済大国の栄枯盛衰を、著者は膨大な資料を読み込み、時にはモーターボートを借り切って沼沢地帯の潟を体感した上で、生き生きと描き出した。

    3巻には、渡辺靖氏、6巻には、池内恵氏が解説を寄せた。

    気鋭の研究者による塩野史観評も、読み応えがある。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  「はじめに、商売ありき」の合理的な考え方をもっている、ヴェネツィア共和国の1000年に及ぶ歴史について描かれた本。初めに描かれていた第4次十字軍の話はとっても面白かった。自分たちの利益を最大限になるように考えつつ、大国の力をうまく利用していくところがとても面白かった。

     海洋都市であった4国家の比較も面白かった。これにより、ヴェネツィアの異質性がよくわかった。また、ジェノヴァとの戦いは熱いものをかんじた。ヴェネツィアの政治制度であるドージェや十人委員会および国会による権力分立制度はとっても素晴らしいものであり、日本も見習うべきだとは思ったが、この制度が維持できたのはヴェネツィア人の性格があってこそだろう。なぜならば、今の日本の政治家では、このヴェネツィアの方々のように国を想う気持ちはほとんどないだろうから。

     さらに、ヴェネツィアの商魂には驚かされた。トルコとの戦いでの大損を取り返そうと和平条約を締結した際にすぐ大使をコンスタンティノープルに派遣し、そのつなぎに捕虜となっていたヴェネツィア人を使うところもさすがだと感じた。このようにチャンスを逃さない姿勢が1000年繁栄できた要因なんだろう。

     この後、経済的発展に伴って、政治的・文化的に成熟していき、衰退していく。という人の一生だったら充実してやまないような一生だろう。奢れるものというより、平和でありすぎた故の外交感覚のマヒ。今の日本を見ているような気もした。

  • 「人口」という問題で劣勢に立たされるようになってしまったヴェネツィアの苦闘がひしひしと伝わってきて引き込まれました。

  • 大航海時代とヨーロッパの君主国台頭の始まりに対するヴェネチィア共和国の生き方が描かれている。
    質の高い統治と外交、そして交易を武器に、地中海の強国として君臨してきたヴェネチアが、質より量で圧倒してくる他国の前に、徐々にその支配力を失いつつも、したたかにいくつもの新たな武器を用いて地中海世界での位置を確保する姿が描かれている。

    国土が狭く、資源が無く、周りを強国に囲まれ、自分達の武器を失いつつあっても、自分達に有利な形で物事をすすめていく姿はとても刺激になる。

  • 国家の伝記。感想は6で。

  • 強敵であった新興国トルコとの講和がなった。しかし、新たな試練が
    ヴェネツィアを襲う。

    ポルトガルがインドへの新航路を発見したことから、大航海時代の
    幕開となる。

    そして、バスコ・ダ・ガマがインドから胡椒を持ち帰る。貨幣と同等の
    価値のある香味料は、ヴェネツィアの交易品の大部分を占める。

    新たな航路の開拓で、香味料の価格が暴落するかも知れぬ。

    「胡椒ショック」。中世にもこんな経済危機があったのだ。

    干潟に作られた国には、これといった産業もない。交易で生きるしか
    ないヴェネツィアにとっては国の基盤である経済が崩壊しかねない
    状況だ。

    さぁ、どうするヴェネツィア。

    したたかに危機を乗り越えて来たこの国は、新たな手を考えた。

    時代の波は地中海から大西洋へ向かっている。これまでのように交易
    だけに重点を置いていては生き残れない。

    そこで経済基盤の転換を目論む。

    勿論、交易も続ける。しかし、力を入れたのは国内での手工業と
    領有地での農作物の生産だった。

    織物をはじめとする手工業は量よりも質を重視し、安定した高い品質を
    保つ。経済危機を乗り越えるみごとなスライドだ。

    だが、崩壊の足音はひたひたと迫っていたんだよね。

  • 君主制国家の台頭、覇権争いに巻き込まれる共和制国家ヴェネツィアの苦悩が書かれた巻です。
    トルコ、スペイン、フランス、そして教皇の間で破滅と紙一重の舵取りをしながら歴史の海を渡る姿に国家の盛衰を感じました。

  •  なぜ繁栄を続けたヴェネツィアが落日に向うのか? アジア貿易のルートを軍事力(アフリカルート)で抑えようとしたポルトガルには、直接対決でなく、経済の多角化による国力充実で対抗。膨張の意図を隠さないトルコに対しては、キリスト教国を組織したレパントの海戦で圧勝。海上国家の唯一の財産である「統治能力」で、ここまでの権威を維持し続けたヴェネツィアには敬服する。 16世紀の周辺強国の人口は次の通り。スペイン:800万人、フランス:1600万人、トルコ:1600万人に対し、ヴェネツィア:145万人。 国民人口が兵士の人数を決め、戦争が物量勝負になるにつれて、経済と外交で世界の方向を決めることが出来なくなったことが衰退の理由との指摘は、おそらく正しいと思う。 次の時代を生き抜くために、国として人口が足りなかったとの指摘は、今の日本の状況を思うと示唆的である。

  • 塩野 七生のローマ人の物語が好きだったので、購入したのですが、とくに英雄などでないため、最初は退屈でしたが、ドンドンと引き込まれていきました。

    資源の乏しさ、アンチ・ヒローの国家、宗教からの独立性など千年続いた国家という点など、日本とは抱える構造が似ているため、ベネチアの歴史からは、いろいろと学ぶところが多いです。

    英雄による帝国は、英雄の死と共に老化していきますし、システムだけに依存した国家は、個人の勢いで負けてしまうところもあります。

    その両方のバランスを考えていた国家だとしても、最終的にナポレオンに滅ぼされてしまうところなど感慨深いです。

    おすすめです。

塩野七生の作品

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