神の代理人 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181424

作品紹介・あらすじ

教会の権威復活のために十字軍結成に心血を注いだ知識人法王ピオ二世。過激な改革を説き、民衆の熱狂的な支持を集めるサヴォナローラと対峙したアレッサンドロ六世。教会領再復のため、自ら軍隊を組織し陣頭に立ったジュリオ二世。芸術と豪奢を愛し、法王庁の資産を食いつぶしたメディチ家出身のレオーネ十世…。権力の中枢を生きたローマ法王の実像を描き出す、塩野文学初期の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 初めての塩野七生。前書きでご本人も認めているように、若いときの作品で「若書き」であると。
    文章が固いのは年齢ではなく作家の特徴かも知れないが、所々、ものすごく読むのに疲れた。
    題材は興味深く、その点はでは面白いのだが、まるで教科書を読んでいるか、講義を聴いているときのような退屈感との戦いだった。学生ではない身からすると、もう少しこなれた文章で読みたいものだ。
    そんな中、ジュリオ二世かヴェネチア大使ピサーノと釣りをしながら、ヴェネチアの考え方を探るシーンがある。お互い背中合わせで釣糸をたれながらの会話で、振り向きながら相手に声をかける。法王の問いに対し、ピサーノが、振り向いて『冷ややかに』答える。『二人はまた背中合わせになって、釣りを続けた』この部分には、読んでいて余韻を感じた。

  • 中世ヨーロッパで「神の代理人」としてキリスト教世界に君臨したローマ法王をめぐる、政治的陰謀の数々を描いた本。おおむね史実通りに記述されている。バチカンの法王や枢機卿は政争に明け暮れており、地方の王侯貴族の方がよっぽど信心深いのが何とも…。在バチカンのヴェネツィア大使が「イタリア人は法王を人間だと思っているから平気で失脚させるけど、フランス人は法王のことを神の代理人とみなす深層心理が働き、とことん失脚させるところまで行動できない」と喝破した文章を残しているのが印象的。本書はいくつか前提知識がないと読みにくいところがあり、同じ著者の「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」と「海の都の物語」を先に読んでいると、理解が深まると思う。

  • 四人のローマ法王について語った塩野七生の中編集。
    最後の十字軍を遂行しようとしながら、世の諸侯には最後まで賛同を得られず、挫折と失意の中で生涯を閉じたピオ二世を描く第一章。

    ピオ二世の時代には若手の枢機卿として使えていたロドリゴが、悪名高い法王と言われたアレッサンドロ六世となり、メディチ家が栄えていたフィレンツェの覇権を得たサヴォナローラと対決する第二章。
    実際に交わされた書簡や日誌を基に構成されたこの章は、あのチェーザレボルジアの父でもあったアレッサンドロ六世の冷静、理知的な面を捉えており、ここからは悪名高きという評判はとても感じることは出来ない。
    塩野氏によれば彼は政教分離を考えていたらしく、自身は法王庁領を持つ法王庁国家を解体して、世俗国家を統一するために息子のチェーザレボルジアを支援してイタリアの統一を軍事と政治によって成し遂げさせようとしていたと考えられる。
    チェーザレボルジアの本を読んだ時に日本における織田信長とかぶる感じがしたのだが、その向こう側にはこんな構想をもった父、法王が居たのかと思うとスケールの大きさにうなってしまう。

    第三章の主人公ジュリオ二世は、法王らしく無くイタリアを戦乱の中に引きずり込んだ人物として描かれている。
    周りを囲んだ強大国スペイン、フランス、トルコと伍していくために策を次々と打っていくのだが、それが支離滅裂でもあり利用しようとする国が次々と変転するので、一貫した成果を生み出すことが出来ない。
    結局は歴史家より「致命的な同盟、致命的な武器」と称される治世となるだけだった。
    現代の法王を視る限り、発言力はあるものの政治的には無力に近いのだから、こういった姿を見せられると、宗教も結局は政治・権力を操るための道具であるだけではないか、と情けない気持ちにならざるを得ない。

    最後の章で描かれるレオーネ十世はフィレンツェのメディチ家出身だったが、彼の死とともにルネッサンスは終わり、ルネッサンス最後の地でもあったローマはスペインから大略奪を受けて破壊される。
    結局著者は、メディチ家で始まりメディチ家で終わったルネッサンスの別の面を描きたかったようにも思える。

    歴代法王を取り上げるという独特の視点で描かれた作品で内容的には興味深かったが、書簡による会話が延々と続く箇所や、複雑なやり取りだらけの同盟・戦争などは描写がこまかく、多少読みにくい部分もあったが、塩野氏に取っても初期の作品なので仕方なしというところか。

  • まえがきにもあるように、作者が若いころに書いた作品なので、いろいろと実験的な試みがある連作になってます。
    歴史を紹介する本でも、なかなか「神の代理人」であるローマ法王を主役にして語られる本はあんまりないような気がしますが、この本では4人の教皇を取り上げてます。
    日本でいったら室町時代?ぐらいの話なので、あちらヨーロッパでも、坊さんの権力はとても大きく、坊さん自ら政治や戦争に積極的に関わっています。
    中でも「アレッサンドロ六世とサヴォナローラ」は手記や手紙を使った形式で、かなり読みにくかったのですが、権力とは、人間の生き方とはなにか、みたいな今でも通用する深みがあって好きでした。
    アレッサンドロ六世は何かと悪役として書かれることが多い(と思う)のですが、こーいう視点もあるのだなあと思いました。

  • 最後の十字軍を組織しようとしたピオ2世。
    フィレンチェの修道士と対峙したアレッサンドロ6世。
    教会領再興のため自ら軍を指揮したジュリオ2世。
    法王庁の資産を食い潰したメディチ家出身のレオーネ10世。


    ルネサンス期に生きた4人のローマ法王たちの権謀術数。信仰と権力のバランス感覚はイタリア人の資質なのかしらん。。。
    著者もいうように確かにルネサンスはイタリア人のもので、宗教改革はドイツ人のものだと、読み通すと見えてくる。世俗のなかで生きる醒めた目の現実主義。信仰と理想に燃える理想主義。双方の絶妙なバランス感覚。これがイタリア半島に生きる人たちのしたたかな性質なのだろうか。そんなことを思う。

  • ローマ法王をテーマにした一冊。「ローマ人の物語」以来、新作の文庫本が出ると必ず手に取ってしまうことが続いている。それくらい、クセになる塩野氏の小説。

    この時代は、昨日のヒーローが一転して今日の悪魔になってしまうようだ。民衆に教養がないので、感情で動いてしまう。それを操るのがローマ法王だったりするのだ。法王が本当に『神の代理人』かどうかは疑わしいが、世間を動かすと言った意味で『神の代理人』であったことは間違いない。

    これは1972年に出された作品という。関係者の日記だけで構成された章もあり、初期作品の試行錯誤っぷりを垣間見ることができて面白かった。

  • 【ピオ2世】知識が多くあるせいで、教会の権威復活を思い、過去の栄光であった十字軍を提唱してしまう。そこに、教皇になってしまったことへの悲しさが表れていた。また、十字軍も最初の方しか成功していなかったから、この年数がたってからの十字軍の提唱は受け入れがたいものだったのだろうと思った。

    【アレッサンドロ6世】サヴォナローラとの手紙での対決は面白く読めた。私としては、アレッサンドロ6世の方に正義があるように読めた。というのも、サヴォナローラは、最初の方は民衆のためにやっていたのであろうが、その民衆の熱狂的な支援を得続けるために、過激で、熱狂的な改革を提唱せざるを得なかったのであろう。その点では、アレッサンドロ6世は、冷静な判断をし続けていった、と思えた。

    【ジュリオ2世】教皇としては、どうか、と思わざるを得ない人だと読んでいて思った。好戦的すぎる人物だったと思う。ただ、この人の考え方は教皇としてはどうかと思ったが、どこかの皇帝なら、歴代随一の皇帝になっていただろう。その場その場しのぎの外交方針は、宗教的権威としての教皇にはあっていないものと思った。

    【レオーネ10世】教皇として、あるまじきと言える散在の数々に暗殺されかけるというスキャンダル。若くして法王となってしまった人だからであろうか、先を読む力が少なかったからこのような行動に出てしまったのではないだろうか。また、出身が、メディチ家というのも災いになってしまったのであろう。

    全体として、中世の俗人的な教皇が描かれており、とっても、教皇が身近に思えるような作品だった。

  • ルネッサンス時代の4人のローマ法王を描く。神の代理人とあるが、それぞれ一癖も二癖もある人物ばかりだ。聖職者どころか、世俗の垢に塗れ、欲の皮の突っ張った人たちである。時代とその時代に生きる人物がよく描かれており、若書きの未熟さは感じられず、むしろ生き生きとした文体である。

  • 基調講演をされるそうです。
    国際交流基金設立40周年記念シンポジウム
    変わる世界 つながる人々 - 国際文化交流の新潮流 -
    http://www.jpf.go.jp/j/intel/40th/index.html

    開催日時 2012年11月9日(金)13:00-18:00
    会場 有楽町朝日ホール
    東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11F
    入場 無料
    言語 日本語/英語(同時通訳)
    主催 国際交流基金
    申込方法 参加ご希望の方は、お名前/ご所属・役職/電話番号/Eメールアドレスを記載の上、EmailかFaxにて11月5日(月)までに以下の宛先までお申込ください。※サイトを参照ください。

  • 2021/6/25読了
    15-6世紀の4人のローマ法王(最近は“教皇”の呼称に統一されたらしいが)のエピソード。アレッサンドロ6世(チェーザレ・ボルジアの父)は、最も腐敗したローマ法王とも言われるそうだが、塩野解釈では、イタリアの統一には政教分離が欠かせないことを理解していた、開明的な法王だったということになりそうだ。

  • 教皇としての「使命を感じすぎ、思いつめてしまった」文化人・ピオ2世、「自分の思想を貫くために世界が滅亡するならば、そんな思想はさっさと引き下げる」と豪語するアレッサンドロ6世、威勢がよく口が悪く「決断力と勇気だけで出来ているような男」として描かれるジュリオ2世、「自己の優越性を確信していた、真に貴族的な精神の持主」と評されるレオーネ10世。15世紀半ばから16世紀はじめ頃まで、つまり「ローマ掠奪」によりローマが廃墟と化す直前までにその座に就いた、4人の教皇を描く連作集。
    ローマ=カトリック教会の権威が薄れ続けてゆく時代を描いているから、どの作品も優雅さや勇ましさの影に諦念や虚無感がある。けれど、作品毎に書き方を変え、工夫を凝らしているから、陰鬱なシーンが続くものでも読む楽しさがあった。
    特に『アレッサンドロ六世とサヴォナローラ』は、権威対権威、思想対思想のぶつかり合いとしても、貴族的なものと民衆的なもののせめぎ合う悲劇としても、読み応えがあった。

  • 価値観が全然現代とは違ってるので、よくキリスト教第一の世界に住んでるな。
    人間の信じるという力に脱帽するし、多視点での物の見方が大事だと思う。
    教育って大事だなぁ。と今更思わされる一冊出した。

  • 著者の書き方のおかげかもしれないが、アレッサンドロ六世などグレーなのが魅力的。ジュリオ二世とかサヴォナローラみたいな独善的なのは無理。

  • ☆☆☆2019年10月☆☆☆


    ルネサンス期の法王の物語。
    法王は、俗界にかかわりを持たない聖なる存在ではなく、欲望むき出しの人間らしい人間が多い。純粋に信仰心から行うことが、世の中を混乱させてしまう事もあり、なんか滅茶苦茶だ。そんな法王たちの物語。


    「最後の十字軍」 ピオ二世
    「アレッサンドロ六世とサヴォナローラ」 アレッサンドロ六世
    「剣と十字架」 ジュリオ二世
    「ローマ・十六世紀初頭」 レオーネ十世

  • 合う合わないがあるかな。前半はゆっくり、人物描写や心理変遷なども、細かな記述からその世界観を楽しんだが、だんだん、その構成と抑揚に読み疲れが出て、斜め読みすると、途端に読書の情熱が冷めてしまうような。説明書か教科書のような設定の羅列に置き去りにされてしまった。
    再読しようか、でも、そこまでのめり込めないので、うーむ、である。

  • 教会の権威復活のために十字軍結成に心血を注いだ知識人法王ピオ二世。
    過激な改革を説き、民衆の熱狂的な支持を集めるサヴォナローラと対峙したアレッサンドロ六世。
    教会領再復のため、自ら軍隊を組織し陣頭に立ったジュリオ二世。
    芸術と豪奢を愛し、法王庁の資産を食いつぶしたメディチ家出身のレオーネ十世…。権力の中枢を生きたローマ法王を描き出す

  • 教会の権威復活のために十字軍結成に心血を注いだ知識人法王ピオ二世。
    過激な改革を説き、民衆の熱狂的な支持を集めるサヴォナローラと対峙したアレッサンドロ六世。
    教会領再復のため、自ら軍隊を組織し陣頭に立ったジュリオ二世。
    芸術と豪奢を愛し、法王庁の資産を食いつぶしたメディチ家出身のレオーネ十世…。
    権力の中枢を生きたローマ法王の実像を描き出す


    個人的には、アレッサンドロ六世とレオーネ十世が面白かった。
    神の代理人とはいえど、キレイゴトでは何も収まらない。
    そのあたりの徹底した現実主義っぷりが際立ったお二方。
    「ローマ法王」といえど一人の人間。
    その人が生きた時代や国、各々の性格等によって教会の統率の仕方はまるで違う。

    信仰とは何か。正義とは何か。

  • 最後の十字軍◆アレッサンドロ六世とサヴォナローラ◆剣と十字架◆ローマ・十六世紀初頭

    著者:塩野七生(1937-、東京市滝野川区(北区))

  • 読んでる途中でまさに劇中の舞台となっていたフィレンツェの、修道士サヴォナローラの影響を受けたボッテイチェッリの作品(死せるキリストへの哀悼)を見る機会があったりして、なかなか刺激的に楽しめた。(このタイミングで読んだオレ(・∀・)bグッジョブ
    あと、ヴェネチアいいなあ

  • 読んで、一番面白かった章は、やはり、アレッサンドロ六世の章。法王としては現実主義すぎるかもしれないが、統治者としては安心できる。アレッサンドロの突然の病没がなければ、ローマの歴史は、全く異なっていたのではと思う。

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