ローマ人の物語 (6) ― 勝者の混迷(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181561

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  • 数十年にわたるカルタゴの侵略を退け、さらに攻め込んで滅亡させ、地中海の覇者となった。数十年ぶりに平和を享受することができたわけだが、こうなると権力者が保身に走り、次第に内部から腐り始める。改革者は暗殺され、改革は滞り、格差が拡大して民衆の不満は高まる。こうなると、同盟国の気持ちも離れ、オリエントの強国からの侵略を受けるようになる。皮肉なことにこの危機が改革を余儀なくし、国内を一致させ、スッラという稀代ののリーダーを産む。スッラにより一時的に秩序が保たれるが、リーダーがなくなると呆気なく崩壊する。崩壊の芽は意外なことに、尊敬されたリーダーの盟友たちから生まれる。その乱を平定し、遠くオリエントまで支配下に置いたポンペイウスだが、次なる波乱の目が育っている。いやあ、面白い。

  • 本巻はポエニ戦役後のローマの混迷をあらわした本であり、社会制度や法制度の改正、ローマ市民権をめぐる争いなど、前巻と比較するとやや取っつきにくいテーマを扱っている。その意味で本巻は読むのに時間がかかるかな?と予想していたがそんなことはなかった。
    確かにいきなりこの巻から読み始めると、かなり難解な箇所があるかと思うが、「ローマ人の物語」をはじめから読んでいれば文脈も十分理解でき、どんどん読み進められる。この巻を読んでいて、ふと高校時代の世界史の教科書を思い出したが、世界史の教科書もこのぐらい読者の関心を惹きつけられたら社会制度の変遷なども簡単に覚えられるのに、と思った。
    肝心の中身について。私が特に印象に残ったのは社会制度、法律が与える影響の大きさについて。今の時代、ある法律が可決されなかっただけで内戦に至るなどということはほとんど想像できないが、当時のローマ連合ではそれがあり得た。また市民の法律に関する関心も高いし、法律は立案者の名前が付けられ、責任の所在も明らかにされている。現代の方が法制度はずっと洗練されているのかもしれないが、ある意味では現代の方が退化しているのではないかと感じた。
    「ローマ人の物語」の他の巻同様、様々な知的好奇心を満たしてくれる本である。

  • 社会制度に行き詰まりを感じているローマ。その行き詰まりをどうやって解消していくかの話となります。ただ決して堅苦しい内容にならないのは見事でした。

  • グラックス兄弟は兄ティベリウスも弟ガイウスも失業者と化した元自作農民の救済(農地改革)を図るが、共和制を護持したい元老院や富裕階層に疎んじられ、相次いで惨殺される。

    その後に登場したマリウスは、ヌミディアやスペインでの外患を鎮める傍らで志願兵システムを導入し、意図せず失業者問題を解決してしまう。

    だが、ポエニ戦役後には、ローマ覇権を拡大するためだけの軍役が同盟諸都市にとって不公平な負担となり、いわゆる市民権問題が深刻化した。

    この同盟者戦役は泥沼の内戦となりかけたが、結局はローマが同盟者たちに市民権を与えることで政治的に解決されることになる。

    内外の困難を試行錯誤で乗り切るローマは、まさにこの時期に世界覇権国家へと成長していったようである。

  • 格差解消のためと富裕層への増税を望む人のうち、一体どれだけが移民難民の受け入れを望むだろうか。既得権益に固執するのは資産家に限らない。資産を持たない労働者階級にあっても、その労働権に固執するのはいつの時代も変わらない人間の普遍的な性質だ。変革が訪れるのは、奪われるもの達が奪うもの達に対抗できる力が備わった時のみだとしたら、勝ち目がない時に格差の是正を世に訴えられる人間の志とはどこから来るものだろうか。本書は、大抵の歴史の教科書なら飛ばされるであろう、スキピオとカエサルの間の歴史の物語。

    国家システムが維持できるのは200年程度と言われるが、前357年にリキニウス法により全ての公職を平民に開放し、貴族・平民間の抗争が終わってから約200年。ハンニバル戦争以来、連戦連勝を重ねたは良いが、結果利益を得たのは一部の元老院貴族に限られていた。そんな貴族側にいながらして、失業者の増加とローマ兵の弱体化に国家の不安を視ることができたのは、グラックス兄弟だけだった。農地法による資産の過剰集積への歯止め、失業者へ国が買い上げた小麦を少額で配給する福祉政策、仕事を与えるための公共事業施策、元老院に限られていた陪審員制度の見直し。社会不安の解消のための政策は受け入れざるを得なかった元老院も、こと自身の資産にまで影響が及ぶとなるとこれは見過ごされず、結果グラックス兄弟は志半ばに殺される。

    ますます混迷に陥るも、平和により危機に陥った経済が、戦争により回復するのは未来にも見られる話。ヌミディアでのユグルタ戦役とイタリア北方でのガリア戦役により、これに合わせて軍制を改革したマリウスは、失業者に職を与え、軍内部での格差を撤廃することで共同体の意志の統一をはかった。しかし、人間の歴史は戦争の歴史なれど、終わらない戦争はない。マリウスはなんとか再度の戦後の失職による治安悪化を国家からの支出により防ごうとするが、またしても元老院に阻まれる。
    そうした末路は先見者だけが予想したが、誰もが抗えなかったローマ連合の崩壊、同盟者戦役。130年前にハンニバルが目指したが、なしえなかった連合の解体は、ただ格差のみによってなされることになった。しかしその矛先が向いたのは、中枢の元老院ではなく、ローマに住んでいた市民全体。よって、市民の多くの血を流しながらも、ローマ市民権を同盟地方に拡大することで、反乱は収まることとなった。

    こうなるといよいよ対立の構図は元老院とそれ以外の全て、ローマ支配地全域となる。元老院を中心とするローマのシステムは、少しずつ変様を見せるが、未だその顔ぶれが変わる様子は見せない。混迷の共和制の時代に残された時間は、僅かしかない。

  • グラックス兄弟の改革。マリウスとスッラの時代。ヌミディア王国の王子ユグルタが引き起こしたユグルタ戦役でのマリウスの活躍。マリウスによるガリア遠征。同盟者戦争。イタリア半島内の内紛。

  • 古代ローマでも失業者対策とか既得権益の問題が山ほどあったってのが面白い。政治は、過去から何一つ進歩してないんだろうな。軍隊構成が変わって、市民権の保有者が拡大。さて、次には何が起こったのだろう?

  •  カルタゴを滅ぼして地中海の制海権を押さえたローマに新たな問題が勃発。それは格差問題である。繁栄をもたらした一方で貧富の差が生まれてしまう。これには現代の日本の姿が透けて見れるかもしれない。

     地中海の制海権を確保した共和制ローマ。急速に勢力圏が広がるにつれて、逆に国内に問題を抱え込むことになった。そのひとつが富の格差問題である。ローマ人は農耕民族であるため、多くのローマ人は農業を行っている。この小規模農業が立ち行かなくなり、低所得層に落ちる市民が発生してしまったのである。この原因は大きく2つ挙げられる。
     一つは領土が拡大したことにより、安価な農作物が輸入されるようになったこと。もう一つは領土拡大に伴い獲得した奴隷により、大規模農業が行われたことである。この貧富の格差拡大は、ローマの戦力低下を招いてしまった。兵役はローマ市民の義務であるため、従軍中の賃金は支払われない。このため、従軍中に残された家族が生活できるだけの資産を持たない市民は、兵役の義務を免除されるのである。
     勢力を拡大するほどに混迷の度合いを増していく姿は、いまの日本に重なる部分もあるかもしれない。

  • 強大国・カルタゴが消滅して以降、ローマは地中海世界の覇者となる。
    外敵もいなくなり平和が訪れるかと思いきや、今度は国内問題が持ち上がる。

    深刻な経済格差である。これを解消すべく立ち上がったのがグラックス兄弟だ。
    まずは兄のティベリウスが平民の権利を守る護民官として、農地改革法を打ち出す。
    借金の為に土地を失った小作農の失業問題は解決せねばならない。しかし、いつの
    世も既得権益者は自分たちの権益が侵されることに敏感に反応する。

    平民層からは絶大な支持を誇ったティベリウスだが、打ち続いた戦時下で権力を
    持った元老院の反発は大きかった。平民集会に乱入した元老院派によって、惨殺
    される。

    兄の死から10年後、今度は弟のガイウスが護民官となる。兄が作った農地改革法
    だけではなく、台頭する経済エリートの活用、軍の改革、植民地改革を目指すが
    兄の時と同様、弟も元老院の反発を受け執拗な攻撃を受ける。そして、ガイウスは
    ローマからの逃亡の途中、森の中で唯一同行した奴隷と共に自死する。

    名門グラックス家はふたりの死をもって断絶する。あぁ…なんてこったいっ!
    富裕層でありながら、平民の為に国内の正常化を願ったふたりが立て続けに
    悲劇に見舞われるなんて。

    さて、このグラックス兄弟の母はスキピオ・アフリカヌスの娘コルネリアである。
    夫亡き後、子をなした女性には再婚を奨励していたローマだが、彼女は多くの
    再婚話を断り、ふたりの息子の子育てに専念した。

    「子は、母の胎内で育つだけでなく、母親のとりしきる食卓の会話でも育つ」

    現代のお母さんたち、コルネリアの言葉を聞いておくれ。

    この女性、名将スキピオの娘だけあってふたりの息子の死後も彼女の元を
    訪れる人は絶えず、一種のサロンの様相を呈していたという。

    「現在では台座しか残っていないが、そこには、「アフリカヌスの娘で、グラックス
    兄弟の母コルネリア」と刻まれている。女の地位が低かった共和制下のローマ
    では、これは珍しい例であった。」

    いい女がやっと出来て来た♪




    さて、すっかりグラックス3代に惚れ込んだ私であるが、著者はひと息なんて
    つかせてくれない。

    国内の経済格差が埋まらないまま、ローマにはこれまでの名門貴族から
    ではなく軍隊叩き上げの人材が登場してくる。

    それが、マリウスとスッラだ。深刻になるばかりの失業問題に、マリウスは
    これまでの徴兵制に変えて志願兵制度を採用する。しかし、それだけでは
    同盟都市とローマ市民権を有する者との格差は埋まらない。

    そこで勃発するのが、ローマ連合の解体に繋がる同盟諸都市の蜂起だ。

    軍事としては魅力も才能も備えていたマリウスだが、外交は苦手。その
    不得手な分野を担当したのがスッラだった。

    でも…後にはふたりも対立しちゃうんだけど。

    カエサルの登場までの繋ぎの巻だと甘く見ちゃいけない。成熟した国は、
    内部に疾患を抱えるのは、いつの時代にも変わらないってことを教えて
    くれる。

  • 勝者の困惑
    内乱の一世紀
    グラックス兄弟の改革

塩野七生の作品

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