ローマ人の物語 (14) パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)
- 新潮社 (2004年10月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101181646
感想・レビュー・書評
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ローマ帝国を拓いた初代皇帝アウグストゥスの統治が、本巻より始まる。
初代皇帝という言葉からイメージされる姿とはまったく異なり、アウグストゥスは「見たいと欲する現実しか」見ない元老院の目を巧みに欺きながら、ローマ国家の姿を共和制から帝政へと実質的に変えていくというものだった。
国家の意思決定に関する権力の握り方についても、共和制復帰を宣言し、三頭政治を解消しながらも、執政官の地位、インペラトールとプリンチェプスの称号は手元に残し、実質的な行政権、軍団指揮権、立法府での発言権を確保している。
統治機構における建前と本音を巧みに使い分けるかのように、実質形骸化している権限を保守派に残しつつ、意思決定の方向性を握っている。強力なリーダーシップで白紙に新たな国家像を描くのではなく、既存の制度をある意味では隠れ蓑にしながら改革を進めていくという姿は、従来の保守派・革新派という単純な二分法の枠に収まり切らないアウグストゥスのスタイルの奥深さが感じられる。
また、本巻の後半より、彼の統治機構改革の内容が順次触れられており、大変興味深かった。
都市国家ローマから地中海国家ローマへの変化はすでに100年以上をかけて進行してきたが、そのようなグローバル国家を支える兵制、税制、選挙制度といったものは、順次手直しがなされてきただけであり、本格的な作り替えはアウグストゥスがその40年強の治世をかけて初めて達成したと言ってよいだろう。
様々な改革の中でも印象深かったのは通貨改革だ。
金貨・銀貨・銅貨によるシンプルな貨幣体系を作ったこと、貨幣価値と額面価値を一致させることによって経済原理に忠実な貨幣の流通を図ったこと、帝国全域で流通する貨幣としながらも各地で使われている貨幣自体は共存を認めたことによって、彼が構築した貨幣制度はその後300年以上持続的に使われることとなった。
彼の現実感覚の鋭さがいかんなく発揮された事例だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アントニウスに勝利したアウグストゥスによる改革の話
スッラとカエサルという正反対の2つの前例を知る
アウグストゥスがゆっくりと気付かれないように
帝国化を進めて行く事が面白い。
元老院は共和制が正常に働いていた時代を
知らないものが多く、完全に骨抜きにされている。 -
ローマ人の物語〈14〉パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)
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内容 :
ユリウス・カエサルが暗殺されてから十五年。
彼の養子オクタヴィアヌスは、養父の遺志に逆らうように共和政への復帰を宣言する。
これに感謝した元老院は「アウグストゥス」の尊称を贈り、ローマの「第一人者」としての地位を認めた。
しかしこの復帰宣言は、カエサルの理想であった「帝政」への巧妙な布石であった―。
天才カエサルの構想を実現した初代皇帝の生涯を通じて、帝政の成り立ちを明らかにする。
著者 :
1937年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒業。
「ルネサンスの女たち」でデビュー、70年以降イタリア在住。
著書に「海の都の物語」「わが友マキアヴェッリ」など。 -
カエサルの意志を継ぎ、帝政を確立させるオクタビアヌスことアウグストゥスの取り組み。その前半が描かれる。
共和政復興を唱えながら、帝政を着実に進め、ローマの拡大路線を改め、維持路線を進める。 -
カエサルの時代までは共和制だったローマでしたが、カエサルに後継者に指名されていた若きオクタヴィウスは、カエサルの遺志を受け継ぎ、巧妙なやり方で帝政の移行を進めていたのでした。
歴史の授業で習い初代のローマ皇帝ということは知っていたものの、アウグストゥスというのは、古代のローマでは単に神聖で崇敬される場所を意味する言葉であり、権力を意味する尊称でなかったというのは全く知りませんでした。内乱を収め、共和制復帰を宣言した時にこの尊称を使い始めた彼はまだ35歳、皮肉にも「インペラトール・ユリウス・カエサル・アウグストゥス」というのが正式名称だそうです。
そして、さらに興味をそそられるのが、アウグストゥスがまれなる美男子だったこと。(写真つき)しかし、カエサルのようなカリスマ性がなく、演説や著作の才能も自分にはないと思っていたようです。暗殺されれば志を絶たれることも十分承知しており、慎重な性格であるが故、天才カエサルの後を、彼とは違った手段で受け継いでいく様子が書かれています。パクス・ロマーナ、ローマによる平和を実現するために…
これまでのカエサルの活躍した様子から比べるとやはり読み物としては面白味に欠けます。この辺りは、作者も指摘しているようにローマ史上重要な存在なのに、カエサルに比べると伝記が少なく、史料も少ない。魅力がないのではなく、書き手を触発するタイプの人物ではない、というのが理由のようですが…
(この続きがなかなか手に入らないので、先がいつ読めるのやら困りものです) -
「パクス・ロマーナ」とは「ローマの平和」の意。それを作り上げたのが本巻の主人公、アウグストゥス・カエサル。
初代皇帝であり、立役者ユリウス・カエサル(以後カエサル)の次のトップだ。
曰くこの著者はカエサルのことが好きすぎてあまりに好意的に書く癖があるらしく、それの直後として比べられるこの初代皇帝は不憫である。
カエサルは何でも一人で出来るオールマイティタイプであり、またやったという印象が強い。
ガリアの征服行もそうだし、その後の内戦やら諸々はあくまでもカエサルの功績だろう。
行動力があり戦争も出来、人心を掴むのも上手く政治も出来る。
一方アウグストゥスは、出来ることと出来ないことがはっきりしているタイプである。
一番分かりやすい実証は、アグリッパという軍事に才のある片腕の存在だろう。
彼自身にはこの才能がからっきしであったらしい。
著者はそこでカエサルを絶賛している訳だが、まぁ現代社会で言えば評価されるのは後者だろう。
確かに彼は友と失った後はその面で失敗することも増えたかもしれないが、そもそも現代の組織では強烈なトップだけで持つ意味など無い。
各々が各々で出来ることを分担して、独力では不可能な利益を生み出すべきなのだ。
ていうか70歳を超えても権力が変わらずに現役でやってるってのが問題だろう。日本の政治家と同じだ。
ただ、現代ではと言ったとおり、彼らにそういう価値観があった訳では無い。
アウグストゥスの性質、といっても今でも固執する人は多いが、血の継承に拘るところがあった様だ。
カエサルは後継者としてアウグストゥス(オクタヴィアヌス)を連れてきた。
姪の子なので血縁者ではあるが、そう近くは無い。そしてその相棒として選んだアグリッパは何処の馬の骨とも知れない男である。
他方、アウグストゥスは才能の多寡によらず、血縁者を順番に(というのも彼が指名した後継者はもれなく死んだり失脚したりする)後継者に指名していった。
そこらへんの現実主義っぷりではカエサルに軍配を挙げざるを得なかろう。
しかしパクス・ロマーナを成立させ、パクス・ロマーナと言わしめた男である。
当時の目線で見ても、歴史的に見ても、立派過ぎる功績を挙げたことに違いは無い。 -
オクタビアヌス改め、アウグストゥスによる統治の時代のはじまり。もちろんパクス・ロマーナというローマ帝国(周辺国含め)の平和かつ繁栄の時代を築いたアウグストゥスはスゴイのだけど、その潜在能力を彼が18歳の時から見抜いていたカエサルのスゴさよ・・・
P13
アウグストゥスは、見たいと欲する現実しか見ない人々に、それをそのままで見せるやり方を選んだのである。ただし、彼だけは、見たくない現実までも直視することを心しながら、目標の達成を期す。
これが、アウグストゥスが生涯を通して戦った、「戦争」ではなかったかと思う。天才の後を継いだ天才でない人物が、どうやって、天才が到達できなかった目標に達せたのか。それを、これから物語ってみたい
P72
だが、「内閣」の決議は、元老院での決議と同等の価値を持つのであって、それ以上の価値をもつとはなっていない。そのようなことを決めては元老院の反発を買うからだが、アウグストゥスは、次のやり方でこの難問もくぐり抜けた。
元老院の定例会議を、従来よりも減らし、月の最初の人十五日の二回にし、その上、年に二ヶ月の休会期間まで置くと決めたのである。一方、「内閣」のほうは年中無休。必要とあれば招集されるのだから、政策決定期間としての重要度に差が出てくるのも当然だ。決議の同価値は。こうして、事実上の非同価値になったのである。
P80
防衛ないし安全保障の概念は、ローマ時代からあった。ラテン語ではセクリタスと言い、後には英語のセキュリティーの語源になる。