ローマ人の物語 (37) 最後の努力(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181875

感想・レビュー・書評

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  • キリスト教を世界宗教にしたのはコンスタンティヌスだったんだな。
    最初の中世人、コンスタンティヌスは優秀な政治家だと思うが、彼がしたことを端緒に能無しが単に生まれから、神からの指名から、貴族、司教になる中世、引いては現代の仕組みまでに続いている。彼がいなかったらまったく違う世界が今、あったのではないか。

  • 広大な帝国の支配域を長年に渡り維持していくためには、かなりの努力とそれなりのシステムが必要になりますが、紀元306年、帝国の最高の地位に就いたコンスタンティヌスは、この本のタイトルにあるように最後の努力をします。しかし、その国家の改造政策は「もはやローマではない」という表現になる改造政策でした。
    その中身は、500年も続いた共和政時代の元老院主導の役割を全廃し、皇帝主導にしました。元老院は実権を持たない名誉職となったのです。また、ローマの安全保障システムも変えました。国境線に勤務する兵士を農民のパートタイムの仕事にしてしまい、敵の襲来を絶対に阻止するという安全保障の考えを放棄することに繋がりました。そして、結果的にキリスト教の教会活動を振興する政策を取り、最高権力者の地位を安定させていくのでした。一神教のキリスト教の教え、神が絶対であることに着目し、その教えを人間に伝達する司教を味方につけたからです。
    こうしてローマ帝国は変貌を遂げ、この後100年生き延びました。このことは「これほどまでしてローマ帝国は生き延びねばならなかったのであろうか」と後世の研究者に言わしめる事態でした。しかし、その変貌をしてもあの「パクス・ロマーナ」の時代はもどってこなかったというのですから、郷愁が漂います。

  • ローマを捨てて新都に首都機能を移転してしまえば、それはもうローマ帝国ではないのではないだろうか。
    元々ローマ帝国の皇帝は元老院と民衆の双方から認められなければ帝位に就くことはできなかった。

    それを、神から与えられた権威であると皇帝の意味を書き換え、蛮族の侵攻から民を守るのも蛮族に蹂躙されてからじゃなければ動き出さず、生活に余裕の亡くなった人々は芸術的センスを失い、法律すら宗教(キリスト教)の前では無力になってしまった。
    もはやローマ帝国の片りんなどどこにもないではないか。

    ”キリスト教徒に認められたこの信教の完全な自由は、他の神を信仰する人にも同等に認められるのは言うまでもない。(中略)いかなる神でもいかなる宗教でも、その名誉と尊厳を損なうことは許されるべきではないと考えるからである。”

    当初の目的は、よい。
    だけど、どんどん価値の下がる銀貨で暮らしながら、金貨で税を治めなければならないような生活を強いられた庶民は、税金で優遇される上に生活費の面倒も見てくれるキリスト教に流れてゆく。
    兵隊たちも、週に一度の安息日が保障されるキリスト教に流れてゆく。

    きっかけは些細でも、その流れは誰にも止められなかった。
    ましてや、皇帝の名を冠した新しい都にはキリスト教以外の宗教的建築物がたてられることはなかったのだから。

    コンスタンティヌス自身はキリスト教徒であるかどうかはわかっていないらしい。
    単に政治的にキリスト教徒を利用しただけなのかもしれない。

    ”一神教の宗教とは、教祖の言行が最重要の教理になる。だがその教理は、解釈しその意味を解き明かす人を通すことによって、初めて一般の信者とつながってくる。これが、教理の存在しない多神教では専業の祭司や聖職者の階級は必要ないのに対して、一神教ではこの種の人々の存在が不可欠になってくる要因であった。”

    神から皇帝というくらいを与えられたので、戴冠式や帝冠などが必要となる。
    そして神と皇帝を結びつける司祭という存在はますます大きなものとなっていく。
    寛容を国是としたローマ帝国が、非寛容のキリスト教に取り込まれるのは時間の問題だ。
    もうこれでは暗黒の中世と同じだもの。

    その他に私がコンスタンティヌスが嫌いな理由は、酷薄な性格。
    不要となれば血のつながった息子を執拗な拷問の末に獄死させ、妻を熱湯風呂に閉じ込めて殺すことを辞さない。
    身内を殺すというだけでも許せないのに、何もそこまで残酷な殺し方をする必要ないじゃない。
    でもたぶん、好きで残酷な仕打ちをしたのではなく、ただ単に不要な家族に興味がなかったんじゃないかと思う。
    最低。

  • こんなに薄い本なのに。
    読み応えありますね。
    これは要読み直しです。

  • コンスタンティヌスの治世のお話し。
    キリスト教そして新都、ローマが全く変わっていく。

  • コンスタンティヌスとキリスト教の関係をメインに描いた巻。
    もともと、多神教であったローマにおいて、一神教のキリスト教を保護することで、ローマ的なものが壊れていった。そのキリスト教も、心からの信仰の布教が成功した結果ではなく、コンスタンティヌスがキリスト教徒に与えた優遇策を目当てに改宗者が増えた様子。
    また、コンスタンティヌスがこれほどまでにキリスト教を保護した理由として、皇帝の世襲制を認めさせるために絶対的な神を必要としたため、という説が語られる。

    最後、コンスタンティヌスはペルシャ征討の軍中、病に倒れ、その治世を終える。

  • 「コンスタンティヌス以降はもはやローマ帝国ではない、としてペンを置いてしまう史家もいたほどである。」その気持ちはわかる。共感できるローマはもう出てこないのだろうな。でも「死ぬとわかった時点で早くも病室を出るよりも、どのように死んでいくかを見守りながら最後まで看取るほうなのだ。」という筆者に同感。

  • ライバルの東ローマ皇帝リキニウスを破り、唯一の権力者となった大帝コンスタンティヌスによる統治を描いている。

    歴史上においては、キリスト教を公認したことが彼の最も有名な実績になっているが、それを含めて、彼はローマ帝国を新たに作り直すことを目論見た皇帝であったと思う。

    その内容は大きく、新しい首都、新しい政体、新しい宗教からなる。

    新しい首都として、彼はその名もコンスタンティノープルを建設する。これまでは軍事上の必要性から東西に帝国を分け、それぞれに正帝・副帝を置くという形を採っていたが、軍事上の要請であるがゆえに皇帝の所在地は防衛線からの交通や軍事上の拠点性を鑑みた立地であった。また、それらの皇帝の所在地は首都ではなく、首都はあくまでローマであった。

    しかし、コンスタンティヌスが新たに建設した都市は、首都として建設され、そのため名誉職の議員の集まりという形式的な形ではあったが、元老院も新たに設けられる。一方で、ローマには数多くあった神々をまつる神殿や神々にささげる行事として行われた演劇や剣闘士の試合のためのコロッセウムは存在しない。

    彼が構想した新しいローマ帝国の形は、ディオクレティアヌスの流れに連なる絶対専制君主制であり、そのために彼は、ローマ古来の神々ではなくキリスト教を選択した。

    これまで、ローマ皇帝は元老院とローマ市民、そしてローマ市民の一部ではあるが軍最高司令官としての皇帝の指示を誰よりも直接受けるローマ軍団からの支持に基づき、帝位を得ていた。しかし、コンスタンティヌスはこのローマ皇帝の地位を、神の意志によるものに変えた。

    このことにより絶対専制君主制が確立するのだが、絶対的な権力を正当化するために神の力が有効であるという発想こそが、コンスタンティヌスが生み出した新たな概念であり、そのために彼は当時は信仰する人が5%にも満たなかったキリスト教を公認し、その振興を図った。

    このような形で、彼が構想した新しい帝国の姿においては、その首都のあり方、政体、そしてキリスト教という新しい宗教が一体的に結びついていたように思う。

    この新しい帝国が、その後の西ローマ帝国滅亡までの百年強しか持続しなかったことを思うと、このような形で作り替えたことが果たして正しかったのかということをふと考えてしまう。

    一方で、帝国の力はすでに三世紀から顕著に衰えを見せており、そのような中でローマ帝国だけではなくその後の中世の王権や社会のあり方までを視野に入れると、コンスタンティヌスが発見したこの新しい統治の方法は、歴史的には大きな影響を与えたものだと考えることもできる。

    ただし、キリスト教を軸とする絶対専制君主制は、ローマが持っていたグローバル国家としての性質とは相容れなかったのではないかと思う。

    一神教の聖職者層を必要とし、さまざまな宗教や文化を持つ民族を一つの国家の防衛や社会システムの中に組み込めないキリスト教を軸とした統治形態は、国家の防衛力や異民族との共生には適さず、そのことがこの後のローマ帝国の衰亡への道を開いたとも言えるのではないかと思う。

  • この巻では、コンスタンティヌスの時代の後期の話です。

  • 新潮学芸賞

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