接近 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101182322

感想・レビュー・書評

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  • 極限状況下における人間への信頼と絶望。戦争下という極限状況だからこそ描かれる、人間の業と哀しさが印象的な作品です。

    昭和20年4月の沖縄。アメリカ軍が上陸し、徐々に追い込まれていく日本兵たちと沖縄の市井の人々。11才の少年、安次嶺弥一(あしみねやいち)はある日、大けがを負った二人の日本兵と出会う。

    追い込まれたときに出てくる人間の一面は、その人の本質を現わすものだと思います。大きなミスをしたとき、正直に言うか。誤魔化そうとするか。誰かに相談するか、一人で何とかしようとするか。

    どれが正解かは、よりけりですが、その時の選択というものは普段の上っ面では測れない、人間の真の部分が出ると思います。

    戦場で戦う日本兵達に尊敬の念を持ち、怪我をした二人の兵にも好意的に接する弥一。一方で、壕に身を潜める村人達は、二人が日本兵に分したスパイである可能性を考え、彼らと距離を取り、弥一と村をまとめる区長の距離は深くなる。

    そして戦況が悪化していく中で、日本兵の中には、村人の食料や安全な隠れ家である壕を奪おうとするものも現れ始め……

    『頼もしい神兵は真面目に死ぬ。
    残るのは利己的な兵隊ばかり。』

    『口が立派なものほど行動がともなわない。おぼろに理解していたことである』
    『特攻隊を送り出す人は特攻しない。アメリカ人を殺せとの記事を書いた人は自分では殺さない』
    『行動の苦痛を味わう必要がないからいくらでも大口をたたける』


    沖縄を、自分の故郷を守ってくれると信頼していた兵士たち。しかし、戦況が悪化し彼らのメッキが剥がれ、人間の汚い部分が顔を覗かせ始めた時、兵士達は、村人たちにスパイの疑いをかけ、責任逃れをし、そして食料も住処も奪っていく。
    少年は絶望しながらも、それでも信じたいという思いの板挟みに。そして少年が最後に取った行動は……

    戦争の悲惨さというものは、単に無残な死だけではないかもしれない、ということを古処さんの戦争小説を読んでいると感じます。
    自分だけを優先し、奪い、欺し、あざむく人たち。極限状況だからこそ浮かび上がる人の浅ましさを、戦争を通し冷徹に描く。それが古処さんの文学のカタチのように思います。

    そうした浅ましさの一方で、それでも人間的な面を捨てない人もいる。しかし、戦争はその人間的な面を究極的に揺さぶる場面もあります。この『接近』のラストも、情を捨てられない人間の哀しさが凝縮された、なんとも言葉の見つけようのない、複雑な感情が心に残るラストでした。

  • 「ルール」と「七月七日」を合体させて沖縄に放り込んだ。軽い謎解き仕立ても定番。

  • P177
    沖縄を舞台にした 日系アメリカ兵との スパイ絡みの小説。

  • 古処氏のルールを読了して、すぐに手に取った作品。
    ルールよりさらに薄い文庫本。
    軍隊の構成や沖縄の地理など勉強不足で読みづらい部分もあったが、読了してみればルールと同じく重量感のある素晴らしい作品。
    弥一少年の純粋さゆえの接近が悲しい。
    古処氏のほかの作品もぜひ読みたい!

  • 【本の内容】
    昭和二十年四月、アメリカ軍が沖縄本島に上陸したとき、安次嶺弥一は十一歳だった。

    学校教育が示すまま郷土の言葉を封じて生きる彼の前に、同じく郷土の言葉を封じたアメリカ人が突然日本兵の姿で現れる。

    本来出会うはずのなかった彼らは、努力をもって体得した日本の標準語で時間を共有し、意思を伝え、距離を詰めていく。

    人の必然にしたがって、相容れない価値観は「接近」した。

    [ 目次 ]


    [ POP ]
    とても淡々と進行していくような雰囲気だったのですが、読み手を突き放したような視点で描かれたものではなく、むしろ戦争をテーマにした事で静かに迫り来ます。

    緊張感やどうしようもないジレンマと思いが満ちていました。

    日本兵、米スパイ、沖縄の住民達が抱えるそれぞれの個人的な葛藤や国家や村などの集団になったときの葛藤が、リアルに表現されていて、この作品を単なるミステリではなく、もっと複雑なものをもったものにしています。

    個人的に残念だったのは、少年の繊細で純粋な心ににスポットが当たっている分、その他の人物の心描写がやや少なく思えるため、どうしてそのような行動をとってしまったのか等想像や考えだけでは少しだけ納得に至りませんでした。

    それはミステリということに主眼を置いているからなのかもしれません。

    それでもなお、これだけ心に残っているのは。

    この作品の持つ力のような気がします。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 冲绳县民,因为生活,为北美和南美,夏威夷移民的人多。日系美国人作为间谍被派出了到冲绳。如果没有危险给(对)别人施给,有危险的话从别人夺去普通的人。伪善者。

  • 戦時下の沖縄を知りたくて読んだ。
    研ぎ澄まされた文章の中に、信頼を裏切られた少年の思いが強く強く伝わってくる。
    共に郷土の言葉を封じ、懸命に覚えた日本の標準語を話す少年とスパイ兵、二人が出会い接近してゆき、そして思いもよらない悲しい結末へと向かう。

    私の理解力不足で、序章の部分の主格が、誰なのかが分からずに読み進めたため、
    終盤で戸惑ってしまったのが残念で★3ですが、もう一度読み返したら、★4か5になると思う。

  • 一度読んだら決して忘れられない傑作。再読。
    再読して初めてこれは「七月七日」の舞台であったサイパン島に続く物語なのだと知った。
    この作品の舞台は沖縄本島。読後に受ける衝撃は、結末を知っているにも関わらずまったく同質のものであった。
    最前線の物語でないにも関わらず、戦争というものがもたらす人間性の断絶というものが信じられないほど克明に描き出されている。
    だのになぜか、これを戦記物とか戦争小説とかに分類するのはためらわれる自分がいる。少年の「信じていたのに」という言葉と、それに続く選択は、あまりにも文学的であるから。

  • 接近しすぎ。悲しい接近。

  • <沖縄戦>
    これは本当に、読み終わったあと衝撃が体を突き抜ける本です。
    叫びだしたくなるような、かきむしりたくなるような。デイゴの花、というものが島民にとってどんな意味を持っていたのか、恥ずかしながら知らずにいました。
    視点の多い、そして冷静、一筋縄では考えをまとめさせてくれない苦しさ、じゃあ自分はどうだ、と問いかけられる部分。まだ答えることが出来ない。あなたはどこからきたのですか?
    ふと、読み返してまた苦く閉じる。そんな本です。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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