- Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101184418
感想・レビュー・書評
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暴力的に短かった『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』とは違って、『あらゆる場所に花束が…』はまとまった長さがある中編小説だ。長さが変わったからといって、脈略のなさや無意味で理不尽な暴力、紋切り型の表現といった中原昌也の作風は健在である。
一見すると脈略のない小説に見えるが、一定の規則性に従って反復を繰り返す小説になっているように思う。理不尽な暴力のイメージをつないでいく手法で小説を展開させていく。共通したイメージを繰り返して展開させる手法は、斬新で面白みがある。フランスの文学運動ヌーヴォー・ロマンに通じるものがある。中原昌也の小説はあらすじにまとめるのが困難で、要約されるのを拒んでいるように思える。文章の流れに身を任せて読むような小説だ。物語的に小説を展開させているのではなく、イメージを連想で繋げて話を展開させていく。どんどん話題がズレていくので、脈略がないような印象を受ける。しかし、ただ脈略がないのではなくて、暴力のイメージや構図が反復されているなど、構造を持った脈略のなさだ。イメージを連鎖させているので、気が尽きた時には全く関係ない話になっていることもしばしば。アランロブグリエの映画のタイトルから拝借すれば、その手法は漸次的横すべり的な小説とでもいうのだろうか。
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ごつごつと乾いたものを、ねっとりしたもので覆いつくしている感じ。
退廃的で、愚かで、ほんのちょっと美しい。
言葉も分かる。文章も分かる。
ただ、流れが分からない。
でもこの人が凄い事は分かる。
章ごとに目線をぴったり合わせた語りが、違う人物によって繰り広げられていくので、焦点を合わせていくのに時間がかかった。 -
暴力的にスピード感のある文体であるが、話としては特に何も起こっていない。というか何だったんだ。著者本人による文庫版のあとがきがウケる。
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茂が食堂で見つけたとても醜い女を観察し、描写する。
>何が美しいのか、何が美しくないのか……その美的価値基準を他者から押しつけられることに彼女は大胆にも断固として抵抗しようというのだ。それが納税と同じく文明社会に係わる者のルールだというのなら、問答無用に全てを徹底的に破壊すべきだと声高に己の心の中だけで独白することが習慣化……勿論、この主張のためなら彼女は残虐な殺人すら厭わない。初めは民衆にとって他人事であった筈の醜さの定義がいきなり、顔が皺だらけで髪が薄くなったり腹が突き出て肉が弛んだ者までをも含み、より多くの(中年層を中心とした)人々の参加が期待される。
中原昌也はここで何かをキャッチしたんだろう。キャッチしたときの文章はドライヴ感が溢れている。
とまれヘンテコな文章である。たぶん、彼女の醜さはもはやイデオロギーとして機能しているということが言いたいのだろう。それは新奇な考えといっていいと思う。けど最後の文章では、「参加が期待される。」という何かの評論か大学生のレポートのような決まり文句で結ばれる。
大学生のレポートというのは結構的を射た表現かもしれない。大学生は教授にこれこれの事を800字で提出などと言われて、とりあえず期限に出せばいいのだからと、自分では思ってもいないことを(借り物の言葉で)書く。
さらにいくと、この話題の結びでは「醜いものは所詮みな決まって三流だ」となり、
>常に一流と見なされているものと俺は接していたい。そういう値打ちのある出会いは、知らぬ間に俺の価値を次のレベルへと確実にステップアップしてくれるからだ。
というもっとも陳腐な言葉で締めくくられる。
この流れをまとめるとすれば、こういうニュアンスになるのではないか。
「いろいろ真剣に考えるんだけど、真剣と言ったってブスについて考えてるわけだから決して真面目ではないし、せっかくたくさん考えたところでまあこんなことはどうでもいいよね」
そこには何かしらのリアルがあると思われる。
だって「おもしろい」と感じるし。
さらに今作は初の長編ということで、やはりヘンテコなところが出てくる。
同じモチーフをまたちょっと違う形にアレンジして何度も作中に登場させるというのは、長篇小説ならば当然の技法であるけど、その場合のモチーフというのは音楽でいうと倍音みたいな効果をもたらし、読者に「何かわからないけどいい感じ」をもたらす。
ちなみにこのモチーフというのはだいたい作者によって巧妙にそうと分からないように出されることが多いと思う。その方が「何かいいんじゃない?」感が強まるからだろうな。
けど中原昌也は開けっ広げにこのモチーフを繰り返す。何の飾りも変装もない。さらに言えばこれがもっともヘンテコなところであるんだけど、その繰り返しに倍音のような効果は一切ない。
見事にぶつ切りだ。
「この場面は前のページにも似たようなものがあったな」と思って、その場面を時間的空間的に繋げようとする試み、つまり文脈を作ろうという読者の試みは徒労に終わる。
現代音楽だな。 -
第14回三島由紀夫賞受賞作。
話が一定方向に流れるのではなくて、途中で何度も人物や場面が変わる。 -
彼のフォロワーから辿ってこの手の小説に手を出したのですがなるほどこの捨て鉢っぷりは彼が先駆者である故の、小説に対する絶望的なまでの洞察の結果であるのでしょう。
渡部氏の巻末小論は必読。 -
いや、なにこれ。
でも悪い気分でもない。
あぁ、たぶんおもしろかったんだ。 -
さっぱり訳がわからないというか、全く説明できませんが、とても面白かったです。
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ほめてもけなしても負け。読んでしまった時点で負け。面白かったといえば面白かった。最悪だったといえば最悪だった。
稀有な体験ができたんだと思う。