優しいサヨクのための嬉遊曲 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101187099

感想・レビュー・書評

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  • 「サヨク」は「左翼」であり、全共闘運動や安保闘争などの学生運動を思い浮かべる。関連して思いつく小説は、柴田翔の「されどわれらが日々」、庄司薫の一連のシリーズ、大江健三郎の初期作品、三田誠広の「僕って何」。学術書の類であるが、小熊正二の「1968」等も思い浮かべる。でも、本作「優しいサヨクのための嬉遊曲」は、それらの作品とは全く異なるものだ。
    筆者の島田雅彦は、私より2歳年下になるが、世代的には近い。大学在学も2年くらいは重なっている計算になる。本作品の発表は1983年であり、筆者が大学在学中に書かれて発表されたものである。上記に掲げた小説とは、時代背景が異なる。柴田翔や大江健三郎の作品は、1950年代から1960年前半くらいに書かれたもの。庄司薫は、1960年代の終わり、「僕って何」の作者、三田誠広は1948年生まれなので、やはり1960年代後半に大学時代を過ごしている。一方で、本作品が書かれた1983年は、左翼党派間の内ゲバ的な活動は残っていたが、社会全体に対しての、学生運動が与える影響はほとんど何もない時代である。だから「左翼」ではなく、「サヨク」なのだ。実際、この小説の登場人物たちの活動は、サークル活動のノリであり、その前の時代の「左翼」運動とは、意味合いの異なるものである。
    登場人物も誰も幼い。柴田翔や大江健三郎の小説の登場人物とは比ぶべくもなく、庄司薫の小説の主人公である高校生の「薫君」よりも、ものを考えていない。「僕って何」の主人公の頼りなさに近いものを感じるが、彼ほどの真面目さもない。幼稚な学生たちであるが、でも、自分自身の学生時代を思い出すと、確かにこのような面があった気がする。社会を知らず、真剣みが足りず、努力をせず、何となく学生時代を過ごしている。「優しさ(優柔不断さ・決断力のなさ、と言った方が良いかも)」だけが取り柄みたいな感じだ。
    島田雅彦のデビュー作。その時代の若者像の一つの典型を書きたかったのだろうか?作品の意図はよく分からない。


  • 当時の時代性を象徴する様な形骸化した学生運動の中での群像劇。
    意外と他にありそうでない、作者ならではの比喩表現や言葉遊びが軟派な硬派という印象で面白い。
    読みごたえは感じなかったが、登場人物に妙な愛おしさが湧く。

  • 島田雅彦、高校生くらいのとき一時ハマった。面白いおじさんやと思った記憶がある

  • 恋も革命も等価に馬鹿馬鹿しい

  •  のっけから島田雅彦節炸裂ですね。とことんナルシストであるがゆえの自己完結的な言葉の世界は読んでてちょっと恥ずかしい。
     結局は「愛が一番」という結末もまあ、彼は優しい(=易しい)サヨクだから許すしかないと。
     ところでこの作品は表紙も素晴らしい。ヘンリー・ダーガーの「非現実の王国で」。

  • 予想していたとおりキラキラした作品だった。
    太宰の『晩年』みたいに。

    最近市川沙央が気になる。
    今年『ハンチバック』で芥川賞をとった。
    同書はまだ読んでいない。
    図書館の予約順で62番目だ。
    その市川沙央が受賞前に
    「島田雅彦さんのファンだったことから
    『優しいサヨクのための嬉遊曲』の
    右翼版を書くも、400字詰め原稿用紙
    5枚も書けず、純文学は断念」
    とインタビューに答えている。
    20歳の頃の話だ。
    それを聞いて、スンと『優しいサヨク』を
    読みたくなった。
    ずっと読もうと思っていたものを読む。
    そういうの最近いくつかあった。
    『カラマーゾフ』『海辺のカフカ』『傲慢と善良』。
    『やさしいサヨク』は1983年芥川賞候補に
    なったときから知ってはいた。
    いつか読むんだろうなあとは感じていた。
    それが今だったということ。
    その瞬間を逃してはいけない。
    人生においてタイミングは大事だ。
    市川沙央ありがとう。

    「我々はソ連の未来に大きな期待を抱いている。
    特にソ連の一般市民にね。
    ソ連が嫌いだっていう人は多いけど、
    それはクレムリンの連中が嫌いってこと
    じゃない。
    ロシアのナロードが嫌いってことじゃない。
    ロシアは好きだがソ連は嫌いっていうのは
    そういうことだよ。
    ソ連という国家とロシアという祖国は
    ロシア人にとっては別物だからな。
    クレムリンの連中は同じものに
    しちゃってるけど」(P35)
    「彼らは支配されることに馴化して
    しまったのだ。
    国家の下でじっとおとなしくしていれば、
    自動車も買えるし、鳥小屋のようなものでも
    別荘が持てるかも知れない」(P68)
    市川沙央が本書を話題に出したのは、
    ウクライナ侵攻への彼女一流のユーモア
    だったのだろうか。

    冒頭千鳥はみどりに
    「何やってるの」と聞かれて、
    「変化屋」と答える。
    「革命家のせこいやつだね。
    革命家と違うのはね、家庭的なとこ」(P19)
    ここでふっと力が抜けた。
    表題の「優しい」はこういうことかと思った。
    この感覚が島田雅彦を評して
    「鮮烈な感性で同時代を描き、
    最も新しい世代の作家」
    という所以だろうと察した。
    物語として白眉は、
    無理が一晩ホモに体を売ったところ。
    無理の体験も「優しい」の線上にある。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18447

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA52965364

  • まだソ連がしっかり存在していた時書かれた。そして新左翼は自壊していた。そのなで家庭的に社会を変化させようとサヨク運動をする主人公が、恋愛から家庭へと取り込まれてしまう。「ハッピィエンドは架空の作りものか青い鳥のようなものらしい」理不尽に覆いかぶさる権力の前に「悩んだり、苦しんだりしたくなかったら考えないほうがいいんですって」と最後にヒロインが言う。残酷である。

  • 島田雅彦のデビュー作。割と有名だと思うのにもう絶版なのか、本屋では売ってなかった。
    サヨクという題名はついているけど、実際は思想的なメッセージはほとんど読み取れず、初心で自分に自信のない男の子が女の子をデートに誘って妄想を繰り広げたり、部室でお金に困ったりけんかをしたり、自説をひとくさり披露したり、社会活動が盛んな時代の大学生の一コマ、という退廃的な爽やかさ。
    「この活動は、アカなんですか」
    と部員の女の子に質問された時の、ヘラヘラ笑ってうまく答えられない周りの部員の動揺のシーンが、この小説を象徴する印象的な場面。

  • 少し前、近所に右翼の車が集まり、それらを取り締まる警察も集まっていた。
    スピーカーで聞き取りにくいことを、祭りのようにリズムに乗るように発して、あたりを非日常に変えていた。
    その時私は、尾崎豊の叫ぶような歌を思い浮かべた。
    そこに集まった車の中の人々は、この非日常のお祭りのようなイベントが好きなんじゃないかなと思った。
    周囲の一般車の人々の視線、歩行者の視線を集めることで高揚することはあると思う。
    スピーカーから聞こえる言葉が、分からなかった、伝えたいことがないんじゃないかと思った。

    ちゃんと聞いて欲しければ、一般車、街の歩行者に何かを伝えたければ、黒塗りの車体にそれに関するキーワードを書けばいい、スピーカーからゆっくりと分かりやすく述べればいい、プラカードを持って歩く方が意図が分かり易い。

    そうはせずに、祭りのように盛り上げようとする。
    その盛り上がりは、パーティー、祭り、ライブ、発狂、発散のようだ。

    この人たちの威圧的な車と車に取り付けられたスピーカーから流れる大きな声と音楽が、その周辺の住人、居合わせた人全員の耳に届くが、車に隠れて中の人が見えない。
    誰に届いているのかわからない。
    何を求めて声をあげているのかわからない、威圧的でうるさいから耳を塞ぐ、顔が見えない、ただの発散だろうと思い耳を塞ぐ。
    個人的発散を活動と称して発散するよりも、個人的発散をそのまま自分の生活の中で果たせたらいいんだろう。

    求める人へ想いがあるのなら、その人へ想いを発散させて。
    自分に不足を感じるのなら、自分をどうにかすることに努めて。

    それが難しいから、どうしようもないと思ってしまうことがあるから、違うところへ発散をするのか。

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著者プロフィール

作家

「2018年 『現代作家アーカイヴ3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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