ミカドの淑女(おんな) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101191133

作品紹介・あらすじ

その女の名は下田歌子。女官として宮廷に出仕するや、その才気によって皇后の寵愛を一身に集め、ついには華族子女憧れの的、学習院女学部長となった女。ところが平民新聞で、色恋沙汰を暴露する連載記事が始まり、突然の醜聞に襲われる。ここに登場するのは、伊藤博文、乃木希典、そして明治天皇…。明治の異様な宮廷風俗を描きつつ、その奇怪なスキャンダルの真相を暴く異色の長編。

感想・レビュー・書評

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  • 下田歌子という明治時代に活躍した女性を中心に、当時の宮廷風俗や世間の動きを描いた、実話に基づく話。

    明治天皇、皇后、伊藤博文、乃木希典・・とそうそうたる人々の名前が出てきて、実話か創作かよくわからなくなるが、当時の忖度だらけのドロドロした男の世界、あからさまな男尊女卑の社会で、女性ながら世間から注目を集める歌子を宮廷のみならず、世間の女性たちが応援したくなる気持ちは理解できる。

    平民新聞からの引用はそのままらしいが、当時の有力者たちと歌子の醜聞を、こんなに赤裸々というか、過激な表現で連載するとはなんと恐ろしい社会だったのか、と思わずにはいられない。

  • 【明治時代版「悪女について」】
    下田歌子を取り巻く人物達の語りで構成されている様は、有吉佐和子の「悪女について」のよう。
    巻末にもあったけど、まさに平安の朝廷と江戸の大奥が混ざり会ったような明治の皇室。
    伊藤博文や乃木希典、幸徳秋水、捨松などの登場シーンが興味深い。
    ただ、歌子本人の内面が描かれていないので、ラストも少し物足りない。

    • 海と青硝子さん
      色々な人の視点で語られるにつれて、(それも幕末・明治に疎い私でも知っている有名人が語る!)見えてくるような来ないような下田歌子の姿、私も「悪...
      色々な人の視点で語られるにつれて、(それも幕末・明治に疎い私でも知っている有名人が語る!)見えてくるような来ないような下田歌子の姿、私も「悪女について」がすぐ頭に浮かびましたよ!
      2022/09/09
  • 書きかけ










    文明開化の徒花。文明開化が徒花。     

    女子教育者の先覚者、歌人の醜聞の真相を描く異色長編、なんだそうだ。宮廷にも仕えた教育者が、時の権力者と男女の仲だったとの醜聞なのだが、男女同権に近づいたはずの現代でも醜聞なんだろうなきっと。その醜聞を載せたのが、幸徳秋水など社会主義者の平民新聞というところがもの悲しい。そうでもしないと売れなかったのだろうなどと推察。

    男女がいれば惹かれ合うのが当然、おひとりさまの推奨や女性専用車両など、何の誰の企みか甚だ怪しいと思ってしまうので、さもありなんと思うし、喧伝するのが野暮ってものだと思う。その野暮はもっと野暮な戦争中しか止まないってのがまた、悲しい。

    明治は男女共に背伸びぶりが興味深く、気恥ずかしいのだが、下田歌子は成り上がり度が際立っているため、余計に毀誉褒貶ぶりも興味深い。しかも、天皇さんの色事にまで触れて、この人を描くとは、林真理子、さすがである。背伸びして登った坂の上から、転げ落ちる寸前の世相の、まだまだ自分たちが成り上がり者だと十二分にわかって者達の悲喜劇は、もの悲しく切なく、普遍的ですらある。

    喰う寝る眠るをちゃんとしているし、結構、子供まで産み育てるし、昨今の権利ばかりを主張するアワワ

    ともかく人は喰う寝る眠るが基本的人権なのだと思うのだが、
    なので、赤線復活を切に願う、ってことでまとめにする。

    小学生の口上に、「馬鹿って言う方が馬鹿」というアフォリズムがあるが、「ふしだらとか、不潔とか言う奴に限って、そうだ」、というのはあるな。差別されている言う人に限って差別していたり、とかとかとか。

    魅力的な人がその魅力で大衆でなく、要人を手懐けるのは面白い。

    偉いぞ林真理子

    2010/04/26、読了。

  • とても面白い。冒頭から、知られざる禁中の描写に興味をそそられ、明治天皇を二人称とする恭しい文体の軽妙さに感嘆する。この華麗で含みのある文章は女性ならでは。誰もが(天皇でさえも)時勢の剛流に飲み込まれていく明治日本が描写される。

    終わりには、明治天皇と皇后の対比を元に、物語の主題が明治時代の女性と男性の戦いの構図だったことが明かされる。しかし女性軍の矢面に立った下田歌子の目的地が元いた宮中に戻ることとは、なんてスケールの小さい話ではないか。と思うけれど、それは時代が違うからこそ。作中の伊藤博文は女は結局自身の足元しか見ることができないと揶揄するが、女性が家庭から離れることをできなくしたのは男性の功罪でもある。

    明治天皇を地方の豪農と同じと笑う新聞記者や、歌子を敬愛したあまりその理想像を裏切られて一方的な恨みを募らせる元教え子等、濃い登場人物が多く登場し、読む者を飽きさせない。物語の中心に立つ歌子は、章ごとに無力な女性とも、そのものずばり妖婦とも思える。この本の面白味は、しがない下級武士の出の歌子が、ついに天皇と皇后を戦わせるほどに至ったという太閤記のような立身出世物語にある。新聞を読んだ男たちの多くが歌子の追放に動いたのは、その人脈と権力を改めて悟ったからでは。何も考えていないような顔をして、女性はその実常に計算している。そのうち大正時代に平塚雷鳥が登場し、男性たちが女性の蜂起に戦慄することを思うと更に面白い。

  • 下田歌子さんという明治時代に生きた実在の人物が描かれた小説。
    伊藤博文、乃木希典、明治天皇など、数々の有力者との浮名を流し、挙げ句の果てに、新聞に連載記事が掲載されるという、本当にあったとは思えないような本当の話がベース。

    そのスキャンダルにも興味があるが、林真理子さんの小説での描き方、テクニックも興味深い。下田歌子本人ではなく、関係のあった人々の目線での下田歌子が表現されているため、実在する人物なのに、どこかあやふやな人物に思える。

    男尊女卑の時代に、高い地位を得て、そして世間から叩かれた女性。新聞記事に振り回されたのは、下田歌子本人だけでなく、周りの人々も含まれる。ぐいぐい引き込まれる小説だった。

  • 林真理子って歴史物も書くんだ!?とびっくりした作品。

    時代は明治。宮廷勤めで皇后の寵愛を得て、宮廷を離れてからは学習院女子部の長にまでのぼりつめた下田歌子。

    華々しく活躍し、順風満帆な人生を送っているかのように見えた歌子だったが、平民新聞が彼女のゴシップをあることないこと書き立てたことによって様相が一変。記事のタイトルは「妖婦下田歌子」。そして歌子の相手として登場するのは伊藤博文、山縣有朋・・・。

    明治時代にこんなタフな女性がいたことに驚き。
    大物政治家達がスキャンダルまみれで妾がいっぱいいることにも驚き。
    そして明治天皇には側室がいっぱいいたというのにも驚き。
    (法律で一夫一妻が定められたのは明治31年、皇室では大正天皇かららしい。)

    なんか・・・明治って意外と遠い時代なんだねぇ。
    そりゃそうだよねぇ、ちょっと前まで江戸時代だったんだもんねぇ。

    主役は下田歌子なわけですが、タイトルのとおり、ミカド(明治天皇)も重要な登場人物。明治維新後の時代の流れに翻弄されるミカドや、彼をとりまく女達の悲哀が描かれています。この作品は様々な人物が下田歌子について語る形式で書かれているのですが、ミカドの語り部分が一番印象的でした。なんだか切なくなる、、、(涙)

    奇妙な宮廷風俗、天皇をとりまく人々、政界、男達と女達。
    歴史上の時代と現代との狭間にある明治という時代の雰囲気がよくわかる一冊でした。

  • 明治時代に、末席の女官から正四位まで異例の出世をした下田歌子。
    皇后にかわいがられた歌の才の持ち主で、美人でもあったが…
    学習院女子部長として生徒にも人気があったが、辞めさせた人物らの反感を買い、明治40年、平民新聞のあくどいスキャンダル報道で追い込まれます。
    伊藤博文はじめ、男性との関係はある程度事実らしいが、反政府活動の一環として利用されたんですね。
    乃木希典が学習院長だったとは。
    意外な題材で〜当時の皇室内の状況をはじめ、歌子を取り巻く歴史上の人物の知らないエピソードが面白い。
    平成5年、文庫版発行。

  • 下田歌子。明治時代、一介の士族の娘から宮中の女官に登用される。一度は結婚で宮中から離れるが、重病の夫を看ながら塾を開設。
    皇后から寵愛を受けていた歌子は、夫の死後、宮内省の辞令で「華族女学校(後の学習院女子部)」を開校する。
    歌詠みの才にたけていて、熱弁家。
    女傑と呼ばれ、伊藤博文・井上馨・土方久元・山縣有朋・・・・など蒼々たる人たちと浮名を流したと騒がれる。

    できる女は叩かれる。ましてや男社会の明治時代、世に名を残すほどの女は相当強くないと生き抜いていけない。
    幸徳秋水の「平民新聞」が、下田歌子の醜聞を流しまくったことで、この時代の大物たちがあたふたする様を克明に綴った作品。

    タブーとされる宮廷スキャンダルに踏み込んだ、林真理子の才能を感じる。

  • 下田歌子をめぐる、明治時代の人々の思わく。ラストは明治41年ですから、登場した人はそこから次々と世を去ってゆくわけですが、そこまでは語られません。

  • 明治天皇やその周りについてよく調べたであろう細かい描写は良かった
    が、ストーリーとしては盛り上がることもなく、主人公に魅力を感じず、林真理子作品の中では楽しめなかった作品

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著者プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍する。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を刊行し、ベストセラーとなる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で「直木賞」を受賞。95年『白蓮れんれん』で「柴田錬三郎賞」、98年『みんなの秘密』で「吉川英治文学賞」、13年『アスクレピオスの愛人』で「島清恋愛文学賞」を受賞する。18年『西郷どん!』がNHK大河ドラマ原作となり、同年「紫綬褒章」を受章する。その他著書に、『葡萄が目にしみる』『不機嫌な果実』『美女入門』『下流の宴』『野心のすすめ』『愉楽にて』『小説8050』『李王家の縁談』『奇跡』等がある。

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