海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101194011

作品紹介・あらすじ

ヴェルレーヌ、ボードレール、マラルメ、ブラウニング…。清新なフランス近代詩を紹介して、日本の詩檀に根本的革命をもたらした上田敏は、藤村、晩翠ら当時の新体詩にあきたらず、「一世の文芸を指導せん」との抱負に発して、至難な西欧近代詩の翻訳にたずさわり、かずかずの名訳を遺した。本書は、その高雅な詩語をもって、独立した創作とも見られる訳詩集である。

感想・レビュー・書評

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  • 美しい言葉というのは、時が経っても美しい。もちろん全部がお気に入りになったわけではないけれど。短い甘美な抒情詩に、はっとなる名訳が多い気がする。不思議なことに、漢詩を書き下して訳した名文と同じ匂いがするのは何故か。もっと現代語でも良い訳はあるだろうのに。それでも。

    『秋の日の』
    『心も空に奪はれて』

    読んでしまったら、これ以上の訳があるかいと思ってしまう。これは詩集なのだから、全部分かる必要もない。分かっても好きかどうかが大事で、この薄い瀟洒な本の中に、美しいなと思う詩がひとつでもあって、愛誦できればそれでいいのだ。少なくとも、一生あと何日生きるか知らぬが、キラキラしたこの言葉が、胸で光っていればいい。

    日本史の教科書で習う、事績としての『海潮音』でなく手に取れる書物として実感が持てたのは、ちょっと遅いが、やはりいいことだ。小難しいかなって心配をするより、読んでその絢爛たる詩に触れてみれば、きれいなものだな、哀愁零れんばかりの世界だな、と酔えるだろう。そこから先、好きか嫌いかは、訳文が旧いからと言うより、これは相性だと思う。刺さるか、そうでないか。遠い異国から打ち寄せる波の如き浪漫。

    なるほど、『海潮音』と名づくるはずだ。当時は波濤を越えてゆくしか路はなく、島国日本で読むがゆえに、行けそうな、遠くて叶わなさそうな、遥かな異国の書物であったのだもの。上田敏の知性と抒情のバランスと鋭さには、敬服した。読んでみてよかったと思う。

  • 911-U
    新着図書コーナー

  • 「山のあなたの 空遠く 「幸」住むと 人のいふ」
    カール・ブッセ、マラルメ、ボードレール、ヴェルレーヌなどフランス近代詩を訳して日本に紹介したものです。
    七五調で少し古語風なのが魅力的です。
    詩、というとハードルが高いですが、これなら照れずに読めるし、言葉が美しく音律がいいので一度読んだら覚えてしまうものも多いでしょう。
    記憶の中にわずかでもあるとしあわせなきもちになれる作品です。

    [NDC] 911.56
    [情報入手先]
    [テーマ] ちょっぴり背伸び本

  • 見事、としか言いようのない。創作の域に達していると言われるだけの名訳。確かに文語調と言うか古語に類するものもあり、最初は言葉の意味を検索しながら読まざるを得なかったが、それでも心動かされる文が多い。
    元の文は残念ながら殆ど読んだことがなく、フランス語のもの等は読めもしないが、文のテーマの深さに驚かされる。世の無情、人の非情さを歌ったものや、人の思いの深さを歌ったものが多く、読んでよかったと思えた。
    「それ人間も、残害の徒も、餌食等も、
    見よ、死の神の前にして、二つながらに罪ぞ無き。」
    「人の住むこの現世に 、 誰かまた思ひあがりて、同胞を凌ぎえせむや。
    其日より吾はなべての世の人を愛しそめけり。」
    読んだあと、しばしため息をつかざるを得ない感じであった。

  • ダイアナ「ねこ⑥」より

  • 【まとめ】
    ・訳詩の特徴: 七五調の適用
    ・翻訳の目的: 翻訳をつうじた国文学の改善、文学に対する日本人の啓蒙
    ・本書の歴史的な意義: 日本の詩壇にはじめて象徴詩をもたらした

    【感想】
    日本の近代詩にひとつの画期をもたらした点で重要な作品なのだろうとは思う。でもあいにく私は古語の感性に乏しく、現代語の枠内でしか鑑賞できないので、この訳詩集の特徴である、西欧近代詩が日本の七五調にあわさる響きの妙をうまく味わえず、読んでも字面が素通りするだけだった。高校の古文が好きな人ならもっと感動があるのかな、と思った。

  • 角川文庫版の『海潮音・牧羊神』を読んだ。

  • お恥ずかしながら「山のあなた」しか知りませんでした・・・
    上田敏て明治の文筆家だったんだな・・・
    どうりでこの・・・文語調・・・

  • 山のあなたの 空遠く
    「幸」住むと 人のいふ

    久しぶりに詠みたくなったので。

  • ここからとられたアンソロジーで、いくつかの詩にはなじみがあったが、全文を読むのは初めて。「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し」と詠った朔太郎は、この詩集を読んで何を想っただろうか。ルコント・ドゥ・リイルなど、高踏派の詩人たちの訳詩は、あまりにも大時代だが、ボードレールやヴェルレーヌ等の象徴派の詩は、今も切々とうったえかけてくるものがある。ことにマラルメの『嗟嘆(といき)』の浪漫的な象徴性は、白秋や朔太郎の詩にその面影を求めることができる。「淡白き吹上の水のごと、空へ走りぬ」。

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