春風ぞ吹く―代書屋五郎太参る (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101199214

感想・レビュー・書評

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  •  時は江戸。
     微禄の小普請組の青年・村椿五郎太の恋と学問の日々を描いた時代小説。
     先祖の失態によって懲罰的に小普請入りとなった村椿家の後嗣である五郎太は、無役の身をかこち、代書の内職で糊口を凌ぐ傍ら、御番入りをするべく学問所に通い、勉学に励む毎日。
     幼なじみで相愛の紀乃とは不用意に擦れ違い、学問の目的を見失いかけ、自信を失くして苦悩する姿は、いつの世も、若者の悩みは大差ないことを示している。
     将来を憂えて不安に惑いつつも、代書屋の仕事仲間や学問の師匠たちと深く関わり合う中で、不器用ながらも成長していく五郎太の真面目さや誠実さが光る。
     人との縁や繋がりを大切にすることで、道が開けてゆく結末は爽やかで、江戸時代の青春小説の趣がある。

  • 春風ぞ吹く…まさに読み終わった時の感想はこの一言に尽きる。

    なんて素敵な物語だろう!

    宇江佐真理さんの作品を読み続けていると、こうして完結している作品の収まりの良さのようなものに、しみじみと喜びを感じます。

    宇江佐真理さんがもしもこの先を描き続けることができたなら、どんな風景を見せてもらえたのだろう?と、残念な気持ちになる作品もあるのですが、それはもう、読んでいる自分が心に思い描くよりほかないのです。宇江佐真理さんがもしも今も書き続けていられたなら、それがどんな結末であったとしてもきっと僕が思い描くような結末でなかったとしても、しみじみと心に沁みる結末なのだろうと思います。

    この作品を読んで、この収まりの滑らかさはきっとどの作品にも存在したのだろうと思わされました。

    何度も繰り返し読み返したい作品、それが宇江佐真理さんの紡いできた世界なんだと改めて思わされました。

    素晴らしい作品です。

  • 「無事、これ名馬」を先に読んでしまってから知った本作だったけれど、かぶるものが無くて何よりでした。
    宇江佐さん得意の市井もの、ハッピーエンドは何よりでした。
    「無事、これ名馬」で主人公の太郎左衛門を詰る母親が、本当に本作の紀乃なのかと思わず読み返してみた。

  • 村椿五郎太、25歳。先祖の不始末といまいち野心に欠ける遺伝子が災いして、うだつのあがらぬ小普請の身。目下の目標は、学問吟味に合格して御番入りを果たすこと、なのだが、文茶屋での代書屋の内職も忙しい。そんなのんびり男を焦らせたのは、幼なじみの紀乃。学ならずんば、恋もままならず――。どうする、五郎太! 代書屋に持ち込まれる騒動、そして一進一退の恋と学業の行方や如何に。
    (2000年)
    — 目次 —
    月に祈りを
    赤い簪、捨てかねて
    魚族の夜空
    千もの言葉より
    春風ぞ吹く

  • 各エピソードに必ずほろりとさせられる情景やセリフがあるところが心地よい。(HPの日記より)
    ※2006購入
     2006.11.2読書開始
     2006.11.11読了
     2009.4.30売却済み

  • 先祖の不始末から長く小普請組の役なしに甘んじている村椿家。村椿五郎太は昔から隣に住む同じ小普請組の俵家の紀乃を好きだった。だが、その兄が役付きになってから、五郎太の母里江と俵平大夫は以前から仲が悪い。平大夫が息子が役付きになったものだから威張って息子自慢を声高にするからだった。

    紀乃に縁談がくる。五郎太はそこから学問吟味に合格するのが最大の目標となる。。。。。


    当時の学業選抜制度や無役と役付きの違いなども詳しく事情がわかる。

    宇江佐さんの優しい文章はいつ読んでも、心ほぐれる。

  • めでたしめでたし。

  • 青春小説でしょうね。どこか間抜けな、でも人の良い五郎太と紀乃の恋愛物語です。
    なんだかフワフワして、徹底的に軽い。そのせいで後には残るものは無いけれど、楽しく読める娯楽小説と言うところでしょう。

  •  この著者安定の市井もの。友人の水茶屋で代書屋のアルバイトをしながら御番入り目指して学問吟味試験勉強に励む五郎太をめぐるエピソード。五郎太もそうだが脇役が中々粒ぞろいで、そのやりとりだけで楽しめる。気の強い母親の里江が犬猿の仲の嫌味な平太夫に切る啖呵など胸がすく。めでたく試験に合格して望みの娘を妻に迎えるに至るハッピーエンドの最終話はまあ予定調和というところだが、一つ前の「千もの言葉より」がホロリと泣かせる。

  • 時代小説なのに、剣豪が主人公で無く、この本は代書屋が主人公である所が面白い。

    村椿五郎太のご先祖は、農民であったが、徳川家康の家臣に使え主の姓名の村椿を承るが、数代前の先祖が、料理屋に刀を忘れると言う失態から、小普請組に落とされてしまった。
    それが、ズ―っと尾を引いて、いつまでも小普請組で、幼馴染の紀乃とも結婚が出来ないのである。

    小普請組は、職禄が、つかないので、生活は苦しい。
    武士の内職として、代書屋をするのだが、、、学問の吟味に合格の暁には、、、結婚出来るのを夢見ながら、勉学に励む。

    恐れ入谷の鬼子母神で、おなじみの大田南畝(蜀山人)も出てきて、この当時の、不穏な政治の在り方も、少し記載されている。
    勉学が出来、秀才であろうが、武士の世界も大変なようであったのが、小説の中で触れている。
    蜀山人の本も、読んでみたいと、思った。

    又、五郎太が、男であり、武士なのに、涙を見せるのは、、、少し意外だったが、喜怒哀楽が、表現出来て面白かった。
    汚名返上で、見事、結婚出来た事に、ホッとした。
    努力が実るって、素晴らしい。
    我が胸にも、春風が吹いた気になった。

    宇江佐真理氏のこの本の題名に、「春風ぞ、、」の「ぞ」にこだわりが、あり、「春風は、、」でも無く「春風は、、」でも無いとのこだわりは、本の最後に書かれているので、、、読んだ人は、、、「ぞ」と、した所を、考えて欲しい。

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著者プロフィール

1949年函館生まれ。95年、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2000年に『深川恋物語』で第21回吉川英治文学新人賞、翌01年には『余寒の雪』で第7回中山義秀文学賞を受賞。江戸の市井人情を細やかに描いて人気を博す。著書に『十日えびす』 『ほら吹き茂平』『高砂』(すべて祥伝社文庫)他多数。15年11月逝去。

「2023年 『おぅねぇすてぃ <新装版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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