月下の一群 (新潮文庫 ほ 3-1)

  • 22人登録
  • 3.69評価
    • (3)
    • (3)
    • (7)
    • (0)
    • (0)
  • 4レビュー
制作 : 堀口 大學 
  • 新潮社 (1955年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101200019

月下の一群 (新潮文庫 ほ 3-1)の感想・レビュー・書評

  • ▶松岡正剛<千夜千冊


     川島忠之助がいた、中江兆民がいた、森田思軒がいた、黒岩涙香がいた。それから永井荷風があいだに入って、堀口大學になる。これがフランス語が美しい日本語に乗せていった最初の冒険者たちの顔ぶれだ。
     ドイツ語はなぜか演劇を通した。シラーの『ウィリアム・テル』を斎藤鉄太郎が、『メアリー・スチュアート』を福地桜痴が訳し、それから土方与志や村山知義に移っていった。これにシェークスピアの坪内逍遥やアンデルセンの森鴎外が加わってくる。
     けれども詩人の魂を紹介したのは、なんといっても上田敏・永井荷風・堀口大學だった。

     これほど一冊の翻訳書が昭和の日本人の感覚を変えるとは、堀口大學自身も想定していなかったろうとおもう。
     しかし上田敏の『海潮音』が明治の文芸感覚を一新させていったように、大學の『月下の一群』は昭和の芸術感覚の全般を一新していった。たとえば、こんなふうに。

       ポオル・ヴァレリイ「風神」
         人は見ね 人こそ知らね
         ありなしの
         われは匂ひぞ
         風のもて来(こ)し!

     上田敏同様、また永井荷風の『珊瑚集』同様、大學が自分で詩人と詩を選んだのがよかったのである。そして新しい時代の詩語としての日本語を。
     しかも「いいとこどり」。これを編集手法ではアンソロジーとかオムニバスというが、明治のロマンティストたちはたいていは、こうした組み立て、組み直しが好きだった。正確に翻訳しようなどというのでなく、ともかく日本語として蘇らせたかったのだ。
     実際にはいま読める『月下の一群』は改訳と再構成によって、大正14年の第一書房初版本とはだいぶん変わっているのだが、それでも意味の醍醐味に突っこんで言葉を的確にあてがう大學流ともいうべき訳業の二、三を見てみれば、『月下の一群』がどんなに清新であったかは、すぐ伝わってくる。

     ギィヨオム・アポリネエル「蝗」
       これは上品な蝗(いなご)です
       サン・ジャン聖者の食物(たべもの)です
       私の詩歌も蝗のやうに
       立派な人たちの腹のたしになればよい

     フランシス・ジャム「哀歌」
       雨がふった
       大地はよろこんでゐる。
       万物は輝く。
       薔薇の花弁の一つ一つに
       一滴づつ露がたまつて
       重たげに傾かせる。
       でもまた
       暑くなりさうだ。

     レエモン・ラディゲ「頭文字」
       砂の上に僕等のやうに
       抱き合つてる頭文字
       このはかない紋章より先きに
       僕等の恋が消えませう

     ジャン・コクトオ「シャボン玉」
       シャボン玉の中へは
       庭は這入れません
       まはりをくるくる廻つてゐます

     ジュウル・ラフォルグ「最後の一つの手前の言葉」
       宇宙かね?
       ――おれの心は
       そこで死んでいくのさ
       あとものこさずに‥‥。

     キリがないのでこのへんにしておくが、翻訳がうまいというだけでなく、シャルル・クロスをふんだんに採用したり、フランシス・ピカビアやマリー・ローランサンを加えるなど、その好みの配分が抜群であった。33歳のときのアイディアである。
     もっとも大學の訳詩は、その後はアポリネール詩集、コクトー詩集、シュペルヴェイル詩集からランボオ、ボードレール、モーランその他に及んで、主要なフランス詩人を踏破してしまったおもむきがある。サン・テグジュベリ、ルブランのルパン・シリーズを全訳もした。

     大學の出発点のすべては、内藤鳴雪に惹かれて中学生のころからの俳句づくりと、18歳で入った新詩社にある。
     そのころの新詩社は与謝野鉄幹が8年にわたって続けた「明星」廃刊後に、新た... 続きを読む

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101200017
    ── 堀口 大學・訳詩集《月下の一群 195506‥ 新潮文庫》
     
    (20100819)

  • 素晴らしい訳詩集。

    私の耳は貝のから 海の響をなつかしむ

    知らない人がないんじゃないかという名文

  • 文章を書く前のインスピレーションを得るのによく読みます。
    堀口大學はやっぱすげえ。

全4件中 1 - 4件を表示

月下の一群 (新潮文庫 ほ 3-1)はこんな本です

月下の一群 (新潮文庫 ほ 3-1)の文庫

ツイートする