- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101206165
作品紹介・あらすじ
「そんな珍しいもんちゃうで」少し寂しげに笑いながら、女は口を開いた――。生家は関西で戦前から続く博徒(ヤクザ)の組織。少女時代は男顔負けの喧嘩(ゴロ)と薬物(クスリ)に明け暮れた。一度は幸せな家庭を築くが、浮気がきっかけで再び覚醒剤(シャブ)に手を出し、逮捕される。「大学」という名の刑務所での生活、そして出所後に見つけた自らの社会的役割とは。昭和ヤクザの香り漂う河内弁で語られる濃厚な人生。
感想・レビュー・書評
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『組長の娘―ヤクザの家に生まれて』の著者、廣末登氏は「~だから」といふ表現を嫌ふさうです。「かつて不良だつたから」「ムショ帰りだから」などといふ偏見と先入観で語られるのは好かんといふ事ですな。過去に縛られて未来への道を閉ざされる事があつてはならない。本書を読めばそれが良く分かります。
廣末氏が取材したのは、代々ヤクザの家に生まれた中川茂代(仮名)さん。ヤクザといつても、現代の暴力団とは違ひます。任侠道を貫く、専ら賭場のみで収入を得てゐた、本物のヤクザであります。茂代さんは少女時代にグレ、喧嘩は日常茶飯事、ドラッグにも手を染めます。後結婚し子宝にも恵まれました。
ところが、スホ(仮名)なる男性と心ならずも関係を持つてしまひます。茂代さんは、この時のことを「反省、反省」と述べてゐて、彼女の人生の中でも相当イタイ経験だつたと想像されます。
それが引き金となつたか、再びシャブ(覚醒剤)に手を染めてしまふ。そして逮捕。罪名は「覚せい剤営利目的有償譲渡」といふもの。本人としては、執行猶予がつくのではないかと淡い期待をもつてゐましたが、弁護士から「最低でも四年ですよ」と伝へられ、覚悟を決めます。求刑6年、判決5年、控訴せずといふことで、ムショ行が決まりました。
この世界では、刑務所の事を「大学」と呼称するらしい。他にも色色な符牒が紹介されてゐて、頭がくらくらします。母親からは、変な騒ぎを起こして懲罰だけは喰らふな、といふアドヴァイスを忠実に守り、我慢我慢の日々でした。この母親は「最後の女侠客」と呼ばれ、茂代さんが最も恐れた人物ださうです。
そして待ちに待つた仮釈放。この時、母親との再会は実に感動的で、良かつたねとつひ声を掛けたくなるのでした。
その後の茂代さんは、暴力団離脱者を支へる活動をしてゐるとか。さういふ人達は仕事が中中ない。そこで駆け込み寺ではないけれど、茂代さんの元を訪ねるのです。茂代さんは彼らに食事を与へ、話を色色聞いて励ますのです。
彼女の存在が無ければ、また曲つた生活に戻つたであらうと語る人もゐました。
関西人らしく、ユウモワを適度に交へながら、自虐的でもなく露悪的でもなく、自らの人生を語る本書を読むと、この人は優秀な人で、ヤクザの家に生まれなかつたならば、もつと早くに幸せを掴んでゐたのではないでせうか。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-783.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
犯罪社会学を専門とする研究者の著者が、「社会病理集団離脱実態の研究」のためのフィールドワークとして行った聞き取り調査を元に、「組長の娘」のライフヒストリーをまとめた本。
ヒロイン・中川茂代の半生がじつにいきいきと綴られており、その語り口が非常に魅力的だ。学術研究の一環として作られた本ではあるが、単純に聞き書きノンフィクションとして楽しめる。
聞き書きノンフィクションの傑作といえば、竹中労の『鞍馬天狗のおじさんは――聞書アラカン一代』がまず思い浮かぶ。これは、同書に匹敵する熱量を持った書である。
ヒロインの語りが、河内弁の乾いたユーモアと小気味よいリズムの中に写し取られており、読み出したら止まらない面白さだ。
例として、ケンカと薬物に明け暮れた少女時代の思い出を綴った章の一節を引こう。
《いきなし茶色の物体でガーンいうて顔殴られてんねん、歯折れたわ。よう見たらレンガやで、レンガ。無茶苦茶やわ。うち、顔面お岩さんで家帰るわな、前で水撒いとるお母ちゃんに当然発見されるねん。第一声、「茂代、あんた勝ったんか、負けたんか」言いよる。普通やったら「茂代ちゃん、あなたどうしたのその顔、お医者さんいきましょうねえ、まあ、可哀そうに」くらい言うのがお母様や。うちのお母ちゃんの場合は、「負けたわ」いうとな、「もう一遍行って来い! このヘタレが」言いよるねん》
……こんな感じで、刑務所生活などがいきいきと振り返られており、読み物として上出来。 -
星2は申し訳ないかな。
多分、姉さんの話だけに絞ればもっと面白い。
だけどそれを元ヤの更生に社会の支援が必要だって変な論調が加わると一気に変になった。
姉さんの話は半分くらい。そこになんか敢えてドラマにするようなもんは何もない。本としてはね。
著者の主張に何ら異論はないしその通りだと思うけど、本としての構成は、下だとしかいう気がしない。 -
大学で非社会的勢力に関する研究をしている著者が、とある女性(ヤクザの組長を父に持つ、前科持ち)にインタビューした内容等をまとめたもの。
その女性の体験が一般人とはおおよそ異なることを押しにしているようだけど、そこまで突飛な内容ではない。
同じこういう系の本を読むならば、宮崎学の本の方が色々な解説もあって参考になるのでは。 -
ヤクザがヤクザらしい役割を担える日はもう来ないかもしれない、と著者はいう。
ヤクザが必要悪かどうかという問題はこれまでずっと議論されてきた。僕自身明確な答えを持ってはいないけど、ヤクザしかできない人がいるのは確かだと思う。
仕事柄、ヤクザの人たちと話すことがよくある。誤解を恐れずに言うと、心根が腐っているようなヤクザにあまり出会わない。色々昔話を聞いていると、あぁ、ヤクザにしかなれなかったんだなと同情する部分も多く、義理人情にあつい人も多い。
だからと言って、やっていることが許されるわけではないけれど、この本に出てくる茂代さんのような人がいれば、もっといい方向に変われるのではないかと思う。
自分にも何かできるのではないか、そう考えさせられる一冊でした。
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#2016年98冊目 -
組長の娘に生まれ、自らも逮捕、収監の過去をもつ女性の半生をヤクザ研究者の著者が、一人称で綴ったもの。まあまあ面白いのだが、後半の方の研究についての話は、前半と全く違って退屈。
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エンタメと勘違いで購入
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犯罪社会学の論文のような構成でありながら、本論部分は中川茂代の口語調で綴られるノンフィクション。
内容は面白いのだが、非常に読みにくい。その理由は関西弁での口語調であるのと、やたらと注釈が多いことにある。
結局、論旨は何だったのか。出来の悪い学生の卒論を想像すれば良い。