磁極反転の日 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101207612

作品紹介・あらすじ

地球のN極とS極が反転し始めた。大規模地磁気嵐が発生し、東京上空にオーロラが出現。異様な寒冷化と降り注ぐ宇宙線に不安が広がる中、女性記者浅田柊の耳に奇妙な話が聞こえてくる。都内の病院から妊婦たちが次々と失踪しているというのだ……。謎の団体、脳科学の闇、不可解な妊婦の死。取材の果て、柊が突き止めた恐るべき真相とは。パニックSFの新たなる傑作。『磁極反転』改題。

感想・レビュー・書評

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  • 先が気になってどんどん読んでしまうくらいは引きがある。
    が、作者があとがきでも触れているけれど、磁極反転はありふれたことというように、先に進むにつれてSFとはいえスケールが小さいまま進んでいく。
    ページ数は少なくはないけど、最後はあわただしく畳み込まれていって、それも物足りない原因か。
    主人公は良いとして、脇役の役人の2人、重要な役割なんだけど、え…そんなものと感じた。乾さんなんか凄そうな雰囲気だけ出してその実なんにもしてないような…。
    結構前に出ててような気がしてたけれど、東日本大震災後だけどコロナ前の話…同時代を生きた人による物語。書店や図書館には存命の作者の小説しか置いてないことを鑑みるに、この先いつまでこの本が棚に並んでいるのかなと思った。

  • 伊予原新を期待して読んだら、ちょっと残念だったが、これは過去作でしかも結構初期の小説なので、覚醒する前と考えれば妥当な出来かなぁと。

    パニックSF…というと、妙な方向に期待してしまう(マイケルクライトンとか)し、三体とか読んでしまっていると、地軸反転くらいなんぼのもんやねんと思ってしまうし、不利な状況もあって、乗り切れないとこもあるんかなぁ。

    とはいえ、今の伊代原小説の片りんは伺えるのと「科学者にとって科学はプロセスだが、一般人にとって科学は結果だ」という言葉など、得心の言葉や状況もちょいちょい出てきてそれは良かった。

  • 『いい信念は合理的だから、手強い。ダメな信念は非合理的だから、やっぱり手強い』―『Phase Ⅱ 白と黒』

    地磁気の逆転について学んだのは何時の頃だったか。当時の高校地学で学んだ記憶はないが、学部移行して入った学科に古地磁気を研究している助教授が居たのでやはり大学に入ってからか。少々古臭い話だが、その先生の所属していた講座はプレートテクトニクスを認めないことで有名だった学派の流れを汲む教室であったのだが、その中で古地磁気の研究をするというのは異質であっただろう。学部生向けの論文購読を担当していたその先生は、当時は目新しかった隕石衝突による中生代から新生代への移行(あるいはKT境界問題)についての論文や温室効果ガスについての論文なども課題に出したりしていたのだが、結構思うところがありながら学生に接していたのかなと、「磁極反転」と聞くと今更ながらの思い出に耽ったりしてしまう。

    南アメリカ大陸の東海岸とアフリカ大陸の西海岸の形状に注目してウェゲナーが提唱した大陸移動説が、今現在理解されているようなプレートテクトニクスによる学説として認知されるようになった大きな切っ掛けは、大西洋の中央海嶺東西で確認された地磁気のパターンの対称性だ。それまでにハワイ諸島に連なる太平洋の天皇海山列の成因や大西洋中央海嶺上に位置するアイスランドでの火山列の観測などから大陸やそれを乗せたプレートが動いているとの推察は成立していたが、大西洋に広く観察される地磁気の縞模様が過去に記されたプレート移動の記録として認識され、プレートテクトニクスを時間軸にピン止めされた動きとして確立する決定打になった。その縞模様こそ過去に地球が経験した地磁気の反転の記録であると知ったのが学生の頃だった。

    著者がそんな古地磁気の研究者であった為であろうが、双極性地球磁場反転に関する文章には真実味が宿る。例えば小松左京の「日本沈没」が似たような小説として思い浮かぶが、プレートテクトニクスが欧米では認知されているのに対して日本では未だ学説の統一的見解が示されていなかった状況で出版した「日本沈没」が、沈み込み帯というプレートテクトニクスで説明される日本周辺の地球科学的環境を使っていながら、やや非現実的な空想科学小説で来るべきディストピアを描いて見せたのに比べ、伊与原新の「磁極反転の日」は、時期の問題を除けば、非常に現実味のある設定で話が構成されている。それが現実味を帯びていることを知っている者には、空恐ろしい程の近未来小説とも読めるけれど、地球が過去に何度も磁場の反転を経験していることを知らないものには単なる空想科学小説と読めてしまうのかも知れないと思うと、より一層寒気立つ思いがしてくる。

    『科学者と一般人の間のディスコミュニケーションも、たいていそこから始まる。科学者にとって、科学はプロセスだ。どの段階であろうと、修正もあれば棄却もあり得る。でも、一般人にとって、科学は結論だ。しかもそれは、誤謬のない価値ある成果でなければならない。お互いがその違いに気づこうとしない限り、ディスコミュニケーションは続く』―『Phase Ⅳ 急転回』

    思えば、気候変動に関してもかつての大陸移動説同様に、肯定するものも否定するものも、決定打となるような証拠を掴めていないのではないかという気がしてならない。もちろん、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第6次報告で示したように、最近の温暖化の拍車に人類の活動が与えた影響は無視できないだろう。しかし原始地球の大気から見れば一貫して二酸化炭素の分圧は下がり続けており、それに従って地球が寒冷な環境により長く晒されるようになってきたというのも既に様々な証拠から確認されている事実。小説の中でも語られるが、自分たちが学生の頃は、地球は氷河期に向かっている、とよく語られていた(正しくは、「氷期」に向かう、だが。大陸上に氷河が観察される今現在も260万年前から続く「第四紀氷河時代」であり、今は比較的温暖な「間氷期」に当たる)。二酸化炭素の濃度が気候変動に与える影響が大きく議論されるようになるまでは、太陽活動の変移や、地軸の傾きの揺らぎや公転軌道の変動などの周期を組み合わせたミランコビッチ周期によって氷期-間氷期の変遷を説明する説が一般的だったが、今盛んに行われている脱炭素を巡る議論をする人々の中にどれ位過去の中長期の変動を踏まえて議論をしている人がいるのだろうか、と老婆心ながら心配になる。ハブを駆除するためにマングースを放つというような、自然を完全に制御可能なものとして扱う人間の傲慢さが出なければよいと思うことしきり。小説の中で、時折登場人物に語らせる自然観や人間の思考の傾向に関する見方が、どうも元地球科学者としての著者の本音であるように感じてしまうのは穿った見方だろうか。

    そんな個人的な思いに絡め取られ易い小説ではあるけれど、作家の代表作の短篇集に比べて大掛かりな設定、かつ幾つものエピソードが同時進行で共鳴しながら進んでいく運びは非常に刺激的。ちょっと学術用語(英語で言うところのjargon)が多くて一部の人には苦になるかもと思いつつ、それを乗り越えてこそのグローバルな環境変化に対する議論の在るべき姿じゃない、とも思う。

  • 地球の磁極反転に端を発するSFパニック小説

    SF小説というよりは、実際に起こり得るif小説という方が適切だと思う
    磁極反転に関しては、小説の中だけの荒唐無稽なものではないし、その影響もちゃんと科学的見地に基づいている

    地磁気の減少が観測され、78万年ぶりに磁極反転する予測が出される
    地磁気の磁極が反転する現象は地球の過去において何度も起こっているありふれたものだが、電子機器を前提にした現代においては甚大な被害をもたらす
    東京で赤いオーロラが観測されたり、通信障害、電子機器の故障、人工衛星の落下など様々な影響が発生する

    週刊誌お抱えのフリージャーナリストの浅田柊は地磁気の減少による影響を煽る記事の専門として取材をしている最中、影響を心配していた妊婦がいきなり失踪したりという事件を耳にする
    妊婦の行方を探すと共に、謎の団体が山に集まっていたり、政府関係からの圧力などが感じられる事態になり……

    地球の磁極反転の影響、そして失踪した妊婦の行方の真相とは?


    東日本大震災の後に書かれたものなので、当時の混乱や迷走っぷりをベースに人々の反応や行動が描かれていると思う
    放射線に対する不安とそれに過剰に反応する人、科学的にあまり意味のないものを商売にする人等など
    また、作中で描かれる社会の混乱はコロナ禍も彷彿させる
    陰謀論やデマ、政府や公的機関の出す情報の信憑性への疑問など、どんな状況でも現代の人々の反応は似たようなものになるだろうなぁとも思ってしまう

    科学的な態度、冷静な対応というのはどんなものかも考えさせられるなぁ
    トンデモな説を信じるのもダメだけど、公的機関の発表をただ鵜呑みにすることが正解とも言えないような気もする


    地球が地磁気を持つ仕組みや地軸と磁極の関係をなんとなくは知っていたけど、読んでより理解が深まる
    ただ、地磁気の反転が起こるメカニズムに関しては未だに未知の領域らしい
    そして、磁極反転が地球史という視点で見たら珍しくない現象であり、現在の磁極期が平均を超える期間続いているため、いつ磁極反転が起こってもおかしくない
    また、磁極反転の急激な進行も過去にはあるというのが、この小説を読んでいてゾクッとしたところ
    科学ホラーという新たなジャンルの怖さかもしれない

    宇宙線の影響で大気が電離し、氷結核が発生することで過冷却状態の水蒸気が凝結
    その結果、雲の増加、日照量の減少、そして寒冷化というシナリオなども可能性としては理解できる


    作中で描かれている役人の理屈も私の抱いているイメージと合致する
    省庁同士の縄張り争いや予算への影響の懸念とかね
    でも、実際どうなんですかね?
    ここまで甚大な影響力のある事態に対しては、省庁を横断した対策本部や連絡組織みたいなのが作られたりしないんですかね?



    個人的に響いたフレーズは2つ
    ---------------------
    「科学者にとって科学はプロセスで、どの段階であろうと
    修正もあれば棄却もあり得る。でも一般人にとって科学は結論」
    ---------------------
    これなんだよなー

    ニュートン力学が量子力学によって修正されたように
    あくまで「現時点での確からしい事」なんだよな
    どれだけ基礎的な既存の既知の事柄でもパラダイムシフトは起こり得るわけで
    その情報の永続的な信憑性に関しては誰も保証できない


    ---------------------
    「いい信念は合理的だから、手強い。ダメな信念は非合理的だから、やっぱり手強い」
    ---------------------
    わかる
    新型コロナウイルスにしても、陰謀論を信じる人達や科学者の中でも独自の信念で動いている人達は手強いだろうなぁと思う

  • 太陽の黒点フレアが強まり、電波を使う機器が時々使用できなくなる日が多くなった世界。新宿でふと見上げると、空にはオーロラがかかっていた。地磁気が弱まってきていたのである。地球の地磁気がゼロになっていく世界で、宇宙天気を専門とするサイエンスライター浅田柊の周りでは、妊婦達が姿を消していった…。

    背表紙タイトル買い。これは絶対にSF読みはスルーできないタイトルである。そして、中身もなかなかに濃い。

    地球物理学を専門としていたという作者の専門をいかんなく発揮した一冊である。地磁気が無くなっていくという、普段当たり前のものがなくなり、それに伴うパニックとパニックに乗じた混乱。ちょうど2011年の福島第一原発事故で起こった、世間の不安と、過剰な反応などをうまく取り入れ、思い込みの怖さを描いている。

    あのときの日々の放射線量への異常な反応は、日本人(とくに東北関東の人)でないとわからなかったし、あれを経験しなければ、こういう作品も生まれなかった。いい思考シミュレーションの題材となったということだ。

    そういう意味でも、御大小松左京の作品を思わせる作風で、こういうものが書ける作家はもっとがんばってほしい。梅原克文なんかもそうだよね。日本の作家には少ないんだよな。

    本作の中でおもわず唸らされたのは、秘密の医療施設に乗り込んだ際に、医師たちは「関係者以外は出ていけ」と言わないのだ。「中にいる人が危ない」と言われると協力する。実際に謎の実験が行われていたとしても、末端の手を下している人たちは善良で、患者の命が優先であるという描き方が出来ている作品はなかなかないと思う。

    もちろん小松左京に比べると足りていないところもあり、地磁気以外の部分、例えば遺伝学や発生学の部分であるとか、厚労省や文科省の内部の組織のこと、雑誌編集部や研究室のことなど、地磁気や太陽フレアなどの部分に比べると、どうしてもふわっと曖昧な表記が多いため、リアリティがないのだな。

    でもまあ、こういう作品が書ける小説家にはがんばってほしいので★5。

  • かなり面白かった。確かに人を選ぶかもしれないけど、研究者の発想をドラマ仕立てに書くと、まさにそう!ミステリと風刺とアカデミア、そのバラバラの話が一つにまとめられていて同時に楽しめた。

  • 2018/3/1半分くらいまで読むがパニックのようなものは無くダラダラ、期待外れでやめる。

  •  地球物理学の本としてとても面白かった。多くの新知識を得られたのがうれしい、という小説読後の感想とはちょっと違う感じを持った。
     今まで全く興味のなかった分野で、なぜ本書を読もうと思ったのかは不明。しかし読んだらおもろかった。小説としてのストーリーの印象がかなり薄いくらいに、地磁気やらフレアだのと言った専門用語にひかれた。

  •  地球の磁極反転による人類の大混乱の様子にしては、迫力が足りない、なぞの宗教団体、失踪した妊婦たちの件は、この緊迫した状態を表現するには役不足である。そういうこと(なぞの宗教団体、失踪した妊婦たちの件)はあるかもしれないが、地球の終末の小説だとしたら、もっと過激である方が好みだった。

  • 題材はとてもおもしろい。大げさな世界設定の中で静かな日常が流れるという様式はよろしいけれど、裏でもっと騒動が起きているというのが見たかった。
    ミステリ部分はやや蛇足。見せ方と引っ張り方が腑に落ちない。

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著者プロフィール

1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。19年、『月まで三キロ』で第38回新田次郎文学賞を受賞。20年刊の『八月の銀の雪』が第164回直木三十五賞候補、第34回山本周五郎賞候補となり、2021年本屋大賞で6位に入賞する。近著に『オオルリ流星群』がある。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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